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Galaxy Trail  作者: 紀之
人類側の反撃

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第四十七話 アーヴィダル要塞攻略戦(下)(第3部完)




 人類連盟艦隊は混乱の渦に叩き込まれた。


敵の中でも最も力ある存在の1人であったはずのナールライトが裏切った。


それだけではなく、彼は今回の攻撃作戦や新FOコルトレイク開発の強力な旗振り役だった『テオス』その物だというのだ。


裏切り行為に関してはナールライト麾下(きか)のヘーレム第2艦隊がそれまで味方だったアーヴィダル要塞守備隊を攻撃し始めた事が確たる証拠となった。


だが彼が人類連盟の決定機関である人民協議会の重鎮たるテオスであるという事に関しては全員が、それも連盟の上の立場にいる者ほど信じなかった。


「テオスはかなりの高齢だ。私は1万年前に実際に会った事がある。今の声はかなり若すぎる。それよりも目の前に集中しろ!今は勝って生き残る事だけを考えよ!!」


ヴォロダ司令はブリッジクルーへ攻撃を命じつつそう言った。彼としてはこんな世迷言よりも現実の戦場で今後確実に大きな権限が与えられるであろうあの裏切り者を『分からせる』為にもこの作戦で戦功を立てる方が重要だった。


「ヴォロダ司令の言う通りだね。カケル、さっさと要塞内に突入しよう」


「嫌われたものだな。当然ではあるが。カデシュ、カンナエの抜け殻をアシミレイションシステムで吸収していくと良い。もうエネルギーが危険域のハズだ」


「いわれなくても・・・!」


ナールライトはレンの言葉に嘆息しつつもアドバイスを与え、カデシュがカンナエの『抜け殻』を吸収していくのを横目に見ながら、もう一度人類連盟の通信チャンネルを開く。


「各員!反物質で分解される可能性が高い以上、要塞突入には中央の反物質砲の破壊跡を使ってはならん!!突入には新たな穴を開けるか要塞出入口を使え!」


やるな、と言われるとやりたくなるのが人間の悪癖である。さらにその人間が信用も信頼もできないならなおさらである。


「ヘッ!いきなり大きな顔しやがって!そんなモンで権威付けしようだなんて見え透いてんだよ!!コイツは俺たちのモノとして使っていくんだぞ!?」


2機のコルトレイクと4機のフレシェットはナールライトの言葉を無視して反物質砲の残骸へ突入した。


彼等の言い分も一応としても後々自分達の拠点として使う予定のモノの損傷を広げる()われはないのだ。


だがそのモノの一部が自分達の良く分からない技術を使っているという事を彼らは失念していた。


破壊された砲口、つまり要塞内部に入った瞬間6つの機動兵器は残留していた見えない反物質の直撃で文字通り消滅してしまった。


「これで少しは信頼してくれる気になってくれると良いのだが・・・カデシュパイロット達、早く要塞内部で親衛隊FOを破壊したまえ」


「何故だ!?なぜあなたがやらない?」


かつての両親を利用した戦いを潜り抜けた翔の言葉に理性的な抑制を感じたナールライトはあえて淡々と言葉を続けた。


「ヘーレムは要塞を爆破するはずだ。こちらの拠点にさせないためにな。その起爆装置は恐らく親衛隊長の電子頭脳と直結しているはずだ。私は外でヘーレム共の動きを観察し指揮する義務がある。連中は私を何が何でも討ち取りたいだろう」


「これ・・・ザルツで戦ったロボットじゃん!?」


カデシュのコンソールに送られてきたデータに相羽優歌は翔、レンそして琴音の顔を交互に見据える。

その目はこの言葉を信用していいのかと問うていた。要塞内にいる間にカルブンクルスが破壊されるという懸念が4人の心の中に芽生えていたのである。


「俺は・・・あなたを戦略家、指揮官としては信用する」


「それでいい。君のような人間の方が(かえ)って信用できるというものだ」


苦虫を噛み潰した表情のまま翔はカデシュ・ダンを要塞へ向ける。


モニター上には明らかに人類連盟側の火線は敵に比べて少なく、また勢いが無かった。明らかにガス欠が近いのだ。艦艇はともかくコルトレイクにも機体の『栄養補給』が出来るアシミレイションシステムを持っているが実際にこれを使用できる胆力を持つ兵士は殆どいない。


