第五十七話 黒い秘密兵器
サンバルテルミⅣの分離パーツから発射された、溶解ビームを受けてカデシュ・ダンType・Nの全身が溶かされていく。
(皆を守らなければ!もう少しなんだ!何とかできないか?)
その一念のみが北条翔の頭の中に反響する。
ヘルメットを通して機体の電子頭脳と脳が繋がっていた、翔は激痛で気絶する寸前に自身と仲間を守るという『生存本能』からカデシュ・ダンの頭部と繋がった脊髄部分を原型をとどめない『躰』から切り離した。
シートにくの字にくずおれたフットペダルを踏みこんだままの彼の両足は脊髄に仕込まれた小さなスラスターを弱々しく吹かして戦場から離脱していく。
「奴め・・まだ生きているのか・・・!サンバルテルミ共、これ以上はいい!後は俺がカデシュを地獄に叩き落す!!」
ヘーレム側の司令官である親衛隊隊長ガルバオトはサンバルテルミⅣの動きを止めると乗機であるFOシクのスラスターを全開にして瀕死の獲物へと向かっていった。彼はその後ろから2機をノロノロ追う残骸に気が付かなかった。
「・・・カルブンクルスが!ユーカ、コトネ、カケルを頼んだよ!」
殆どブラックアウトしたモニターの一角にユニタリスが突き刺さったカルブンクルスが映る。
悲鳴を上げたレンは気密服に移動用バーニアを腰に接続すると立ち上がった。
「ちょっとレン、どこに行くのよ!」
「レンさん!?」
翔の意識を戻そうと声を掛け続けていた相羽優歌と牧野琴音は突然外へ出ようとするレンに非難の視線を向ける。そこには今更1人増えても何も変わらないという諫めの言葉も含んでいた。
「帰る場所を守る必要があるだろ。あそこにはアンタ達の親御さんもいるんだから」
そう言うと反論を聞くことなくレンは底部の小さな穴から機外に出た。
「!」
目の前をシクの長い触手とも鞭ともつかない長い腕が掠めていく。
「見え透いたマネを・・・!」
ガルバオトはレンを無視して真っ直ぐ機体を脊髄へと向かう。
(見逃された・・・!だけど今はカルブンクルスを守らないと)
自分が囮になればいいと考えていたレンは肩透かしを食らったが、戻る気は無かった。
翔の身はあの2人がいや、ユーカが何とかしてくれる。なら自分は戦士としてやれる事をするだけだ。問題はカルブンクルスが持つかである。
そのカルブンクルス内部と周辺では共に人類連盟軍は圧倒されつつあった。
カルブンクルス艦内では突入してきたヘーレム兵が各所でクルーらとライフルを撃ち合っていたが徐々に後退を余儀なくされ、現在は中央自然公園区の一歩手前の『最終防衛ライン』に戦力を集中していた。
この防衛ラインには艦の戦闘要員と志願して参加した非戦闘要員がいた。対してブリッジには戦えない非戦闘要員が集められていた。
この最終防衛ラインへ隔壁を降ろして誘導しているのが今の状況だった。
機械と生身の人間では耐久力が違う。同じ威力のビームでも人は死ぬが機械は耐えるのだ。
加えてヘーレム歩兵には死への恐怖や『同僚』の死に動揺する感情を持ち合わせていない。
破壊もしくは破損して前進できなくなった『同僚』の体を無感情に跨いでビームを撃ち続ける機械人間に精神的に摩耗した手近の物で作った即席のバリケードの防衛ラインに集まる人々の挙動は全て、絶望と悲壮感に打ちひしがれていた。
「もう持たない・・・!奴ら、体が回転するんだよ!?ぶっ倒れたチャーリーが奴らの後ろから撃ったら奴ら、上半身を回転させて真後ろのチャーリーを蜂の巣にしやがった・・・!?」
怯え切ったクルーの目に『奴ら』の到来を告げる細いデュアルアイの赤い光が亡霊の様に浮かぶ。
それだけですくみ上って蹲る仲間をイフルが激励する。
