第四十九話 新隊長ガルバオト
人類連盟の議会は新参者ナールライトの語りに騒然としたが、結果は大方の予想通りとなった。
彼を上級議員として遇する事、すなわち地球で言えばかなりの発言力と影響力をもった政治家兼将軍といった権利と責務を与えたのだった。
背景としては彼の持つ元ヘーレム第2艦隊の戦力を利用する事、ヘーレムの内情を聞き出したいというタカ派議員らの目論見が議会を押し切ったのだったが議員以外の人類連盟の将兵や一般市民と議会は彼の私兵集団の無言の圧力に屈したと見たのだった。
その『世論』を盾にナールライトは早速アーヴィダル要塞の司令室にカルブンクルスの主だったクルーを呼び集めた。
「君達を呼んだのは他でもない。君達にはヘーレム本星のある銀河中心部のかつての惑星セラ、今ではO1J37と呼ばれている廃星へ向かってもらいたいからだ」
「そこには何があるのですか?そもそも私達だけ、つまりカルブンクルスのみで敵の本拠地へ向かえという事が戦略的にも戦術的にも無意味で無いという保障が欲しいですね」
カルブンクルス乗員全ての代表としてルツ艦長が問うた。
ナールライトは無言で司令室のメインモニターを点灯させる。そこには三つに並んだ星雲のリングを巨大な光の柱が横一線に貫いた奇怪な星図が映し出される。
「これが宇宙の中心にある最初の三つ子銀河だ。この3つ子銀河の中心部に本星があるのだが、君達には左側にある銀河にある先程説明した惑星セラへ向かって欲しい。ここにはカデシュに必要な装備があるはずだ」
「それなら既にヘーレムが持っていってしまったのではないですか?」
カデシュのメインパイロット・北条翔の疑問は誰もが考える当然のものだ
「それが恥ずかしい話だが私もカンナエのパイロット・サークレイスもテルモピュライパイロットのオーシャもセラの工廠へ入る事が出来なかったのだ。理由は今も不明だが・・・だが女帝が持っていったという話も聞かぬ以上は君達のカデシュ以外にあの地へ入る事の出来る者はいないという事になる」
「では何があるかもわからないという事ですね。既に中が空という可能性も・・・」
「その意見に関しては反論できない。だが人類連盟の艦隊再編の為の時間稼ぎはどうしても必要なのだ。その為の補給や編成は最大限融通する。尤も今ある全ての艦艇や兵器を連れて行きたいというのは無理だが。何か質問は?」
司令室はざわめいたが彼の傍若無人さからは想像できない言葉に一転、水を打ったように静まり返る。
「はい!あの3つのリングを貫く光の棒は何ですか?」
誰もが聞きたくても聞けなかった質問を畏れと言う物を知らぬ相羽優歌は質問した。それに対しナールライトは淡々と答える。
「あれは本星防衛のバリアーフィールドだ。3つの星雲の回転運動による莫大なエネルギーを利用しヘーレムは本星を文字通りあらゆる攻撃と侵入から守られている。だが左右の動力を止めれば少なくとも侵入自体は可能となる。ちなみに連中は自分達の星に名前を付けていない。だから本星と呼んでいる」
「まさかその1つが・・・!?」
ルツの質問の意図を察してナールライトは再び口を開いた。
「いや。セラはフィールドジェネレーター設置には適さなかったのだ。だがフィールドの設置されたO3Z99から近いのは確かだ。ジェネレーター攻略作戦の為にも君達には囮として派手に暴れてほしい」
「しかし彼らはこの要塞の奪還を最優先に考えるのではないでしょうか?」
翔の言葉は機械なら余計な事を考えず重要拠点の制圧に乗り出すのではないか?という疑問があったのだ。その意図を察したナールライトは首を横に振る。
「その心配は無用だ。今彼らの目下の目標は自分達が完全支配している『内銀河』での支配体制を我々によって揺るがせない事だ。こちらの動揺を誘う為に威力偵察は行うだろうが自分達の内情を1から10まで知る私が寝返った以上、連中が攻勢をかけるとなれば私のカルバラーか君達のカデシュどちらか、もしくは両方の完全破壊に血道を上げてかかってくるだろう。その為にも私と君達が一緒にいる事はそれだけでその場所に敵部隊を呼び込むリスクが跳ね上がるといっていい」
「それならなぜ今すぐにでも連中は仕掛けてこないんだい?」
