第20話 始まりの恒一と、選ばれなかった未来
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雨の匂いが濃く漂う夜の道路。
車のライトが迫り、少女の泣き声が響く。
恒一は、あの日と同じ光景の中に立っていた。
だが――そこには“もうひとりの自分”がいた。
始まりの恒一。
少女を助ける前の、自分。
彼は少女を見つめながら、
静かに、しかし確かに言った。
「……俺は助けない。
だって、死ぬのは嫌だから」
恒一は息を呑んだ。
「お前……本当に俺なのか?」
始まりの恒一は振り返り、
冷めた目で恒一を見た。
「俺だよ。
“選ばなかった俺”。
死ぬのが怖くて、少女を助けなかった未来の俺」
◆選ばれなかった未来
「助けなかったら……どうなる?」
恒一が問うと、始まりの恒一は肩をすくめた。
「どうもならないさ。
俺は生きる。
少女は……まあ、運が悪かったってことだろ」
「そんな……」
「お前は“助けた俺”だろ?
でも俺は違う。
俺は“助けなかった俺”。
死ぬのが怖いのは当然だろ」
恒一は拳を握りしめた。
「でも……お前は後悔するはずだ」
「しないね」
始まりの恒一は即答した。
「俺は生きてる。
それで十分だ」
その言葉に、恒一の胸が痛んだ。
――これは、本当に“俺”なのか。
◆影の囁き
そのとき、黒い霧が道路の端から立ち上がった。
影の声が響く。
――つなぎ手よ。
――これが“おまえの始まり”だ。
「違う……こいつは俺じゃない」
影は笑う。
――おまえは“偶然”少女を助けただけ。
――ほんの一瞬、恐怖よりも衝動が勝っただけ。
――もしその瞬間がなければ……
――おまえはこの“助けない恒一”だった。
始まりの恒一は影の言葉に頷いた。
「そうだよ。
俺は死にたくない。
だから助けない。
それが普通だろ?」
恒一は震える声で言った。
「……普通でも……正しくなくても……
俺は助けたんだ。
それが俺の“始まり”だ」
影は冷たく囁く。
――ならば証明してみせよ。
――“助けなかったおまえ”を越えられるのか。
◆始まりの恒一の本音
始まりの恒一は、
少女を見つめながら呟いた。
「……本当は、助けたいよ」
恒一は目を見開いた。
「じゃあ――!」
「でも怖いんだよ。
死ぬのが。
痛いのが。
何も残せずに終わるのが」
始まりの恒一は震えていた。
「俺は……弱いんだ。
お前みたいに“選べる”ほど強くない」
恒一はゆっくりと近づき、
始まりの自分の肩に手を置いた。
「弱くていい。
怖くていい。
俺だって怖かった。
今だって怖い」
始まりの恒一は顔を上げる。
「じゃあ……どうして助けたんだよ」
「助けたいと思ったからだ。
それだけだ」
始まりの恒一は震えながら呟いた。
「……俺には……できない……」
◆つなぎ手の選択
影が囁く。
――さあ、つなぎ手よ。
――“助けなかったおまえ”を越えられるか。
車のライトが迫る。
少女が泣き叫ぶ。
あの日と同じ瞬間が、
再び訪れようとしていた。
恒一は深く息を吸い、
始まりの自分に言った。
「お前は助けなくていい。
その役目は――
俺がやる」
恒一は少女へ向かって走り出した。
雨の中を、
あの日と同じように。
だが――
今回は違う。
影が叫ぶ。
――やめろ!!
――始まりを越えるな!!
黒い霧が恒一を引き戻そうとする。
その瞬間――
リオの声が響いた。
「恒一さん!!
行ってください!!」
聖剣の光が裂け目の向こうから差し込み、
影の霧を切り裂いた。
恒一は少女を抱き寄せ、
迫る車の光の中へ飛び込んだ。
◆始まりを越えた瞬間
衝撃――
痛み――
雨の匂い――
すべてが混ざり合い、
世界が白く染まった。
そして――
恒一は気づいた。
少女は無事だった。
自分の腕の中で震えている。
始まりの恒一が呆然と立ち尽くしていた。
「……お前……本当に……助けたのか……」
恒一は微笑んだ。
「これが……俺の“始まり”だ」
影が悲鳴を上げる。
――やめろ……
――始まりを越えるな……
――おまえは……“終わった物語”のはず……!
裂け目が崩れ、
影の声が遠ざかっていく。
恒一は少女を抱きしめながら、
静かに呟いた。
「俺は……終わらない。
始まりも……終わりも……
全部抱えて進む」
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次回予告
裂け目が閉じる直前、
影の声が最後に囁いた。
――つなぎ手よ……
おまえの“始まり”は越えた……
だが……
“終わり”はまだそこにある
恒一が振り返ると、
自分の影が――
笑っていた。




