第五十八話 巨大なる力
北条翔は今見ているもの、聞いているものが幻聴か現実か判らなかった。普通に考えれば幻覚・幻聴だと分かるのだが、ここまで意識がはっきりしていると自覚していると目の前の光景に説明がつかないのだ。
視界には星々の瞬く宇宙空間と緑色の光の二層のグラデーションが渦を巻いている。
聴覚は先程から『我らの求めし者よ。永遠の安寧ではなく意思もて宇宙が理を変えんとする者よ。来たれ!来たれ!』
女とも男とも判別のつかぬその声の主は緑色の光る手でカデシュの脊髄を掴んで飲み込んだのだ。
「あなたは何を言ってるんだ!?俺は皆を守りたかっただけだ!!今度こそ・・・!」
彼の視界は光1筋も無い暗黒に包まれる。
「う・・・グっ!?」
全身を何かが這いまわり、締め上げる。意を決して視線を下に向けると黒い蛇か縄のようなものが全身を覆っていた。
「何故だろう?そっちが何を求めているかが判る!?俺が、俺達があなた達の遺志を継ぐかどうかわからないんだぞ!?この力をあなた達の嫌悪する方向に使うかもしれないんだぞ!?」
翔の言葉に声は応える事は無かった。
(誰がどう言おうと、これがどんな理由で造られたにせよ・・・!俺のやる事は俺の望みは変わらない!!)
翔の意志を受けてか、新たに造り出されたカデシュ・ギベイオンはモノリスそのままの真っ黒な装甲を持っていた。
分厚い長衣のコートがマントで着膨れしたボディ。
2枚の羽根が纏められフード状の大型フレキシブルブースターユニット1基
両肩先端に折りたたみ式の実体シールド
両腕前腕装甲は樽に似た、4隅に突起がある新たな物
脚部はヒール状のパーツが足裏に新たに装着され、両膝には鋭利なスパイクが設置されている。
頭部はボクシング等で使うヘッドギアと顔の下部分を大型のマスクを装備されていた。
「フン、鈍重な見た目になったが・・・その装甲がどんなモンか見せてみろ!」
カデシュを追って来たガルバオトのFOシクは両手足からフォトンライフルを連射する。
光の豪雨の中、カデシュ・ギベイオンは攻撃を弾き返しながら無造作に歩き出し、バーニアを吹かして飛び上ると強烈な右ストレートを撃ち込む。
「ゴワッ!?」
シクの防御力を過信し相手の攻撃力に高を括っていたガルバオトはまともに攻撃を受け、壁に叩き付けられた。
「野郎!」
相手の実力よりも自分を無視して地上へ向けて飛んでいく、その態度に激昂したガルバオトはシクの鞭状の両腕をカデシュ・ギベイオンの背中目掛けて叩きつけた。
両腕はカデシュ・ギベイオンの両前腕に巻き付く。が、相手は振り返る事無く鞭を掴むとそのままグングン上昇していった。シクは引き戻すことも振りほどく事も出来ず虚しくスラスターを吹かし続けるだけだ。
「バカな!?オレが力負けしているだと!?」
ガルバオトは腕を切り離すという選択肢を一瞬考えた。
だがシクは武器と腕が一体化しているという構造上、両腕を切り離すという選択肢を取ることは武器を半分失う事に等しい。こちらの防御力も敵の攻撃能力を下回っている点を加味すればわざわざ性能を落とす事は自殺行為である。
ガルバオトがズルズル考えを巡らせている間に2機のFOはセラの薄い大気を突破し宇宙空間へと飛び出していた。
「このまま自分の家に連れてってくれるてのか?」
「すごい凄い!アイツを一方的に押してるよ!」
「でも、北条君は呼びかけに全然答えてくれませんし・・・それにこのままだとあのFOもカルブンクルスへ連れて行く事になります・・・」
無言で機体を動かす翔にコクピットシートの上で相羽優歌は小躍りし、対する牧野琴音は背後のシクが未だに攻撃を諦めていない事、何より全く翔が周囲の反応に対して無反応な事に不安を吐露した。
琴音の言葉に反応したのか、翔はカデシュ・ギベイオンに後ろを振り返させると同時にシクの腰部に猛烈なキックを叩き込んだ。
「ゲッ!?」
両腕が真ん中から引き千切れ、腰部装甲が抉られて内部機器が露出する。
ガルバオトにとってそれ以上に問題だったのは衝撃でグラビティ・リフターが破損した影響でバリアーが切れた事だった。
廃星となったセラにも薄いとはいえ大気がある。その大気との摩擦熱はいかに重装甲を持つシクはともかくそこに格納されているガルバオトの電子頭脳を焼き尽くしかねないのだ。
「ク゚ッソおおおお下等生命体風情が!!サンバルテルミ共攻撃開始!!ユニタリスと高機動部隊は俺を救え!」
呪いに近い罵倒交じりの指令を受けてユニタリスは乗員をカルブンクルスから回収し、先に離脱していた高機動型グルンヴァルトの1隊を追ってセラへ向かう。