「俺が前に出る。後ろからバズーカなりガンなりで援護射撃を頼む」


要塞外壁に張り付いているFOクレシィ部隊の砲撃に及び腰のコルトレイクの1機から盾を借り受けるとそれを構えて突っ込んだ。


「あたしも行くよ!」


カデシュの登場に少しだけ士気を取り戻したコルトレイク隊はラナを筆頭に縦一文字に編隊を組んで後に続く。


4機のクレシィの横隊の4連フォトンガトリングガンの斉射を受け続ければいくらコルトレイクの盾が頑丈でも30秒で粉微塵になってしまう。


盾が崩壊した瞬間カデシュ・ダンはフォトンライフルを撃ってクレシィの1機の下半身を吹き飛ばすと同時に両翼の付け根からプラズマソードを射出、飛び出した剣は上半身だけになった機体の喉元とその左隣にいた別の1機の胸に突き刺さった。


カデシュ・ダンは加速してクレシィの胸に刺さった剣の柄を握り斬り上げるのと残り2機が左右から両腕を向けるのは同時だった。


正面の機体を蹴り飛ばして後退したカデシュは右側の1機をフォトンライフルで撃破。カデシュを追うように上半身を回転させたクレシィの最後の1機の全身に遅れてやってきたコルトレイクのフォトンガンとフォトンバズーカが撃ち込まれ爆散した。


「ようやく・・・か」


コルトレイクのパイロットの1人はモニター越しに要塞の正面ゲートを見上げてその開閉装置に取り付く。


「内部は1.5Gになっているらしい。コルトレイクは無理せず1ブロックずつ占拠した方が良いよ」


レンはナールライトから渡された要塞内部のデータを周りの味方に向けて送信しながらラナのコルトレイクへ通信を入れる。


「これを見越してコルトレイクを改装してたんならあの男、ここで裏切るつもりだったってこと?」


『さあね?どの道ラナの機体は鈍くなるから気を付けてね』


「そうする。そっちも単騎突撃するんならエネルギーに気を付けて」


ラナは自分の機体のアシミレイションシステムでクレシィの残骸を吸収してメガバズーカのエネルギーを充電しながら言った。


カデシュ・ダンは右手を振って了解の意を伝えると内部へ突入した。


ガクン、と重力に押し付けられる感覚を感じたのも一瞬で自動的に展開されたグラビティ・リフターでコクピットと機体周辺の環境は先程と変わらぬ環境に保たれる。


「最短ルート、本当に信用できる?」


「重力は合っているから・・・だから嘘はついていないと思うよ。内部の大きさに比べて守備隊の数が少なすぎるのも本当だと思います」


琴音の最後の言葉はカデシュ・ダンを動かす翔を気遣ってのものだ。


「牧野さん、俺は大丈夫だよ。あの時と全部同じってわけじゃないから・・・!」


翔は要塞の天井や壁に設置された砲台からのフォトン光を躱しながら下の階層へ続くゲートを潜る。


(そう・・・奴の言ってる事が全て正しいとは限らない。要塞の自爆装置については推論に過ぎない)


センサーが敵機を感知した。思考を戦いに切り替えた翔は背後に回り込もうとするグルンヴァルトへプラズマソードの切っ先を向けると2秒だけフォトンソードを発振、予期せぬ距離からのビーム攻撃に対応できずグルンヴァルトは真っ二つになる。


「指揮官の裏切りがあったってのに混乱が見られない・・・!?」


狭い通路に飛び込んだカデシュ・ダンの上下からフォトンの閃光が迫る。


後退するという選択肢を捨て、カデシュ・ダンを最高速度にまで加速させて光をやり過ごすと伏兵を無視して通路を曲がる。


「翔、前!?」


「わかってる!!」


殆ど直角に上昇したカデシュ・ダンは前方からの巨大なフォトン球が追ってきた2機のグルンヴァルトを貫くのを知覚すると同時に左手のフォトンライフルを正面に向けて撃つ。2機の接近戦仕様のグルンヴァルトはライフルを回避、直下に滑り込むと垂直式レーザーナパームを放つ。翔は火線の隙間を縫って下降しつつ、回避行動を取る1機をライフルで背後から襲い掛かったもう1機をプラズマソードで横薙ぎに両断。


「反応はこの先か・・・やれるの?」


「やらせてくれ。でもどうにならなくなったら交代する。約束するよ」


脂汗を拭う翔にレンは声を掛けるが、彼は自分を突き動かす『何か』を信じる事にしたのだった。


(これは俺だけの問題だからな・・・)