「ここで逃げる訳にはいかない・・!何としても食い止めるんだ!」
「どうするんだよ?」
「僕が囮になる。その隙に撃つんだ」
「あ・・!?おい!?」
イフルの本来の任務は補給官だが一応戦闘訓練も受けている。仲間が止めるのも聞かずビームの雨が途切れたところを見計らって彼はバリケードを乗り越えると床を転がりながら敵の足目掛けて銃を撃つ。
敵の銃撃がイフルを狙って集中し、その間隙に人類連盟軍も反撃の銃撃を行う。
だが震える手で撃たれたビームは当たらない。敵の援護射撃が当たらないと理解したヘーレム兵は床を転がるイフルのみを脅威としてビームを撃つ。
「う!?」
眼前の床が赤熱し、動きを止めたイフルは第2射を咄嗟にライフルで受ける。
銃を失いながらも睨みつけるイフルにヘーレム兵が照準を合わせた瞬間天井が崩落した。
爆風と同時に崩落した破片がヘーレム兵を押しつぶし吹き飛ばされたイフル。穴の開いた天井から急速に空気が抜けていく。バリケードまで飛ばされた彼は仲間に引き戻され急死に一生を得たのだった。
「外の攻撃・・・!格納庫が危ない!!」
仲間の制止を振り切ってイフルは格納庫へ急いだ。
その頃カルブンクルス周囲で展開されていた攻防戦は徐々に2つの激戦区に集約されつつあった。
カルブンクルスに侵入する為の格納庫前と球型であるこの艦のブリッジを破壊する為の艦上部である。
艦上部ではFOグルンヴァルトが敵の砲撃を掻い潜って至近距離で両腕のフォトンランチャーや胸のフォトンボンバーを撃つ。
コルトレイクやフレシェット隊が彼らを止めようと躍起になるも、そこにサンバルテルミⅡが立ちはだかると言った構図になっていた。
運動性や機動力ではコルトレイクを上回るサンバルテルミⅡは敵の主兵装たるフォトンバズーカやプラズマパイクといった大味な攻撃を容易く躱し側面や背後に回り込む。
尤もサンバルテルミの方も関節や武器を狙わない限りはコルトレイクを破壊する武装は持ち合わせていない。
「好きにさせるか!!」
その事に気づいたコルトレイクパイロットの1名は両腕を切り落とされた機体のスラスターを最大に吹かしてサンバルテルミを振り切るとカルブンクルスを庇ってグルンヴァルトのボンバーの直撃を受けて爆散した。
至近距離の攻撃は艦の装甲を吹き飛ばしたものの、その爆発で艦内部のヘーレム兵を破壊しイフルを救う結果となったのだった。
「しつこい!!」
カルブンクルス配備のラナ率いるコルトレイク・ガンナー部隊はカタパルトハッチ前でグルンヴァルトの侵入を阻むべく奮戦していた。戦闘の途中から突出してきた敵旗艦ユニタリスの吶喊と兵の侵入を許してしまった以上、FOまでも中に入れる事は何としても阻止せねばならない。
フォトンメガバズーカの狙撃は躱されたが偏差射撃された僚機のバズーカが敵機の腹部に直撃した。が、そいつは自身の損傷に構わずボンバーとランチャーを同時発射、爆散しながら発射されたその直撃を防ぐ為コルトレイク3機が艦の眼前で盾を構えて足を止めることになった。
1機のグルンヴァルトがその隙を縫って防衛線を突破ハッチに肉薄する。
「しまった!?誰でもいい、あいつを止めろ!?止めてくれ!!」
ラナの絶叫に応えるように1機のフレシェットが一直線に後を追う。
そのフレシェットには途中で運よく拾われたレンが同乗していた。
「おい、バート!そっちを切り離すぞ!速さが足りないからな!」
「正気かターナのおっさん!」
「そうよ!?そもそも切り離したら・・・!」
バートと呼ばれた若いコ・パイロットとレンの反論の通信を切るとフレシェットの下部構造を切り離す爆裂ボルトを起動する。切り離された下部分は一直線にカルブンクルス向かっていく。
