第16話 影の勇者と、継がれなかった物語
総集編もあるので、テンポよく読みたいかたはそちらがおすすめです。
影が砕け散ったあとに残った“黒い核”がひび割れ、
その中からひとりの少年が現れた。
年齢はリオより少し下。
黒い髪、黒い瞳。
だがその瞳は、影のような濁りではなく――
どこか澄んでいて、深い悲しみを宿していた。
「はじめまして」
少年は微笑んだ。
「ぼくは――“影の勇者”」
リオが聖剣を構えたまま後ずさる。
「勇者……? 影なのに……?」
少年は首を振った。
「ぼくは影じゃないよ。
影に“取り残された勇者”なんだ」
恒一は息を呑んだ。
「取り残された……?」
◆影の勇者の正体
少年は静かに語り始めた。
「ぼくは、かつてこの世界にいた“別の勇者”。
でも、ぼくの物語は……途中で止まってしまった」
リオが目を見開く。
「途中で……?」
「うん。
ぼくは戦いの途中で、仲間を守れなかった。
その瞬間、ぼくの物語は“続けられなくなった”」
少年の身体から黒い霧がわずかに漏れる。
「その隙間に影が入り込んで……
ぼくは“影の勇者”として閉じ込められた」
恒一は胸が締めつけられた。
「じゃあ……お前は影の一部じゃなくて、
影に囚われていた勇者なのか」
「そう。
影は“未完の物語”を喰らう。
ぼくはその最初の犠牲者だった」
少年はリオの聖剣を見つめた。
「でも……君は違う。
君は“続きたい”と願った。
だから剣は抜けたんだ」
リオは震える声で言った。
「……君は……助けられなかったの?」
少年は微笑んだ。
「うん。でも、もういいんだ。
ぼくは“終わった物語”だから」
◆影の残した“最後の罠”
そのとき、砕け散った影の残滓が蠢き始めた。
黒い霧が集まり、少年の足元へ絡みつく。
「っ……!」
少年の身体が黒く染まり始める。
「待て! 影は消えたはずだろ!」
恒一が叫ぶ。
残響が険しい表情で言った。
「影は“終わり”を喰らう存在。
影の勇者は“未完のまま終わった物語”。
つまり――影にとって最も喰いやすい」
少年は苦しげに笑った。
「ぼくは……影の核から生まれた存在。
影が消えれば……ぼくも消えるんだ」
「そんな……!」
リオが駆け寄ろうとするが、少年は手を上げて制した。
「来ないで。
君の物語まで影に触れさせたくない」
黒い霧が少年の身体を包み、
影の勇者はゆっくりと崩れ始めた。
◆勇者の願い
少年は恒一とリオを見つめ、
最後の力で微笑んだ。
「お願いがあるんだ」
「なんでも言ってくれ!」
リオが叫ぶ。
少年はリオの胸に手を当てた。
「君は……ぼくがなれなかった“続く勇者”。
だから――
君の物語を、最後まで進めてほしい」
リオの目に涙が溢れる。
「進めるよ……!
俺は絶対に止まらない!!」
少年は恒一の方へ向き直る。
「つなぎ手さん。
君の物語は……まだ始まったばかりだよ」
恒一は拳を握りしめた。
「……お前の分まで、俺は続く。
絶対に止まらない」
少年は安心したように微笑んだ。
「ありがとう……」
その瞬間、
少年の身体は光となり、
黒い霧を押し返しながら空へ溶けていった。
◆残されたもの
影の勇者が消えたあと、
地面には小さな“黒い欠片”が残っていた。
リオが拾い上げる。
「これ……影の勇者が残した……?」
欠片は黒いのに、どこか温かかった。
残響が言った。
「それは“未完の勇気”。
影に囚われた勇者が最後に残した、
物語の欠片だ」
恒一は欠片を見つめた。
「……これが、影の勇者の……」
リオは欠片を胸に抱きしめた。
「俺が……受け継ぐよ」
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次回予告
影の勇者の欠片がリオの手の中で光り、
その光がリオの胸へ吸い込まれた。
リオは驚き、胸を押さえる。
「……今、誰かの声が……」
恒一が問う。
「声?」
リオは震える声で答えた。
「うん……
“ぼくの続きを……頼んだよ”って……」




