第四十三話 ザルツ攻防戦(下)
死神が滅茶苦茶に振り回した鎌が次々にグルンヴァルトの首を落としていく。
ヘーレム親衛隊隊長アダ・ン=リムが見たカデシュ・ダンType・Fの戦闘とはそういった印象を与えた。
そもそもの話、FOが自己進化して強化形態を持つなどという事はアダ・ン=キルが撃墜された遭遇戦までナールライトら別艦隊からも女帝からも聞いた事が無かった。
(だが・・・同じセラの民に造られたFOに出来る事なら我らにも出来るはず!)
グルンヴァルト内にセットされた彼の電子頭脳は全軍に指示を下しながらも身内の陰謀を疑うよりも飛躍した理論を弾き出した。
女帝によって定められた感情の昂ぶりによる戦闘能力の上昇がアダ・ンシリーズの特徴だった。それは裏を返せば増長や自信過剰で自滅する危険性も孕んでいる。
それでもこの機能が親衛隊の頭脳のみに搭載されたのは『有機人間の戦闘ポテンシャル』に一定の評価をしているからに過ぎない。
事実アダ・ン=リムはこの結論を下したのは下克上をするといった事を考えず『より女帝への忠勤の為』に必要不可欠だと考えたからでしかない。
『主力艦隊は親衛隊以外こちらへ向かい、別働隊を叩け。連中はザルツ基地と親衛隊に任せておけばよい』
ストラデゴスに前進を命じた親衛隊長の頭脳の視覚の1つはザルツ基地からの無数の高射砲と高高度迎撃にやって来たマンジケルト・ダンに後ろを取られて撃ち落とされる人類連盟のFOコルトレイクの映像が浮かぶ。
宇宙での戦闘と大気との摩擦熱でコルトレイクの重装甲も疲弊しているのだ。
(問題はむしろこちらだ)
アダ・ン=リムは視点を変更する。
新たに出撃させたMOアタノール3機と互角の起動戦を繰り広げるカデシュType・F(継戦能力保持の為元の姿に戻っていた)と射撃戦特化にカスタマイズされたグルンヴァルト10機からの砲撃(艦船の主砲に使われるフォトンブラスターを手持ち武器としている)に怯むことなくカルブンクルスを先頭にして艦隊を菱形に配置、互いのバリアーを増幅させてこれをFOの防壁代わりにして強引に進軍してくる人類連盟突撃部隊である。
だが、フォトンブラスターの威力は軽減されてなお、カルブンクルスの砲台や艦体各部を吹き飛ばし、カルブンクルスの見た目には特攻というより墜落しているという表現が相応しかった。
「第3砲塔、第4砲塔大破!!第1エンジンブロックに直撃しました!姿勢制御できません!?」
「カデシュの近くに向かえ!あいつらなら向こうから来てくれる!敵を1ヶ所に集めるんだよ!突入部隊をやらせるな!!」
ルツはオペレーターを叱咤しつつ、内心では祈りに近い希望を口にする事を口惜しく思っていた。外れた場合こちらも突入部隊も共に全滅必死だからだ。
『親衛隊重狙撃隊!目標をカデシュへ変更!私の援護をせよ!近接部隊は別動隊へ突撃せよ』
号令を受けて狙撃隊10機が一糸乱れず180度向きを変え、カデシュへ砲撃を掛ける。
同時にストラデゴスの後部カタパルトからカブトムシに似た角を頭部に持つグルンヴァルトが発進する。
アダ・ン=リムのグルンヴァルトは背部バックパック上部に外装式の高出力ユニットを装備し、30%の四肢のトルクとフォトン武装のパワーアップが図られている。
「早いな・・・」
重砲狙撃隊の視点を通してMOアタノール3機が母艦へ戻ろうとするカデシュType・Fの前に立ち塞がる。だがカデシュType・Fのクローとフェザーブレイドで切り裂かれ、あるいは親衛隊のフォトンブラスターへの盾にされて撃墜されたのを確認し、敵のパイロットを倒す事に更なる闘志を燃やした。
アダ・ン=ゴンのグルンヴァルトを撃墜した優歌はカデシュ・ダンを通常のカデシュへ戻し、背後で砲撃に曝されるカルブンクルスへと急いでいた。
そこにどこから出てきたのか2体のアタノールと既に出てきたもう1機のアタノールに包囲されてしまった。
「しつっこい!!」
急激に研ぎ澄まされていく感覚のままに優歌はカデシュの機体を操る。
(あれ?カデシュの動きってこんなに軽かったっけ?それに相手が遅く見える!?)