その正体が下らない意地によるものだと感じつつもこれを乗り越えないと1歩も先に進めない気がするのだ。


狭い通路の先。そこには奥には巨大な扉がある以外には何もない真四角の部屋があるだけだった。


そこに親衛隊長アダ・ン=リムのグルンヴァルトと4脚型の防衛タイプのグルンヴァルト4機が待ち構えていた。


「外では兵を引いている。あんたらももうこれ以上戦う理由は無いんじゃないのか?」


「違うな・・・私は、我々はここで戦う義務がある。この戦いでカデシュの新たな性能を見る事で後の兵のデータに送る事になるからな。そういう意味ではお前達は手の内を晒し過ぎた!」


4脚が四方に散ると同時にリム機が突進する。


「速い!?」


ソードの斬撃より早く懐に潜りこまれたカデシュ・ダンはグルンヴァルトの鉄拳を受けて吹き飛ぶ。


(奴の次の行動は・・・・予想通り!)


全身のスラスターを吹かして機体を立て直したカデシュ・ダンはその行動を先読みしていた4脚型に取り囲まれ両手足を腰部前面に装備されたプラズマクローで拘束する。


「く・・・!?」


翔の思考より早く4脚グルンヴァルトは両腕の盾に内蔵されたフォトンライフルを至近距離で連射する。


その後ろでは隊長機がフォトンボンバーの発射体勢を整えていた。


「こうなったら・・・!」


「私を倒せばその瞬間要塞は爆発する。そういうプログラムなのだ。貴様は今私を倒せばどうなるか判らん奴ではないだろう?」


「ッ!?」


カデシュ・ダンの口部が半開きのまま止まる。


『撃てカデシュ・ダン。お前達が時間を稼いでくれたおかげで要塞に仕掛けられていた爆弾の配線を切る事ができた。・・・信じるかはお前達次第だがな』


「今更遅い!所詮はお山の大将になりたいだけのうつけ者が!」


突然のナールライトの通信にアダ・ン=リムは嘲笑で返しフォトンボンバーを撃つ


「・・・少しは頭が冷えたよ!」


正面の4脚のクローを強引に右手を引き口部で噛み千切る。拘束が解けた瞬間カデシュ・ダンは隣で左手を拘束する機体のクローへ損傷したグルンヴァルトを叩きつけて自由になった両腕で2機を鷲掴むと両腕のアシミレイションシステムで吸収しつつスラスターを全開にして回転、光球へ両脚を拘束していた2機を蹴り飛ばして離脱。


「おのれ!」


グルンヴァルトのプラズマアックスの斬撃をスウェイで躱すと翔は機体の左ストレートを敵機の頭部に叩き込む。直後モニターが真っ赤に染まり、激しい痛みが翔を襲う。グルンヴァルトの右腕の内蔵型フォトンランチャーがカデシュ・ダンの前腕を吹き飛ばしたのだ。


リムは更に左のフォトンランチャーを発射し即座に修復の始まった敵機の左腕を狙う。

「させ・・るかァ!」


左腕を振り上げソードを引き抜く動作でビームの直撃を避けた翔は大上段から剣を振り下ろす。


グルンヴァルトは収納状態のままの右腕のアックスで斬撃を防ぐと左腕のもう1本のアックスを横薙ぎに振るう。


「ウ・・ム!?」


必殺の一撃はフォトンソードに斧が溶解した事で防がれた。カデシュ・ダンは右側のプラズマソードを射出と同時にフォトンソードへ切り替えていたのだ。


「これで・・・!」


左もフォトンソードに切り替えると逆手持ちの右のソードと共に十文字にグルンヴァルトの機体を切り裂く。

「見事・・・!」


親衛隊長の最後の言葉は敵への賛辞だった。


その言葉はどんな罵倒や恨み節よりも翔の心を抉った。



この2機の戦いの決着によってアーヴィダル要塞攻略戦は終結した。


ヘーレム側は第一、第三、第四艦隊の残存部隊を彼らの本星へ向けて後退させざるを得なくなり、要塞とザルツ鉱山を失った事で事実上彼らの外銀河攻略作戦は頓挫した。


しかし勝利した人類連盟も深刻な事態を抱えていた。


2つの戦いで戦闘部隊の過半を喪失した上にナールライトの寝返りという新たな不和の種は組織的な反攻作戦続行に大きな支障をきたすことになっていくのである。

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