フレシェットの上部が弧を描くようにグルンヴァルトに向かっていくのをレンとバートはキャノピー越しに見ている事しか出来なかった。
「異星人共!!地球の空軍パイロットの意地を見ろ!!」
フォトンバルカンを連射しながら肉薄するフレシェットをグルンヴァルトは右手だけ動かしてハエを追い払う様な仕草で敵飛行物体を切り裂いた。
「くそっ・・ターナのおっさん、先に往きやがって!俺も飛行機乗りとして誇りが持ててきたところだってのに・・・」
「バートっていったね。・・・・わたしが仇を取る。カルブンクルスのハッチに向かって!」
「・・・おうよ!」
バートは残されたフレシェットの下部分をカルブンクルスへ向かって加速させた。
同時刻・セラ近海
「仲間に見捨てられるとはな!見捨てられ屋に相応しい惨い死に方をさせてやるぜ!」
カデシュ・ダンの脊髄にあっという間に追いついたガルバオトはシクの両腕を頭部と脊髄に腕を掛け、へし折りにかかった。
ミシミシという音がコクピットに響く中懸命に優歌は翔の意識を戻そうと呼びかけ続け、琴音は敵の魔手から逃れようと必死に操縦桿を動かすが動かせば動かす程触手は機体に食い込んでいく。
「これでし・・・何ィ!?」
シクは横から衝撃を受けて両腕を離す。信じられない事に溶解したカデシュ・ダンの体の残骸が横から体当たりを掛けてきたのだ。
「ふざけやがって!!何でもありかよ!?」
振り上げた両の触手からフォトンソードを発振し、振り上げる。
残骸は体を張って守るというより押し出す形で脊髄をソードから守り両断された残骸は今度こそ動かなくなる。
「死にな!」
振り下ろされた両腕が直撃する瞬間緑の円柱状の光がセラから放たれ脊髄を包む。
「何だこれは!?」
光はシクの攻撃を弾き返し、見えない綱で脊髄を星へと引っ張って行く。光は追いすがるシクを撥ね飛ばした。
「これ何の光?」
「どこから来ているの・・!」
コンソールの異常な緑の発光から琴音は光がカデシュに呼び寄せられたのかと直感した。
光はセラの薄い大気を抜けて白い砂だらけの大地の一角から屹立していた。
「あれって皆が言ってた!?」
「セラの民の残した工廠・・・でしょうね」
セラの民が滅んで数十億年、誰の目にも触れた事のない工廠内部を何のゆかりのない異星人が入るのだ。
光は何の変哲もない大地に開いた10m四方の四角い穴へ続いている。
真っ暗内部を恐らく隔壁が開く音だろう、重い音が幾度も響く。
「「あれが!?」」
優歌と琴音は同時に声を上げる。それは驚きではなく呆れや失望を多分に含んでいた。
最深部にあったのは20mほどの黒い箱型の金属製モノリスだった。その天蓋部から光は発していた。
箱の中に吸い込まれた脊髄は内部で直立する形となると箱の内側の金属がスライムの様に全身にへばり付いていく。
「ね‥ねぇどうなるのこれ!?」
「分かりません!?」
不安げに周囲を見回す少女2人はコクピット内で起こった出来事に叫び声を上げた。
気絶していたはずの翔がゆっくりとシートに起き上がったのだ。
「北条君!?大丈夫なんですか?」
「平気だよ、牧野さん。今カデシュの新しい体を造っているんだ」
「新しい体?」
「そうだ。どんな攻撃にも負けない新しい体」
翔の言葉と同時にコクピットが揺れる。
追って来たシクが手あたり次第に工廠を攻撃し始めたのだ。
「あれか!?妙なモン作りやがって!!」
シクが両手足のフォトンライフルを放つ。
「消えただと!?」
フォトン光の直撃する瞬間巨大な黒いモノリスが消失、弾丸は工廠の壁を焼いただけに終わる。
そしてモノリスがいた場所には真っ黒なカデシュが立っていた。
カデシュ・ギベイオン
全身に重装甲を纏った新たな姿だった。