MO3機のフォトンランチャーを縫うように接近し1機の砲口へクローを叩き込み、近くにいた別の1機に叩きつける。激突し跳ね飛んだ2機をフェザーブレイドで切り裂いた瞬間突進してきた最後の1機をギリギリまで引き付けてオーバーヘッドキックの要領で下に潜り込みつつ蹴飛ばした。
最後の1機もカデシュの機影で隠されていたグルンヴァルト狙撃隊のブラスターを全身に受けて爆散した。
「やっとおわった・・・」
「待ってください!別の機体がせっき!?」
琴音の言葉と警告音が鳴り響いた瞬間にコクピットが揺れる。
アダ・ン=リムのグルンヴァルトのタックルを受けたのだ。
「角付き・・・!隊長機か!?」
「じゃあ、こいつをやれば!?」
「・・・・やるしかないね。ユーカ、交代するよ!」
抗議を口にする優歌に有無を言わせずレンはカデシュのメインコントロールを変更、同時に頭上のレバーを引いてカデシュ・ダンType・Gへと変身させた。
「ちょっと!1対1でそのフォームは無いでしょ!?」
憤懣やるかたない優歌を翔が宥める。
「いや・・・周りに砲撃タイプもいる。複数の敵を相手取るならType・Gだ」
「それに同じ機体の別部隊も左右から近づいています!レンさん、包囲されます!?」
「コトネ、ありがと!ここで1機でも落としてカルブンクルスと突入隊を守るよ!」
アダ・ン=リム機を見据えたまま四方から襲い掛かるカルブンクルスへ近接装備のグルンヴァルト15機をロックオンするレン。
トリガーを引き4門フォトンライフルと8門のホーミングレーザーナパームが一斉に放たれる。
「その考えが甘すぎると教えてやる!」
アダ・ン=リム機は赤と緑の奔流にその身を晒しバリアーを展開し、両腕を胸の前に翳して超高熱の砲撃を防ぎ切った。
「な・・!?」
アダ・ン=リム機の行動から本能的にレンはカデシュに回避行動を取らせた。
だが機体が動く前に装甲を融け崩したグルンヴァルトが両腕の内蔵式フォトンランチャーが両脚を直撃、
間髪入れずに接近し振り下ろされたプラズマアックスを右手のフォトンライフルを盾替わりにして防ぐ。
「強い!!だがこれで砲撃できないだろ!」
更なる追撃を防ぐ為カデシュはグルンヴァルトに抱き着き左手のライフルを敵機のバックパックに突きつけた。
「やるな・・・!この機体の特性を見抜いたか!?」
カデシュ・ダンを振りほどき、アックスを振り上げたグルンヴァルトの左手をレンが撃つ。
左手に握られた斧の柄を溶かし、フォームの狂った斬撃を躱しリム機の背後にいるグルンヴァルト隊へ再度全砲門を発射、カルブンクルス周辺にいくつもの爆炎が咲く。
無防備な背後を見せたカデシュ・ダンへグルンヴァルトは内蔵式フォトンランチャーの照準を合わせたアダ・ン=リムの視覚にザルツ基地周辺の映像が映る。
惑星ザルツの空は真っ赤な流星に彩られていた。その正体は突入に失敗したり基地の高射砲やマンジケルト・ダンに撃墜されたコルトレイク・フレシェットや人類連盟艦艇と運よく到達できた機動兵器が半々だった。
「何!?連中、破壊されたFOや艦艇を目くらまし代わりにして歩兵部隊を突入させたのか!?」
爆発寸前の艦艇や機動兵器から脱出艇や脱出カプセルが射出され赤茶けた大地に着陸し中から侵入部隊が爆発と黒煙に紛れて基地内に侵入を試みる。
ザルツ基地の防衛兵器はFOや敵艦艇を迎撃するように造られている。歩兵は的として小さすぎるのだ。
コルトレイクは1G以上の環境ではその重装甲が災いして飛行はおろか歩行が精一杯で僚機のタラスの援護を遠巻きにするか、基地の胸壁に配置した新型砲撃FOクレシィの4連装フォトンガトリングガンにハチの巣にされるかの2択を迫られていた。
