第12話 影の獣と、つなぎ手の決意
総集編もあるので、テンポよく読みたいかたはそちらがおすすめです。
影の獣が咆哮し、湖の源泉が激しく波打った。
黒い霧が牙となり、爪となり、巨大な“物語の終端”が形を持つ。
恒一とリオは並んで立ち、迫りくる影を見据えた。
「リオ、行けるか?」
「うん……怖いけど、もう逃げない!」
リオの聖剣はまだ完全には抜けていない。
だが、刃の奥に宿る光は確かに強くなっていた。
影の獣が地を蹴り、二人へ飛びかかる。
その瞬間、恒一はリオの肩を押した。
「リオ、前へ!」
「はいっ!」
リオが跳び出し、聖剣を振り下ろす。
光が影の獣の腕を裂き、黒い霧が散った。
だが――影はすぐに再生する。
――未完の物語は、何度でも形を取り戻す。
影の声が空間全体に響く。
◆つなぎ手の影の動き
そのとき、恒一の“影”が動いた。
恒一とは逆方向へ走り、湖の縁へ向かっていく。
「おい、待て!」
恒一が叫ぶが、影は振り返らない。
残響が険しい表情で言った。
「……まずい。
つなぎ手の影は“本体が抱える終わり”を探して動く。
あれは恒一、お前の“終わりの場所”へ向かってる」
「俺の……終わりの場所……?」
「そうだ。
お前が“本来死んだはずの場所”。
そこに触れられたら――お前の物語は本当に終わる」
恒一は息を呑んだ。
影の獣はリオを押し返し、再び形を変えて襲いかかる。
リオは必死に剣を構えるが、影の圧力は強い。
「くっ……!」
「リオ、下がれ!」
恒一は影の獣の前に飛び出し、拳を構えた。
拳で影を殴っても意味はない。
それでも――止めなければならない。
影の獣の爪が恒一を薙ぎ払う。
身体が宙に浮き、地面に叩きつけられた。
「恒一さん!!」
リオが駆け寄ろうとするが、影の獣が道を塞ぐ。
◆案内人の覚悟
エイルが杖を掲げ、光の結界を展開した。
影の獣が一瞬だけ後退する。
「恒一さん、立ってください!」
「……ああ、まだ……終われない……」
恒一はよろめきながら立ち上がる。
「エイル……俺の影はどこへ向かってる?」
「“あなたの物語が終わった場所”です。
雨の夜……少女を助けたあの瞬間」
恒一の胸が締めつけられる。
「……あそこに触れられたら、俺は……?」
「消えます。
つなぎ手としての存在も、あなた自身の物語も」
エイルの声は震えていた。
「だから……行かせません。
あなたの影は、私が止めます」
「エイル……?」
エイルは微笑んだ。
その笑みは、どこか儚かった。
「案内人は……つなぎ手を守るために存在します。
あなたを選んだのは私。
だから、あなたの“終わり”を止めるのも私の役目です」
恒一は首を振った。
「エイル、そんなの――」
「行ってください、恒一さん。
リオさんを助けて。
影の獣は、あなたがいなければ倒せません」
エイルは杖を握りしめ、恒一の影が走った方向へ駆け出した。
「エイル!!」
呼び止める声は届かない。
◆勇者の覚悟
影の獣が再びリオへ襲いかかる。
リオは聖剣を構え、震える声で叫んだ。
「俺は……守るんだ!!
恒一さんの物語も……俺の物語も!!」
聖剣が光を放ち、刃の黒い染みがさらに後退する。
――勇者よ。
――おまえの物語は、まだ“結末を選んでいない”。
影の声が響く。
「選ぶよ!!
俺は……俺の結末を、自分で選ぶ!!」
リオが叫んだ瞬間――
聖剣が、ついに“根元まで”抜けた。
光が爆ぜ、影の獣が悲鳴を上げる。
◆つなぎ手の決意
恒一はリオの背中を見つめ、拳を握った。
「……リオ。
お前はもう、立派な勇者だ」
影の獣が崩れ始める。
だが、影の残滓はまだ消えない。
恒一は走り出した。
「エイルを……止めなきゃ……!」
つなぎ手の影が向かった“終わりの場所”へ。
自分の物語が終わったはずの場所へ。
そこには――
エイルがひとり、影と対峙していた。
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次回予告
恒一が駆けつけたとき、
エイルは影に胸を貫かれ――
それでも微笑んでいた。
「……恒一さん。
あなたの物語は……まだ……続きます……」
エイルの身体が光に溶けていく。




