第六十一話 女帝AT01の力
ナールライトは損傷したカデシュ・ギベイオンからモノリス、すなわちギベイオンユニットを奪い取り、カルバラー・ギベイオンとなった。その力の片鱗を見せつけた彼は勝ち誇ったように哄笑と共にペラペラとモノリスの秘密をサークレイスとオーシャに話し続けていた。
「モノリスは進化した5柱に反応して目覚める!その為にカデシュを利用してここまで持って来てもらったのだ!ただし、装備可能なのは有機人間がパイロットの場合のみだがな!!ではいくぞ!!」
ナールライトはカルバラー・ギベイオンのトライデントクローを展開、敵FOカンナエとテルモピュライへ向けて両腕を伸長する。
2機は散開するが両腕は蛇のようにグニャグニャした動きでその後を追う。ギベイオンの黒い装甲は金属とは思えない柔軟性と可塑性を持っているが故の動きである。
「コイツ!?」
機体を回転させ、クローをやり過ごしたテルモピュライは両手足のアンカーを射出してインパクトキャノンのトリガーを引いて敵機の右腕をもぎ取ろうと画策する。
「いくら強力な兵器だろうと届かなければな!」
(フン)
オーシャの勝ち誇った顔を想像しナールライトは鼻を鳴らして次の指令をカルバラー・ギベイオンに命じる。
瞬間3つのクロー先端からフォトンの刃が発振され衝撃砲を発射寸前の3つのアンカーを切り落とした。
「フォトンランサーとでもいうのか!?」
オーシャは最後に残ったアンカーをカルバラー・ギベイオンの後方へ配置したが、敵の側頭部からフォトン光が発射され左腕を焼き切った。
もう一方のカンナエ側の左腕は捕縛寸前、カンナエは右肩のプラズマチャクラムを切り離してその裏側を蹴って離脱する。その先はフォトンスマッシャーで吹き飛ばした機動兵器の残骸が堆積した瓦礫の海だった。その中にはギベイオンを奪われたカデシュType・Nが漂っている。
「吸収などさせるものか!!」
カルバラー・ギベイオンは額部中央からフォトンライフルを放つ。それは側頭部より倍の砲口を持っている。
放たれた熱線はチャクラムを容易に貫通しカンナエの右脇腹を抉る。
「グヌッ!?言うだけはある!」
サークレイスはスピードを落とす事なく機体を捻りながら、戦艦だった残骸の陰に隠れた。
(チッ、本当は奴のコクピットを狙ったのだが・・・まだこの躰に慣れていないという事か)
カンナエの防御力と自身の力量を過大評価していたことに舌打ちしながらナールライトはカルバラー・ギベイオンの左腕を引き戻す。
ナールライトは真後ろから超スピードで突撃してきたテルモピュライの爪を機体を前かがみにさせて躱す。
先程の失敗が彼に少しだけ冷静に戦場を俯瞰する能力を取り戻させたのだ。
(まあいい。カデシュのパイロット共も戦巧者だ。半死人のカンナエくらい何とかするだろう・・・まずは小うるさい鳥モドキを叩き落すか)
そもそも2対2の戦いだと割り切ったナールライトは高速機動で戦場を駆け巡るテルモピュライの動きを解析すべくカルバラー・ギベイオンのセンサーを総動員させた。
ナールライトの心変わりで難を逃れたサークレイスはカンナエの両腕のアシミレイションシステムを起動させ残骸を原子に還元・吸収し機体の『体力』回復を図った。
「あわよくば、とは思うが・・・」
原子分解された金属の奔流に巻き込まれこちらに流されてくる、修復の終わったカデシュを飲み込めればと考えたが、その考えは振り払った。以前の戦いの記録で5柱には吸収耐性を持っているのは明らかだからである。
「うう!?」
「あっ!?起きた!翔、よかった~もう目を覚まさないかと思った!」
アシミレイションシステムに巻き込まれている事を告げる警報で北条翔はようやく目を覚ました。
「カンナエ!?あいつ、こんな方法で!?」
翔は目だけで幼馴染の相羽優歌に礼を言うとスラスターを吹かしてリジェネレイトシステムから脱する。その関係に牧野琴音は少しだけ嫉妬心をくすぐられるのだった。
(こんな思いを抱いている暇は無いのに!)
