第六十二話 ガルバオト再び
光を奪われた巨大な球体が凍結し砕け散っていく。
カルバラー・ギベイオンのフォトンフリーザーを受けたプラネットジェネレータの最期である。
だが人類連盟側に勝利を祝う雰囲気も余裕も全くなかった。
主力艦隊はカンナエによって壊滅し、頼みの綱であった5柱のFOカデシュとカルバラーが謎の力で完全に無力化された為である。
「現在原因を究明中だ」
ナールライトはモノリスとそれが変化したギベイオンユニットの秘密をカデシュの4人のパイロットに説明し、先程の『不調』については判らないとした。
(初めて見るな・・・ナールライトさんの気落ちした顔は)
自分からギベイオンユニットを奪ったというのに怒りや憎しみが湧き上がらない。
それほど異常な落ち込みと苦悩の影がナールライトの俯いた顔に刻まれていたのだ。
北条翔は着艦したストラデゴスのガンルーム(士官室)で対面したナールライトにも知らない事がやはりあるのだと当たり前の事を改めて気づかされていた。
「あの声が敵の首領の声だとしてなぜヘーレムの力にギベイオンが屈したんでしょう?」
「そのモノリスの説明が間違っているんじゃないの?そもそもAT01ってどんな奴なのよ?」
5人の中で唯一いつも通りの表情のレンが冷たく言い放った。
「・・・声以外聞いた事が無い。私も、父も祖父も・・・・ナールライトを演じ始めた恐らく先祖も」
「「「「はあ!?」」」」
あり得ない。そんなふざけた事態がまかり通っていた事にカデシュパイロット4人は同時に声を上げた。
「で、でも女帝というからには謁見していたのではないですか?」
牧野琴音の疑問にナールライトは
「声だけだ。姿を見た事も正確な所在を知っている者はヘーレムには誰もいないだろう。その事を疑問に思う存在も帝国内に存在しない」
ナールライトはふと何かに気づいたというのに顔を上げて翔の顔を見た。
「AT01は我々の先祖・・・セラの民が造り上げた機械人間の試作体だったと聞かされたことがある」
「だからギベイオンユニットの『防御』が通用しなかった訳ですか」
「だろうな。だが最も深刻な事はカルバラーとカデシュの動きを拘束できるとなればこれより性能の劣るコルトレイクやタラスも機能停止に追い込まれるのがほぼ確定となれば・・・我々はこれ以上の戦闘いや戦争の遂行は不可能という事になる」
ナールライトの言葉に部屋の空気が墓場の様に静まり返った。腕を組む者、頭を抱える者と違いはあるが、全員必死に打開策を考えていた。
「そうだ!!カルブンクルスに何か手掛かりがあるかも!?」
どのくらいの時間が経ったか。
相羽優歌が急に顔を上げた。その表情は良い意見を思いついたと言わんばかりの笑顔だった。
「カルブンクルス?あれはカデシュの保管ポッドだよ。ユーカ、あんた何を言って」
「いや、カルブンクルスはあの大きさと構造区画から移民船だった可能性があると報告を受けている。つまり移民もしくは脱出の理由がAT01からの亡命ならば打開策とはいかなくても確かに何らかの手掛かりがあるかもしれん」
全員顔を見合わせる。誰もが藁をも掴む思いだった。
同時刻・ヘーレム本星
乗機を破壊され自身も大破した『元』親衛隊隊長ガルバオトは創造主であり主人でもあるヘーレム女帝AT01に呼び出されていた。
宮殿に入る前に空を見上げる。外の景色は修復される以前と違っていた。
(空の色が薄くなったな・・・バリアーを生み出すジェネレータが破壊されたか)
「ガルバオト、出廷致しました」
真の闇に包まれた謁見の間には生物の息遣いは全く感じられない。
『随分素直に出てきたな?もっとごねると思っていたのだが』
内心を読まれている事に毒づきつつもガルバオトは頭を下げた。敗北続きである自分がここで呼び出しに応じない事はいつ廃棄処分の決定を通達されてもおかしくないのだ。
『・・・まあいい。貴様に任務を与える。カデシュとカルバラーを乗せたストラデゴスが動き出した。恐らくカルブンクルスへ接触を図るつもりだろう』
「戦力の大半を喪失していると聞いています。ならアーヴィタル要塞へ帰還するのでは?」
