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Galaxy Trail  作者: 紀之
銀河の中心へ

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第五十三話 信頼と威迫




 カデシュのコクピットのシートに座った相羽優歌は両手でパンパンと頬を叩くと大きく深呼吸した。


「うん、気合注入完了!切り替えてこー!」


「ま、こういう単純さがユーカの取り柄だね」


レンが軽口を叩く。


「ちょっと!?私がバカだって言うの?」


「目の前の事に集中しようとするのは良い事だと思うよ」


2人のやり取りを見て微笑みながら牧野琴音がフォローを入れた。


ガールズトークが始まりそうな雰囲気をカルブンクルスのブリッジから通信が入る。


『いい感じのところ悪いけど暫(しばら)くそこで待機してもらうよ。もちろんおしゃべりも謹(つつし)んでもらうけどね』


艦長のルツから釘を刺されて気まずい顔になる女子3人に代わって北条翔が応えた。


「出撃しないで良いんですか?また襲撃や砲撃を受けたら・・・」


『その可能性は捨てきれない。でも今のところその気配はないわ。訓練も兼ねてフレシェットとコルトレイクに偵察させているけどゲート内部や向こう側の出口付近には何もいないみたいだね』


「じゃここのゲートは短いんですか?」


『1日ってところかな。もし敵が来たらすぐに出てもらうよ』


「了解です」


結局その日カデシュがカルブンクルスの外に出る事は無かった。


レンはコクピットのモニター越しにラナのコルトレイク・ガンナーが3回出撃するのを見た。他の機体はつかまり立ちからよちよち歩きになった程度の動きでしかなかったが


彼女の機体は出撃の度に動きが洗練されていくのに目を見張った。


(ラナも頑張っているからな・・・これはウカウカしていられない)


「レン!?レン!?聞いてるの?」


「あ・・・なんだっけ!?」


「呆れた。艦長室に集まれって通信あったでしょ!?気が抜けてるのはあんたもじゃないの?」


いつ間にかコクピットハッチが開いており眉を吊り上げた優歌が入り口に仁王立ちになっていた。


「かもな・・・本当に追い抜かれるかもな」


レンはヘルメットを取って頭を振った。


既にこの時間の監視要員を除いた全てのクルーでごった返していた艦長室に入った4人。


艦長席の奥の壁面中央のモニターに白銀の光球とそこから仰角40度ほどの角度で青白い光の柱が伸びていた。


「あれが・・・!?」


話に聞いていた異様な光景を目の当たりにして翔達は息を飲む。


「バリアー星だね。でもあれは第一目標じゃない。私達の目標はその手前250000km離れたここ、惑星セラだ」


モニター前に立ったルツはモニターに赤い点と何かのルートを青い線で表示する。


「第一と言うと次の目標、もしくは最終目標なんですか?」


「鋭いね、コトネ。実際のところはどうなるかはわからないが予定ではいずれこの星へ攻め込む事になるだろう。とはいえ今の私達に課せられた任務はセラの秘密工廠内にある何かの回収と囮の役割だ。私達を迎え撃ってくるであろう、番犬共を逆に引っ張り回して本隊の目を逸らす役割だ」


「何かってなんだよ?」


「それ、いつまで続けんの?」


誰かの呟きが全員の困惑の象徴していた。徐々に大きくなるざわめきが室内を埋め尽くした。更に自分達がよく分からないものを探している事と敵部隊に追い続けられるというストレスは想像以上に負担となるのだ。


「君らの言いたい事はよく分かる。だが今反対側の銀河でカルバラー擁する人類連盟軍主力艦隊がもう1つのバリアー星を攻略中だ。そこに敵の部隊を集中させないための作戦なんだ。幸いカンナエは修復中で出撃できる状態ではないからテルモピュライを向こうに持ってくる。だからこっちに来る敵で注意すべきは例の新型FOとサンバルテルミシリーズだな」


それが問題だろう、という言葉を翔は飲み込んだ。いかに相手が機械とはいえ自分達の家に土足で踏み込んできた敵に死に物狂いにならないとは言い切れるだろうか。


「もしかしてわざと目立つように動くってことですか?」


「そう。わざと敵の警戒経路に引っかかって都度巡回部隊を破壊して逃走する。具体的にはモニターに今示した青い経路を使って大回りしながらセラへ向かう。途中の赤い点はナールライト議員が用意して下さった補給地点だ。もちろんうまい食料もたっぷりあるぞ!!」


「流石上級議員様!太っ腹!」


「そう言う事だ。だから変に気負う事は無い。上の命令がどんなものであれ私達は今まで通り生き残る事を第一に考えて行動すればいい。私がこんな事を言うのは皆の中に上の連中に告げ口なんぞしないと信じているからだ」


歓声と微かな笑いがあちこちから上がる。そういう命令ならば進んで従うのが一般的な兵士の感想なのだ。



同時刻・廃星セラ近海


遠い昔の主人が生きていた星・セラの近海にはヘーレムの巡回部隊の基地が存在する。


ヘーレムが例の秘密工廠の扉を開くどころか近づく者も絶えて久しいこの星に近づく者を警戒している事や爆破する事もしないのは生まれ故郷である惑星セラに対して『無意識化』で畏敬と恐怖の念が刷り込まれていてそれを除去できないからではないか、というのがナールライトの考察だった。


今この基地はガルバオト率いる特殊部隊猟犬部隊に占拠されていた。実際、わが物顔で基地を闊歩し、それほど大きくない格納庫にはサンバルテルミⅡやグルンヴァルトと艦船が所せましと並ぶ半面、巡回部隊所属のタラス・ダンやマンジケルト・ダンが隅に追いやられオートノミー級やペイガン級は基地の外に停泊している様は軒を貸して母屋を取られるを体現していた。