「北条君、ここは一気に!」
「わかってる!危険だからな!」
翔はカデシュをジグザグに機動しながらカデシュ・ダンType・Nへと変身させる。
「そんな動きでこのカンナエを無力化できると思っているのか!」
カンナエの火器はフォトンスマッシャーを始めとしてその大半は直線にしか飛ばない。だから機体の直線上に並べる為の武器がある。
ハイパーホーミングレーザーナパームがそれである。両肩と大腿部の武装ハッチから12個のオレンジのレーザーが全方位からカデシュ・ダンへ迫る。
「く・・!?」
急制動と反転で7発を躱し、3発を体を逸らすことで直撃を避けた。
「残り2発!!どこに行った!?」
周りを見渡してもそれらしき反応はない。
「完全に回復される前に接近して倒すしかない!!」
他の火器での追撃が無かったのはそれだけ相手も疲弊しているという事でもある。現に敵機は戦闘中だというのに未だにアシミレイションシステムを切っていないのだ。
カデシュ・ダンは再びスラスターを吹かしてカンナエに肉薄する。
「これで!!」
「させん!!」
カデシュ・ダンの後方へ回り込みながらの大上段から振り下ろされたプラズマソードをプラズマチャクラムで防ぐカンナエ。
その背後から2つの閃光が急角度でカデシュ・ダンの翼を吹き飛ばした。
「な・・・ナパーム!?どこから!?」
「金属原子の波に隠していたのだよ・・・・おかげでレーダーに察知されずに済ん・・だっ!!」
アシミレイションシステムを止めて態勢の崩れたカデシュ・ダンを蹴り飛ばし、両腕のツインフォトンライフルを放つ。
翼を修復したカデシュ・ダンは2本目のソードを取り出し、刃を重ねて熱線を防ぐと敵目掛けて突っ込んでいく。
「馬鹿め!そんな物ではこのカンナエの攻撃は防げん!!」
サークレイスはライフルの出力を上げ、フォトンバルカンを放つ。2本の剣はたちまち溶解したが、カデシュ・ダンのスピードは落ちない。
「うおおおお!!」
翔の気合に応えるようにカデシュ・ダンは攻撃に焼かれながらも翼から新たな剣をフォトンソードモードで射出。
「しまった!!」
カンナエの機動力で躱す事は不可能。さらに高出力のフォトン光の前にはライフルやバルカン、実弾であるグレネードも意味をなさない。
2振りの光剣がカンナエを切り裂く直前。
それはカルバラー・ギベイオンがテルモピュライをクローで捕えて握り潰す直前でもあった。
時が止まった。
正確にはカデシュ・ダンとカルバラー・ギベイオンの動きが止まったのだ。
「何だ!?一体何が起きたんだ?」
「馬鹿な・・・これは!?」
カルバラー・ギベイオンの電子頭脳と一体化しているナールライトの目には巨大な悪魔のような影が自分を見下ろしているのが見えた。
『これ以上の狼藉は許さぬ・・・!』
「この声は!?」
「AT01!?」
AT01の威圧的な声には絶対的な恐怖としか言いようのない感情を聞く者全てに想起させる、圧倒的な力があった。
『私の宇宙に来ることは私の力に握り潰される事を意味するのを忘れたか、ナールライト?尤も今の貴様に見せたのはこれが初めてだがな』
「うう!?」
『面白い物を見せてくれた礼にジェネレータはくれてやろう。だがバリアを破壊したとてヘーレムを、妾を滅ばすことは不可能だ。この事を部下共によくよく説明するのだぞ!?でないと全員犬死する事になるからな』
『さあ、2人共帰っておいで・・・傷を癒しまた妾を守っておくれ』
AT01は打って変わって優しい慈母の如き言葉をサークレイスとオーシャに掛けた。
「「ははっ!!」」
九死に一生を得た2体のFOは残存部隊を率いて銀河の彼方に去って行く。
カデシュとカルバラーのモニターから敵の発するスラスター光が完全に消え去った時、彼らもまた解放された。
「あれが、敵の首領・・・!」
「そうだ。倒すべき人類の敵だ」
ナールライトは脳裏に纏わりつく影を振り払うように機体を反転させ、ジェネレータと相対する。
「カデシュ、下がっていろ!!戦闘本来の役目は果たさせて貰う!」
カルバラー・ギベイオンは腹部から向けてフォトン光をプラネットジェネレータへ撃つ。
光を受けたジェネレータの光が急速に弱まっていく。
「え、なに!?」
「・・・ジェネレータからのエネルギーが低下してる!?違う!?あいつはジェネレータの熱を奪っているんだ!」
レンの言葉に翔も絶句する。
「つまりレーザー冷却だっていうのか!?」
レーザー冷却は物体の原子と逆の動きにレーザーを当てる事で原子運動すなわち熱エネルギーを低下させ物体を冷やす原理である。それをカルバラー・ギベイオンはやったのだ。
「だけど本星を攻めるにはあいつの、AT01の機能停止能力に打ち勝たないといけない。どうすれば良いんだ?」
翔の言葉に答えられる者はいなかった。