『普通ならば、な。だがナールライトは戦闘続行を望むだろう。ヘーレムと戦い続ける事その物が奴自身の権力を支えておるのだからな。その為には最大の障害たる妾の能力を無力化するか弱体化する方法を探し出す事を最優先にするはずだ』
見てきたように言う女帝の言葉に初めてガルバオトは彼女に尊敬の念を抱いた。
「しかし、今更シクの攻撃が連中に通用するかどうか」
彼の弱気な発言はより高性能の兵器をねだる為である。
現在本星の半分の工業力と科学者を徴用して急ピッチで開発されている新型FOを受領したいと考えているのだ。
勿論この点は相手も承知だと知ってのことである。仇敵たる敵部隊を追悼する部隊を指揮できる適当な人材がいないのもこの策略を後押ししていた。
『無論、現在開発中の新型機と部隊を貴様に与える。ただし』
決然とした声がガルバオトの頭脳に響いた。
『勝利以外でここに戻ってくる事は許さん。撤退も許さぬ。その為の新型機部隊なのだからな』
告げられたのは最後通牒だった。
「新型機っていってもな・・・」
ガルバオトは例の新型機開発工場の片隅から件の現場を見おろしながら不満を口に出した。
作業場には胴と頭の無い20mクラスの人型と思しき機体、その前に機体と同スケールの巨大な砲身のようなものが10機ほど並べられていた。
これらはセラの民が開発を途中放棄した機動兵器群で最近本星の地下施設で発見された物だった。
これらを修復・改良して実戦投入とその効果を調べるのがガルバオトに与えられた最後の使命なのだ。
今、人型の機体に回収されてきたFOシクの頭部と胴体が繋ぎ合わされて頭部を覆う新造パーツが溶接されていく。
その外観は両手を広げたピエロや道化師を思わせる。
「どこまでできるやら」
やらなくても死。
やっても生きて戻ってくる確率は低い。
(だが同じセラの民製ならいけ好かないナールライトやAT01、なによりカデシュに吠え面をかかせるいい機会でもある!)
この1点にのみ彼が希望を見出している事を誰も知らない。
「最終調整は艦に積み込んでからにしろ!!どの道カルブンクルスとの接触には3日はかかるんだからな!!」
出撃準備と調整を同時にさせる事で『兵は拙速を尊ぶ』を信奉するガルバオトはカルブンクルス襲撃に新型機部隊通称『亡霊部隊』の出撃を急がせるのだった。
カルブンクルスが今後の戦いの重要なカギになると判断した人類連盟艦隊残存部隊も合流に向けてダークゲートを使い、航路を急いでいた。
部隊と言ってもストラデゴス1隻ラッダイト級が1隻に補給艦2隻の敗残部隊と言って差し支えない編成である。
「でもまともな敵部隊って残っていないんじゃないの?」
優歌の楽観論をナールライトは否定する。
「AT01は自身に万が一の事があった時の為の近衛部隊を製造・配備していると言われている。どんな兵器があるのかは知らないのだが」
「親衛隊じゃなくて?」
「ああ。親衛隊の腕利きをそちらに回しているという事だ。これは戦死でもないのにかなりのサイクルで親衛隊の面子が入れ替わっている事実から導きだされた確実な証拠だ」
「非正規の秘密部隊ってわけね・・・そういえばあの触手野郎もそんな感じの奴だったね」
レンの言っているのは例のガルバオト率いる『猟犬部隊』の事である。
「そう言えばアイツどうなったっけ?」
「蹴り飛ばして惑星セラの大気圏に燃えながら落ちて行ったのはモニターの記録映像で確認しているけど・・・まさか生きているとか!?」
「確実に破壊していないのなら生存を疑って然るべきだろう。奴が生きていようが生きていまいがヘーレムはどの道防備の手薄なカルブンクルスを襲う可能性が高い」
合流にかかる道のりは3日。艦隊の足並みを揃える為である。
「このダークゲートを使っていないという事は連中の使っているであろうゲートならカルブンクルスと会敵するのは3日後になる。連中と鼻先でやり合う事になるぞ。各員それまでに準備を万全にせよ」
無線機を通してナールライトの声が艦隊の各所に響いた。