「だから次の巡回要員を俺達とあんたらを交換してくれればいいんだ。こっちの艦が出てきたら奴らに警戒されんだからな」


「規則を変える事に陛下の許可を得ていません」


「俺の存在が陛下の許可だ!陛下に頼んで貴様を鉄屑にしてもらってもいいんだぜ!?それとも俺が貴様を今鉄屑にして許可証代わりになるかね?」


ガルバオトは基地守備隊隊長に凄むが相手は動じない。


『隊長、通信です』


「繋げ。・・・・は、そのように」


「陛下からか?」


「はい。全面的に協力するようにと」


「それで良いんだ。最初の命令だ。通信機を貸せ」


隊長は黙って通信機を渡して脇に退く。


「いいか?今度の巡回する21-Bルートの船に親衛隊のグルンヴァルトを、9-1Aルートには俺のシクとサンバルテルミ共を収容しておけ。奴らの調整は終わっているんだろうな?」


『はい。実戦運用していないので何とも言えませんが・・・』


「良いんだよ。本当は前の偵察戦の時に使いたかったのにシステム未完成とか言って使えなかったからな。準備出来次第すぐに出ろ!」


『了解しました』


30分後オートノミー級1隻が、続いてペイガン改級輸送艦2隻が基地から発進していった。



中央銀河某空域


カルブンクルス艦橋内のクルーは操舵士を除いて手元のコンソールからの情報を読み取るのに忙しかった。


「艦長、間もなくヘーレムの巡回ルートを横切ります」


「情報だとそろそろ定時巡回の時刻だが・・・何も見えないし反応もない。索敵を密にしろ。こっちに気付いて戦力を増強しているかもしれないからな。FOはいつでも出られるかい、ハリオ爺さん?」


『いつでも!』


「来ました!?こちらの後方からオートノミー級1隻!!」


「慌てる事は無い!補給艦を艦隊の中央に寄せつつエイジア級のコルトレイク隊発進!ラッダイト級はフレシェット隊を出して艦隊の防衛!本艦は先頭に出て敵の挟撃に備える!」


ルツはテキパキと命令を飛ばし、手元の地図と正面モニターを見比べる。


予定では艦隊はこのさきにあるもう1つの巡回ルートを横切る予定で2つの敵部隊を同時に相手する事になる。それでもこちらに勝算があると思うのは2つ目の巡回ルートが暗礁空域(あんしょうくういき)になっている事だ。


ヘーレムの巡回部隊の艦船の多くは従来型の大型艦の改装で、小回りが利かない為必然この中に飛び込んでしまえば実質FOのみに対応すればいいからだ。


こちらの編成はカルブンクルス以外ではエイジア改級が元より50m程大きくなっているものの、ヘーレムに比べれば小型艦ばかりである。


更に先程出撃したコルトレイクも後年『後期型』と言われるフレームの柔軟性と装甲の軽量化といったブラッシュアップが施されている。


「敵機はグルンヴァルトタイプ!?親衛隊のようです!?」


「FO隊には必ず2体以上で敵1機にかかるように厳命!カデシュとガンナー隊に援護させろ!」

悲鳴を上げるオペレーターにルツは冷静に返した。


いくら性能が向上しても相手方は最高峰のパイロットと機体なのだ。どうあがいても経験の差や腕前の面でこちらが不利なのだ。そしてこの問題は人間対機械人間の戦いが終わるまでずっとついて回るのだ。

その上で生き残り続けるには運を別にすれば出し惜しみなどは出来ない。


その事はカデシュのパイロット達4人も承知していた。


「35機もいるの!?」


「向こうもそれだけ本気なんだよ!だから今出来るだけ堕としておかないと!カデシュType・G出るよ!」


カデシュに続いてコルトレイク・ガンナー4機が発艦していく。



グルンヴァルトが前腕の内蔵式フォトンランチャーを放つ。それをコルトレイクが大盾で防ぐと同時に背後にいた僚機が脇からフォトンバズーカを放つ。バズーカをギリギリで躱したグルンヴァルトは敵の右側に回り込みながら右腕を振り上げて収納状態のプラズマアックスで切り付けた。


だがその刃はコルトレイクのプラズマパイクに弾かれ、渾身のシールドバッシュを受けて後退する。


「人間様を舐めるなよ!」


サポート役に徹していたコルトレイクパイロットが絶叫と同時にトリガーを引く。だがフォトンが放射される直前にバズーカが吹き飛んだ。


「速い!?」


いつの間にか高機動タイプのグルンヴァルトがレーザーナパームを撃ちながら距離を詰めてきたのだ。その速度から人間には対応できないGがコクピットに発生しているに違いないのだ。


2機の間に割り込む形で突撃をかけてきた高機動タイプの両腕のブレードがコルトレイクを貫く寸前上から放たれたフォトン光が高機動タイプと通常タイプのグルンヴァルトを撃ち抜き爆散させた。


「カデシュ!?来てくれたのか?」


『艦隊の援護に行って!フレシェット隊じゃ対処しきれない!こっちは飛び回らなきゃいけないから』


「わかった」


カデシュとコルトレイクの通信からは悲鳴と助けを求める声がひっきりなしに飛び交っている。反対方向に別れた彼らは友軍を援護に向かうのだった。



「奴らは案の定、暗礁空域に飛び込む気だな・・・ちと難しいかもしれんが初陣としては良いデータが採れるだろ。サンバルテルミ隊発進!!俺と共に死の罠を張るぞ!!」

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