第五十四話 死の罠・猟犬部隊
ヘーレムの猟犬部隊のオートノミー級と重砲撃仕様のグルンヴァルトの砲撃がカルブンクルス率いる人類連盟艦隊に襲い掛かる。
大小のフォトン光が艦のバリアを破り船体やコルトレイクの盾の表面で爆ぜた。
人類連盟軍側からも同じくらいの数の光条がお返しとばかりに飛ぶがそれらがヘーレムのFOには当たらず、艦船を掠める程度だった。
「クソ!?あいつらのランチャーの方が射程が長いぜ!近くのFOには当たらんしどうすりゃいいんだ!?」
カルブンクルス所属のコルトレイク・ガンナーパイロットが毒づく。
「バズーカのエネルギーを絞って!数を撃たなきゃフレシェット隊の援護にならないよ!」
ラナが同僚に指示を飛ばす。
前回の戦いからヘーレムはコルトレイクよりその支援戦闘機フレシェットの方が脅威とみなしていた。
攻撃力と機動性を重視するヘーレム製FOには単純な機構で高い機動性と運動性でこちらの動きを殺してくるフレシェットは危険だったのである。
「だとしてもどうすんだよ!?」
「2体で駄目なら4機でやるしかないだろっ!」
ラナはコルトレイク・ガンナーの体内の金属細胞を消費して左肩のアタッチメントに4連装レーザーナパームを『装備』、フレシェットを追い回すグルンヴァルトへ発射する。
誘導装置の無いナパームは全て躱されるがナパーム弾の影に隠れて接近したフレシェット2機が翼に備えられたプラズマエッジでグルンヴァルトの両腕を切り裂く。間髪入れずラナともう1機のコルトレイク・ガンナーがフォトンメガバズーカで胴体部を撃ち抜き爆散させた。
『やったな!?』
連携したフレシェットのパイロットからの通信が入る。
「1機落としただけ・・・危ない!?」
『う・・・おっ!?』
フレシェット2機は目の前に立ちはだかった別のグルンヴァルトを避けようとするがそれよりも早く敵機の両腕がフレシェットのコクピットを握りつぶした。
「コイツ!?」
更に片方をブーメランの如くコルトレイクへ投げつけ真下のラッダイト級へと降下していった。
「おい!どうするつもりだ!」
持ち場を離れて後を追うラナに同僚は声を掛けるが返答はない。
「まさか・・・もう1つを艦橋に叩きつけるつもりか?悪趣味な!!」
全開にしたスラスターが悲鳴を上げるが構わず突っ込む。
対空砲火を掻い潜りながら迫るグルンヴァルトが艦橋へたどり着いたと同時に右腕を振り上げた。
その動きを阻止するようにメガバズーカの砲身を2つの兵器の間に突き入れたラナはそのまま逆袈裟にバズーカを振り上げた。
砲身がひしゃげるが構わず2撃目を振り下ろす。
「う!?」
グルンヴァルトの胸の砲口が光を帯びる。いかに低出力でもフォトンボンバーならばこの至近距離でコルトレイクとラッダイト級の艦橋両方を吹き飛ばすのは容易なのだ。
咄嗟に盾を構える。背後から来た見慣れたフォトン光3条がグルンヴァルトを貫き、火球へと変えた。
『無事か?』
「何とか・・・助かったよ」
『向こうの敵はカデシュが抑えてくれてる!俺達は一度修理してすぐ出直すぞ!』
「レンが・・・了解!」
ラナは交錯する光の中に幼馴染の姿を思い浮かべて一瞬顔をほころばせると直ぐに表情を引き締めてカルブンクルスのデッキへと機体を押し出した。
カデシュは確かに敵部隊の攻撃を抑えていた。だが実情はオートノミー級の対空砲火とこれに寄り添うように配置されている6機のグルンヴァルト砲撃タイプの肩部に装備されたフォトンカノンの砲撃に曝されつつ、追ってきたグルンヴァルト高機動タイプのカスタム機3体の猛攻を躱すので手一杯だった。
カスタムタイプは巨大な翼をバックパックに装着し、両腕にフォトンマシンガンを装備した機体と脚部を巨大なブースターにして上半身に15門のフォトン砲を装備したもの、最後に両腕を重機の大型パケット型のクローにした近接型だった。ラナが帰還した時、折しもカデシュは近接型に追い込まれ敵の砲撃を受け続け、体勢を崩した所に大型クローにライフルを砕かれていたのだ。