不信感丸出しのレンの言葉に一同は肝を冷やしたがナールライトは眉一つ動かさない。
「その点は私としても不可解としかいいようがない。既に戦闘から2か月が経過しているが、彼らの軍事行動を察知できていない上に要塞の修復は2割にも満たない。だがこの小康状態を好機として艦艇とFOの増産が当要塞で軌道に乗りかかっている現在、1日でも早くこの場を離れることが肝要なのだ」
ナールライトへカルブンクルスの整備士長兼技術士長ハリオが怒声を飛ばす。
「大した演説と気前の良さだがな、今コルトレイクの改修型とラッダイト級と新しいエイジア級の建造で要塞内はてんてこ舞いなんだぞ?どこに装備や部隊を送る余裕があると思っているんだ!?外があのザマで俺達がどっか行ったらここは1時間と持たないぞ!!」
事実彼は既に2日寝ずに整備やコルトレイクの機体バランスの修正を行っていたのだった。
彼はザルツ鉱山から送られてくる物資がFOや艦艇の建造に忙殺され要塞の外側、特に先の戦闘で大破した正面部分は事実上放置されたままになっている危険を良く分かっていた。
その時彼の懸念を現実のものとするように要塞内に警報が鳴り響いた。
「来たか!?」
ナールライトは司令室の受話器を取った。
「敵の数は判っているのか?」
『それが・・・1艦のみなのです。新造艦のようですが・・親衛隊の紋章が入っています』
「映像を回せ」
司令室に移された敵艦は十字手裏剣そのものの姿だった。
「何アレ!?今までので一番ヘンじゃん!?」
優歌は噴き出すが周りの『空気』は上向く事はなかった。
「ヘーレムにいた頃噂で聞いた事がある。ブリッジ・砲塔・格納庫を悟らせないためにあんな形にした試作艦を建造したとか」
その敵艦ユニタリスの艦長席に座っている人物、新たな親衛隊長は翔達はおろかナールライトさえ知らない人物だった。
全身黒の装甲に顔には目や口にあたる箇所の見当たらない、のっぺらぼう。
そんな人物が両足を投げ出して椅子の左右のひじ掛けをコツコツと指で叩く態度の悪さはこの人物から恐ろしさよりも尊大さを相手の第一印象として植え付けるものだった。
『ガルバオトよ。予定通りに動くのだぞ』
「ン・・!?これは陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
黒づくめのヘーレムは突然ユニタリスのブリッジクルーの1人の声音が変った事に気づいたが、首を右に捻っただけで応対した。
『2か月前に造ったばかりの新型のお前を失う訳にはいかんのでな。お前は予想外の行動を取りやすいのとこちらの声が届かないタイプの電子頭脳だからな。可能な限りお前を見張っておかなければならん』
「安い電子頭脳と引きかえにね」
ヘーレム女帝AT01は新たな親衛隊長の態度を咎めるそぶりも見せず淡々と話を続ける。
『親衛隊を失うよりは良い。その艦も試作した1艦のみとはいえ親衛隊が徴用したものだ。不利となったら余計な事を考えずに撤退するのだぞ。それが威力偵察というものだ』
「勿論。艦内のモノ、1つを除いてそっくり陛下にお返しいたします」
「きたi」
瞬間、クルーの頭部から火花を吹き出し、ガクリと首を垂れるとAT01の声が途絶えた。
銅脳の電子頭脳がAT01の『脳波』の威力に耐え切れず回線が焼き切れたのだ。
「隊長、サンバルテルミシリーズを無傷で返すのは不可能なのでは?」
煙を上げる同僚の隣にいた別のクルーの『常識的』な言葉にガルバオトは不機嫌な声で応える。
「言葉のアヤだよ。意気込みって奴だ。シクの整備は終わっているんだろうな?」
「既に」
手元のコンソールを操作し自身の専用FOシクの状態を確かめる。
そのFOは自分と同じセンサーの詰まった黒い球体の頭部を左右から花弁状の兜、異様に長い手足と異様に張り出した両肩を持つ暗いグレーの機体は頭部から黄色い光が明滅していた。
「では直ちに戦闘態勢を取れ。戦だぞ!!」
立ち上がったガルバオトの声は狩猟を前に興奮したハンターそのものだった。
(やはりここが一番落ち着く)
戦闘前というのに極めてリラックスした状態でガルバオトは3機のサンバルテルミⅡと2機のサンバルテルミⅢを従えてユニタリスから飛び立っていった。




