第五十六話 窮地
カルブンクルスを頂点とした鏃状の陣形をとった人類連盟軍は距離にして敵との間隔が100km程になって艦載機を出撃させた。
「コルトレイク隊発進!!続いてフレシェット隊発進準備!!」
カルブンクルス艦長ルツの指揮の下、続々とコルトレイクがカルブンクルス以外の艦艇の前方に横一列に並んでフォトンバズーカを構えた。
「各艦全砲門開け!艦とコルトレイクはこちらに近づいてくる敵に合図と共に撃て!」
一方、敵陣を見てガルバオトは命令を土壇場で変更、サンバルテルミⅣとⅡのみを出撃させ、Ⅲの出敵を見合わせるよう指示を飛ばすと次にグルンヴァルト全機を先にユニタリスを取り囲む様に配置させた。
「グルンヴァルト全機フォトンボンバー発射準備!サンバルテルミⅡの突進を援護しろ!!」
自身は乗機のFOシクをサンバルテルミⅣと共にユニタリスの前方5kmほどで停止させ自分を中心にサンバルテルミⅣを左右に配置した。
「敵機接近!後方に熱源多数・・!?フォトンボンバーです!」
「カルブンクルスのグラビティ・リフター最大出力!砲撃はただの脅しだ!陣形を崩すな!」
オペレーターを叱咤しつつ、ルツは格納庫へ通信を入れる。
この行動の間にカルブンクルスは襲い掛かるサンバルテルミⅡを抜き去り、なおも前進する。
「カケル、後2分で出撃だ!コトネも準備は良いかい!?」
『はい・・・!援護をお願いします』
「後ろは任せて標的だけを狙うんだ!いいね?他の3人もコトネに余計な負担を掛けさせるんじゃないよ!」
「はい!」
「了解!」
「・・・了きゃい!?」
北条翔、レンに続いて最後の相羽優歌はカデシュType・Nの発進時のGで返答を噛んでしまった。
「やれやれ・・・ま、あいつらにはあれくらいがちょうどいいのかもしれないけど」
宇宙空間に出たと同時にカデシュ・ダンType・Dに『変身』し、更にチャリオットモードに変形して先頭を往く姿に呆れつつも頼もしさを感じつつ、ルツは前方を見据えつつ、後方の戦線からの通信を取った。
報告によると戦場後方ではカルブンクルスを狙って反転したサンバルテルミⅡと彼らの阻止動いたコルトレイク隊ろフレシェット隊が激突し、こちらがやや押され気味だというのだ。
「改良されている!?」
『はい!以前のデータには無い武器や挙動をしていて・・・!?』
投入されたサンバルテルミⅡは口からフォトン砲を吐く。それだけならばこちらのパイロットを驚かせるだけだからだ。
「クソ!こんな何もない空間を何でピョンピョン跳ね回るんだよ!?」
問題なのはサンバルテルミⅡが何もない宇宙空間に見えない足場を使ってカエルかウサギの如く跳ね回ってコルトレイクやフレシェットの攻撃を躱し、異様な機動でフレシェットやコルトレイクのフォトンバズーカやプラズマパイクを切断していく。
「ふざけやがって!!」
パイクを真っ二つに折られたコルトレイクパイロットは上体を屈めて2撃目の斬撃を躱しつつ機体が密着させるべく突っ込んだ。
肉薄される事を嫌ったサンバルテルミⅡは口からのフォトン砲を放つが至近距離でもコルトレイクの装甲を抜く事は出来ない。
「これで動けないだろ!!」
コルトレイクは敵機を羽交い絞めにすると同時に背中に半分になったパイクを両腕で渾身の力で突き立てた。
パイクが胴を貫通しコルトレイクの胸部に刺さる。コルトレイクは後方へ飛び退り強引に穂先を引き抜く。再び振り下ろされるソードを躱してフォトンガンを連射、サンバルテルミⅡを文字通りハチの巣にして爆散させた。
だが上のやり方は上手いパイロットだから出来る事で多くの機体は失敗するか、複数機で1機を囲い込んで無理やり逃げ場をなくして串刺しにするかバズーカの一斉射で消し炭にするかのどちらかだった。
戦況が不利になってもサンバルテルミⅡは多くのコルトレイクパイロットの隙をついて彼らの乗機の腕や足の関節を両腕のソードで切断、もしくは首筋にあるコクピットを突き刺して沈黙させた。
「良いぞ!サンバルテルミⅡのグラビティ・リフターのバリア機能を廃して不可視の足場を作るグラビティ・リフトは完璧に作動しているな。後輩君に負けない様に気張れよ!!」
ガルバオトは満足して乗機のシクとサンバルテルミⅣに攻撃指令を下す。
シクの腕が振り下ろされると同時に4機のサンバルテルミⅣの両手足と腰が胴体から分離しジグザグの鋭角的な機動を取りながらカデシュ・ダンType・Dへ向かっていく。
「来たぞ!カルブンクルス、コルトレイク・ガンナー部隊砲撃開始!カデシュに当てるなよ!」