それに伴ってカルブンクルス周囲で戦闘は終結しつつあった。
だがカルブンクルスの格納庫内では戦闘が続いていた。グルンヴァルトに先んじて格納庫へ飛び込んだフレシェットから飛び出したバートとレンは閉鎖される寸前の隔壁を潜り抜け予備機のコルトレイクとタラスへ向かっていた。
旧式化したタラスが未だに配備されているのはコルトレイクが十全に行き渡っていないのに加えてコルトレイクの消耗を避けるために作業用としての役割の為である。
「タラスなら俺でも乗れる!」
「バート離れて!!」
レンは背後の隔壁が赤熱化するのを見てバートを突き飛ばす。反動で自身も天井へ流れていく。
瞬間、隔壁が溶解しビームが格納庫を照らす。
「しまった!コルトレイクが!?」
だがこの場の全員の予想を裏切る事態が起こった。
予備機が動き出し、盾を構えてビームを防いだのだ。
「誰が乗っているんだ!?」
『ここは僕に任せて!早く逃げて』
コルトレイクからイフルの声が響く。
コルトレイクは盾を投げ捨てると侵入したグルンヴァルトに組打ちを仕掛ける
「イフルって補給官だろ!?」
「そうだよ、だから戦い方がなっちゃいないんだ!?」
隅で縮こまっていたバートを抱き着かれたレンが彼を振り払いタラスへ向かう。
このやり取りが行われている間に組打ちを仕掛けたコルトレイクは敵機の両腕のフォトンランチャーに両腕を溶かされながら背部に装備されたバズーカとフォトンガンを撃つ。
グルンヴァルトは両腕で攻撃を防ぐと相手を蹴り飛ばす。
コルトレイクが壁に叩きつけられる寸前にレンのタラスがフォトンガンを奪い取る。
「バートの師匠の仇だ!!」
過呼吸になるほど叫び続けるレンはトリガーを引く。
タラスは壁を三角飛びで背後を取ると自前のフォトンライフルとの二丁拳銃をゼロ距離で首に光弾を叩き込んだ。
「おい、もうやめるんだ!艦が壊れる!!」
敵機が擱座し艦の壁に穴を開けた事をイフルに指摘されるまで彼女はトリガーから指を離すことは無かった。
ガルバオトの命令を受けて迎撃にきたサンバルテルミⅣ3機はカデシュ・ギベイオンへ全身のパーツを分離、包囲すると溶解ビームを浴びせる。
だがギベイオンの装甲は攻撃を受けても傷1つつかず全く変化も見られない。
両腕を前に突き出すと前腕装甲が前方にスライド、アームの先に接続された4つの突起がそれぞれ動き、攻撃端末に狙いを付ける。
「え!?これって」
優歌の考えを証明するように突起からフォトンライフルを発射すると次々と端末を撃ち落としていく。
自分の行動が全く通じない事を悟ったサンバルテルミⅣは首と胴体だけで後退し後ろからやって来たユニタリスに収容された。その周囲をグルンヴァルト高機動型が追い抜いていく。
「く・・・新型をここで何としても落とせ!」
ユニタリス艦長は艦とグルンヴァルトに一斉攻撃を命じる。
攻撃がいかに通じないとはいえ集団からの攻撃にいつまでも耐えられる装甲などないというのは確かに常識ではある。
だが艦の主砲とグルンヴァルト10機のフォトンランチャーを1点に受けてもカデシュ・ギベイオンは無傷であった。
「今度はこっちの番だ!!」
翔は脳波コントロールでギベイオンの全身の黒い装甲を展開させる。
胸部3門・肩部の前後に3門・ブースター上部4門・腰部両側面と両大腿部に各3門の計16門のハイパーホーミングレーザーナパームを発射すると右手の突起を180度前方へ回転させてハイパープラズマクローにするとユニタリスへ突進する。
「これで・・・終わりだ!!」
散開したグルンヴァルトを追尾・着弾したナパーム弾の爆光を背景にユニタリスの4つある突起の1つ、格納庫を砕きながら突き進む。
隔壁が下がるが、ギベイオンはクロー先端からフォトンソードを展開し破壊力を更に上げただけに終わった。
「だ・・・駄目だ!?親衛隊隊長!?ガルバオト隊長!?本艦は・・・!!」
それが最後の通信だった。ブリッジごとユニタリスは両断され轟沈。母艦を失った親衛隊は各々で近傍の基地へと帰還していくしかなかった。
セラに落ちた隊長機を残して
「凄い・・・でも怖い」
琴音の言葉は震えていた。
『ギベイオン・・・巨大な力を持つもの・・・か』
ルツはカルブンクルスのモニター越しに見たカデシュの戦いぶりをそう評した。
この戦いの報告を聞いたナールライトはγジェネレータプラネットへの総攻撃を指示した。
親衛隊の3分の2が壊滅したこの機会を見逃す手は無かったからである。