「意地張ってないで変身したら!?」
「意地じゃない!向こうを手こずらせてもっとこっちに引きつけないと!」
「これじゃ限界だ。レン、言ってることはわかるけど今俺達が一人でも参っちまったらそれこそご破算だ。時間をかけ過ぎてもう一つのルートに奴らの本命がいた場合大変な事になる。どちらか一方を食い破る方が良いと思うけどな」
「・・・分かったよ。カケルがそう言うならそうする・・・よ!」
優歌の抗議を背中に受けながらレンは頭上のレバーを引いてカデシュ・ダンType・Gへ『変身』する。
「ちょっと揺れるよ!」
レンはカデシュ・ダンの体を捻ってグルンヴァルトの砲撃の間に入ると両肩の2対のフォトン砲を発射し、直下の砲撃機を撃破。
「後ろと上から熱源です!」
「あれは釣りだ!本命を撃つ!!」
牧野琴音の警告に短く答えて後ろからフォトンマシンガン2条、上からのフォトン砲を放つグルンヴァルトへホーミングレーザーナパームと右手のフォトンライフルで迎え撃つ。2機はするりと躱し、その間隙をついて格闘型が突っ込んで来た。
「ちょ!躱して!?」
「少し黙ってな!」
カデシュ・ダンの左前腕のブレードを肘打ちの要領で胸部の砲口に打ち込んだ。
その判断と度胸に地球人組の3人の顔が硬直した。
誘爆を恐れ離脱しようとするグルンヴァルトを押し込むようにバーニアを吹かしてオートノミー級の主砲へ敵機の背中を縫い留めたカデシュ・ダンは両足でグルンヴァルトを蹴って離脱した。
「優歌!Type・Gだ!爆発に巻き込まれる!!」
いち早く我に返った翔の言葉に優歌は殆ど無意識でコントロールをレンから譲り受け最高速度で自軍艦隊へと向かっていった。
優歌は背後の大爆発に振り返る事無く前方のグルンヴァルトを翼のブレードで切り裂く感触で息を飲んでやっと短い叫びを上げた。
「うるっさいな!さっきから!もう少し落ち着いていられないの?」
「アンタが無謀な操縦するからでしょ!?もう少しで全員巻まれるところだったんだからね!」
「で、でもホラ、ちゃんと敵の第一陣は振り切れたし私達無事みたいだから、ね!?」
「そうだな・・・カルブンクルスへ合流しよう。敵の第二陣は手強いみたいだ」
翔の言葉に振り向いた琴音は後方のモニターから流れてきたラッダイト級の残骸を見つけて小さな悲鳴を上げる。
前方の隕石群には間断なく火線が交錯しいくつもの赤い大輪が花開いていた。
「早く合流しないと?」
「隕石を盾にしてくれていると良いけど・・・敵の反応!?」
青白い閃光がカデシュ・ダンを包み込むように四方八方から照射される。
優歌は即座に反応し機体を隕石の影に隠れさせながらフォトン・ウェイブを射撃包囲に向けて放って敵の包囲の突破を試みる。
「見た事のない光だ!?当たった周りの岩石に何の変化もない?」
「数は8つ!?速いです!」
閃光の数は減る事無くカデシュ・ダンと艦隊を分断するように動く。
「チョコマカとっ!?正体見せなさい!」
機体を閃光の発した方向へ突撃させる優歌。閃光の細さから威力は大したことは無いと踏んだのだ。その短慮を翔は諫める。
「待て!どんなものか判らない!当たらないに越したことは・・・!」
言葉の終わらぬ内に激しい振動がコクピットを襲う。
「な・・・!?」
『なら確かめてみるか?』
ガルバオトの声が突如響く。
カデシュ・ダンType・Fが急停止したのだ。右足の先には鞭とも触手ともつかぬ腕、先日戦ったFOシクの
右腕が絡みついていた。
青白い閃光がカデシュ・ダンの全身を貫き、直撃部分とその周囲が急速に溶解していく。
「アウっ!?」
コントロール・ヘルメットが火花を散らし、優歌はコンソールに突っ伏した。
「優歌!?まさか・・・これは!?」
『そうさ!!全身のパーツを分離して発射する装甲分解溶液改め分解ビームだ!!サンバルテルミもようやっと完成したってわけさ』