(撤退の見極め時がきたか・・・)
リムはこれらの映像を見ながらランチャーを拡散発射、振り向いたカデシュ・ダンType・Gもフォトンライフルのショットガンモードを撃つ。赤と緑の光条がぶつかり閃光が爆ぜる。
「考える事は・・・!?」
「同じか・・・!?」
爆光の中接近しビームを撃ち合いながらすれ違う2機。
「ザルツ基地の資源は運び出したな?」
『既に』
「・・・よし。鉱山を自爆させろ!中の有機人間共を皆殺しにするのだ」
『了解』
「全軍アーヴィダル要塞へ後退!鉱山基地の兵員も順次離脱せよ!基地の自爆に巻き込まれるな!」
指示を出すとリム機はカデシュ・ダンに背を向けストラデゴスに帰投。それを皮切りに半壊したグルンヴァルトが後に続く。間を置かずカデシュ・ダンの足元のザルツからオートノミー級やエスノセントロン級といったヘーレム艦が飛び立ち、後方の宇宙の闇へと消えていった。
「地上から艦艇が脱出している・・・?急になんだ?」
翔は敵がまだ戦う余力を残していると感じていた為撤退の動きを訝しむ。
「もしかして勝ったの?逃げてくんだよね?これって!?」
「カルブンクルス、生きてるかい?」
優歌に同意したいのが本音だったが翔同様に不信に思ったレンは傍らにやって来たカルブンクルスへ通信を入れる。
辛うじて球形を保っているカルブンクルスルツからルツの声がノイズ交じりで途切れ途切れに応える。
『一応ブリッジクルーは無事だよ・・・マズイ事に連中は基地を自爆させる気らしい。ザルツの半分を消し飛ばす程の爆弾が仕掛けられていて後2分しかないらしい』
「Type・Dのプラズマバリスターなら狙撃できるかもしれません!行きます!」
ルツの上ずった言葉に応える琴音の勇敢さにルツも優歌も内心驚いていた。
「残りエネルギーから1発勝負だ・・・大丈夫、アタシも手伝うよ」
「ありがとうございます。レンさん」
カルブンクルスから送られてきた基地の断面図に爆弾の設置個所が点滅する。
「爆弾は山の火口部分に・・・しかも休火山じゃないか!?」
「それ問題なの?」
「眠ってるだけで何かの拍子に噴火する可能性があるんだよ。それを爆弾でやろうって事」
翔の言葉の意味を説明する琴音に優歌もようやく事の重大さに戦慄する。
「コトネ、火口直上に来たよ・・・!この細いケーブルを撃ち抜く必要があるけど・・・Type・Dにそこまでの狙撃精度は無い。だからType・Gでロックオンしたら瞬間的に変身して撃つんだ」
「判りました」
Type・Gの武器では射程はともかく熱エネルギーで周囲に余計なダメージを与えかねないのだ。
「・・・・く・・・捉えにくい!?」
「姿勢制御は安定してる・・・!これ以上近づくのは危険だ」
「大気との摩擦熱と振動がもう少し小さくならないの!?」
「・・・捉えた!?コトネ!!」
「はい!」
Type・GからType・Dへカデシュ・ダンは変身。
右腕のプラズマバリスターを火口へ放つ。
金属の巨大な矢が大気を切り裂き基地と時限爆弾を繋げたケーブルを突き刺した。
射撃の反動とエネルギー切れで惑星ザルツへ落ちていくカデシュ・ダンのモニターに戦いの惨状たる黒煙と赤い炎が火山周辺から無数に上がっているのが見える。
「止まった・・・の!?」
「多分な・・・噴火してしてないから・・な」
ここに人類連盟の辛勝とされるザルツ攻防戦は終わった。
記録ではヘーレム側FO6000機中2400機大破・艦艇55隻中12隻大破
人類連盟側FO2000機中1050機大破・その他の機動兵器3000機中2100機大破・艦艇60隻中30隻大破。
であった。