戦闘宙域が一瞬赤緑色に染まったかと錯覚するほどの猛烈な火線の中、北条翔・相羽優歌・レンのType・Dのサブパイロット3人は周囲の光点の動きを探る。
Type・Dの高い索敵機能を使い、機動力の違いで胴体部分のいる地点を割り出そうというのだ。
「動きの単調な奴が胴体の可能性が高いっていってもさ・・・これじゃ!?」
優歌のボヤきをかき消すようにレンの警告が飛ぶ。
「コトネ、2時の方向から溶解ビーム!その後ろにタコ野郎の腕がある!」
「はい!」
琴音は機体に円を描くように機動させ、レーザーを躱すと翼が変形したプラズマシールドを分離させシクの長い腕の殴打を逸らしつつ、その縛めようとする動きをするりと躱した。
「見つけた!牧野さん、10時方向距離300!!」
琴音は翔から送られた座標へ右腕のプラズマバリスターを発射した。
「見破られたか!?大量のビームは本体を炙りだす為か!?」
ガルバオトはシクのブースターを吹かして後退、左腕を目一杯伸ばして矢を掴み取ると射手に投げ返した。
「くっ!?」
「タネが割れちまえばなんてことねえな!」
撃ち返された矢を躱したカデシュ・ダンType・Dにシクは張り付くように纏わりつく。
ガルバオトはシクの広げた手足を振り抜く。同時に手足の影で射線を隠されていたサンバルテルミⅣの溶解ビーム砲台とシクの鞭状の手足がカデシュ・ダンへ襲い掛かった。
「躱し・・切れない!?」
プラズマシールドからフォトンフィールドを分離させ無線誘導される4つの盾で溶解ビームを防ぐ。だが眼前に迫る先端からビーム刃とビーム砲を撃ちまくるシクの両手足は完全に琴音の動きを予測していた。
「琴音、左に躱して!?」
「ウ・・ン!」
急加速で旋回した先に『置かれていた』触手の先からのビームを躱すのは並大抵のことではない。それが例え思考操縦であっても、である。
カデシュ・ダンは脚部にビームを掠らせながらフォトンソードを発する触手を掴む。
「脇ががら空きだぜ!!」
シクの右足がドリル状のソードを突き出す。
だがどんな攻撃にも死角は出来る。機械人間もその法則からは逃れられない。
ソードがカデシュ・ダンを貫く直前、カルブンクルスからの砲撃がシクの両手足を弾き、カデシュを敵機の縛めから引き剥がした。
「チ・・・ビーム砲台は!?」
シクの右側のモニターでサンバルテルミⅣの右腕がコルトレイクのランチャーに撃ち抜かれる様を示す。
「仕方あるまい・・・少し早いが・・・ユニタリス突貫!!同時にサンバルテルミⅢを発進させろ!」
ガルバオトの指令を受けて0.3秒後、円錐状に変形したユニタリスは周囲のグルンヴァルトを振り切って全速力でカルブンクルスへ突撃、鋭角な三角形の1つから2機のサンバルテルミⅢを吐き出した。
艦の速力とカタパルトの射出力で本来以上に加速した2機のサンバルテルミⅢのタックルをカデシュ・ダンは両脇にまともに受けて後方へ流される。
「ガっ!?」
衝撃と共に敵機の両膝と右腕の丸ノコの回転音がカデシュ・ダンのコクピットに反響する。
「く・・!?牧野さん、コントロールを!?グウォ!?」
琴音は気絶する寸前翔に機体の主導権を渡したのは奇跡と言えた。
琴音が受けるはずだった全身が焼き斬られる感覚が翔の脳を焼く。
頭痛を押して翔はカデシュ・ダンType・Nを引き剥がそうと軋む手足を動かしながら機体を回転させ、接着剤でも付けたかのようにへばり付いていた2機が急に離れた。
「やっ・・・たか?」
「翔!?周り!」
優歌の叫びと共にカデシュ・ダンの周囲に取り囲んでいたサンバルテルミⅣのビーム砲台が火を噴く。
「カデシュをやらせるか!」
全身を撃ち抜かれ溶かされていくカデシュを援護しようとラナはコルトレイク・ガンナーのフォトンメガバズーカをビーム砲台へ向けた。
「自分の心配をするんだな!」
コルトレイク・ガンナーのバズーカをシクが撥ね飛ばし、バズーカに触手を絡めて曲芸の様に回転して大きく後退した。
コルトレイクが体勢を立て直そうとした瞬間、ユニタリスの鋭角な先端がカルブンクルスに突き刺さった。
「ユニタリス乗員!白兵戦準備!有機人間を皆殺しにしろ!」
指令を受けて突き刺さったユニタリスのFO用ハッチから武装したヘーレム兵がカルブンクルス内部へとなだれこんでいく。
外では全身8割を溶かされたカデシュ・ダンがパイロット保護の為脊髄を切り離してセラへと向かっていく。
「あと少し・・・!もうすぐ完全勝利だ!!」
ガルバオトの勝利を確信した哄笑がセラ近海に木霊した。




