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第2話 黒霧の来訪者と、折れた勇気の理由

総集編もあるので、テンポよく読みたいかたはそちらがおすすめです。

黒い霧が、街の外壁を舐めるように広がっていく。

 それは煙でも瘴気でもなく、もっと根源的な“拒絶”の気配だった。

 物語そのものを喰らう――エイルの言葉が脳裏をよぎる。


リオは聖剣を握ったまま膝をつき、震えていた。

「また……抜けなかった……」

 悔しさと恐怖が入り混じった声。

 恒一は少年の肩に手を置き、ゆっくりと呼吸を整えさせる。


「リオ。まずは落ち着こう。剣が抜けない理由を、一緒に探すんだ」

「理由……そんなの、俺が弱いからだよ」

「弱いなら、弱いなりに考えればいい。逃げるのも、立ち止まるのも、全部“選択”だ。だけど――」

 恒一は黒霧を見つめた。

「この霧は、君の選択すら奪おうとしてる。だから、まずは立ち上がろう」


リオは唇を噛み、ゆっくりと立ち上がった。

 その瞬間、街の鐘が鳴り響く。

 避難を知らせる緊急の鐘だ。


◆滅びゆく街の中で

街の中心部は混乱していた。

 人々は荷物を抱え、泣き叫び、逃げ惑う。

 黒霧はまだ街に侵入していないが、外壁の向こうで蠢く影が見える。


「恒一さん、あれ……魔物じゃないよね?」

「わからない。でも、普通の魔物ならあんな動きはしない」


黒霧の中で、何かが形を変え続けていた。

 人のようで、人ではない。

 獣のようで、獣でもない。

 “物語の形”を持たない存在。


エイルが言っていた“断つ者”――その片鱗なのかもしれない。


恒一はリオを連れて避難所へ向かう。

 途中、倒れた老人を助け、泣く子どもを抱えた母親を誘導し、混乱の中でできる限りのことをした。


その姿を見て、リオがぽつりと呟く。

「恒一さんって……勇者みたいだ」

「俺は勇者じゃないよ。君の物語をつなぐために来ただけだ」

「つなぐ……」

 リオはその言葉を噛みしめるように繰り返した。


◆聖剣の秘密

避難所に着くと、街の守備隊長が駆け寄ってきた。

「勇者リオ殿! 状況は最悪だ。外壁の一部が黒い霧に侵食され始めている!」

「……すみません。俺、まだ剣を……」

「抜けないのは知っている。しかし、あなたしか頼れないのだ!」


隊長は恒一に目を向けた。

「あなたは……?」

「リオの仲間です。彼を支えるために来ました」

「そうか……ならば、共に来てほしい。聖剣について話がある」


案内されたのは、古い神殿の奥にある小部屋だった。

 そこには古文書が山積みになっている。


「聖剣は“勇者の心が純粋であれば抜ける”などという単純な代物ではない」

 隊長は一冊の古文書を開いた。

「本来、聖剣は“物語の結末を迎える覚悟”を持つ者に応える。だが――」


ページには、こう記されていた。


『結末を恐れる者には、聖剣は応えない』


リオの顔が青ざめる。

「俺……結末が怖い……?」

「リオ。君は何を恐れてる?」

 恒一が問いかけると、少年は震える声で答えた。


「俺……死ぬのが怖いんじゃない。

 もし俺が戦って、誰かを救えなかったら……

 “勇者失格”って言われるのが怖いんだ……!」


その言葉に、恒一は胸が締めつけられた。

 自分も会社で失敗を恐れ、動けなくなった時期があった。

 誰かの期待に応えられないことが、何より怖かった。


「リオ。勇者ってのは、結果じゃなくて“選ぶこと”だ。

 君が誰かを救いたいと思うなら、その気持ちが剣を動かすんだ」


リオは涙を拭い、深く息を吸った。

「……俺、もう一度やってみる」


◆黒霧の侵入

そのとき、神殿が揺れた。

 外から悲鳴が聞こえる。


「黒霧が……街に入ったぞ!」

 守備隊員が駆け込んでくる。


恒一とリオは外へ飛び出した。

 街路の先、黒霧が建物を飲み込み、形のない影が這い出してくる。


影は人の姿を模したかと思えば、次の瞬間には獣のように四足で走り、また別の形へと変わる。

 “物語の形”を持たない存在――だからこそ、どんな姿にもなれる。


「リオ、行けるか?」

「……うん。怖いけど、逃げたくない!」


リオは聖剣の柄に手をかけた。

 深呼吸し、心を整え――


――光が溢れた。


だが、剣は半分までしか抜けなかった。


「くっ……まだ……!」

「リオ、無理するな! 一度下がれ!」


影が二人に迫る。

 恒一は咄嗟にリオを庇い、影の爪が腕を掠めた。


痛みが走る。

 だが、影は恒一を見て動きを止めた。


まるで“興味を持った”かのように。


「……お前、何なんだ……?」

 影は形を変えながら、恒一に手を伸ばす。


その瞬間、エイルの声が響いた。


『恒一さん! それは“断章の影”――物語の結末を喰らう存在です! 触れられれば、あなたの物語も断たれます!』


影の手が、恒一の胸元に触れかけ――


――リオが叫んだ。


「やめろおおおおお!!」


光が爆ぜ、影が吹き飛ぶ。

 リオの手には、半分抜けたままの聖剣が輝いていた。

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