『変身』を解除されカデシュ・ダンType・FはカデシュType・Nへと戻った仇敵へシクの右足と左腕が襲い掛かる。
翔は右足に絡みついた敵機の右腕の動きに合わせてスラスターを噴射しフォトンソードを躱す。
「ウイルスの効力が低い!?」
「そいつを知っても状況は変わらん!」
シクは手近の石ころにカデシュを叩きつけると同時に両手足のフォトンライフルを連射。カデシュは隕石を盾にしてソードとライフルモードを切り替える4つの触手に追い立てられながら、死角から放たれるサンバルテルミの分解ビームの直撃を回避するので精一杯だった。
「北条君落ち着いて回避に専念してください!?今回のウイルスは30秒ほどで効力を失うみたいです・・それに溶解速度も当たった周辺だけ・・・触手の攻撃も威力そのものは大きなものではないです」
「動きに惑わされるなって事か!?だが・・」
2機の連携は完璧に近い。サンバルテルミが四肢と首を、シクは翼や関節部を狙ってくるのだ。その攻撃のどれもが軌道の読みづらい物で全てを完全回避する事は不可能に近い。
たとえかすり傷程度の損傷でも30秒という僅かな時間も攻撃を受け続ければそれだけ内部機器を狂わされて行動不能時間は増えていくのだ。
(以前と同じウイルス効果だったら確実に死んでいる!)
「カケル!あの触手野郎に突っ込んで!!今なら例のビームは来ない!」
「わかった!!」
左翼と右足を半ば、右肩装甲を失い顎の装甲も無くなったカデシュは残ったスラスターを全開にして突っ込む。
「サンバルテルミⅣのチャージ時間に気付いたか!だが少し遅かったな」
シクは自暴自棄とも思えるカデシュへ向けて左腕のライフルを連射しつつ振り下ろす。
(まだあるな・・・!)
後腰に巻き付けたショックアンカーを繰り出されたシクの左腕に合わせて振り抜く。
「こけおどしは通じねえよ!」
腕がしなりアンカーを巻き取ると剛力でアンカー毎カデシュを振り上げた。その周囲には6発分のチャージが終わったサンバルテルミの分離したパーツが待機しているのだ。
「翔!私にやらせて!!」
「優歌!いけるのか!?」
「モチロン!!」
気絶から回復した優歌は振り上げられるカデシュType・NからカデシュType・Fに『変身』させた。
「うおお!?」
シクの機体が上方へ引っ張られる。
シクのモニターには円状に配置されたサンバルテルミⅣ各部から発射されたビームをカデシュが強引に推力で振り切る様が映し出されていた。
「さっきのお返し!」
カデシュはビームを躱しつつ発射地点目掛けて突進する。マッハ13を振り切る事の出来なかったサンバルテルミの右手はカデシュのクローに両断された。
「チ・・・撤退する!親衛隊援護しろ!」
カデシュType・Fのクローでサンバルテルミの右手が破壊されたのを知ったガルバオトは全軍に撤退を命令した。完全にカラクリを見抜かれた事以上長居は無用だった。隕石を盾に今度はヘーレム側が撤退する番だった。
その動きを逃すカデシュではない。急速にターンしあっという間にシクへ肉薄する。
「このっ!?このォー!!」
(もっと混乱すると思ったがこうも立ち直りが早いとはな!?)
Type・Fのブレードとクローを躱しながら後退するシクは投げつけた隕石をライフルで破砕し破片を目くらましに一気に母艦へと帰還する。
『カデシュ!深追いするな!』
カルブンクルスからの通信に優歌は反論する。
「でも・・・!」
『こっちも大分やられた・・・敵の反応が消えたら補給ポイントに向かうよ』
「ユーカ、生きてりゃ次がある。もう同じ罠にかかる事は無いさ、そうだろ?」
優歌はシクに1撃入れたかったのだがレンの言葉に少しだけ冷静になった。
「そう・・ね。そうする。今度こそあいつに1ッ発お見舞いしてやるんだから!」
「いや撃破しなよ・・・」
死の罠を辛くも切り抜けたカデシュのコクピットは笑いに包まれるのだった。




