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Galaxy Trail  作者: 紀之
人類側の反撃

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第四十一話 ザルツ攻防戦(上)




イド星系・鉱山惑星ザルツ近海


アダ・ン=ゴンの部隊は戦闘を終えてザルツの衛星軌道上のヘーレム艦隊へ戻って来た。


その編隊中に最新鋭FOグルンヴァルトが1機欠けている事は全軍に少なからぬ動揺を与えるに十分だった。


「しかし、敵をアーヴィダル要塞へ送った事はグルンヴァルト1機の喪失に十分報いる物だったと考えます」


旗艦・ストラデゴスのブリッジ内で叱責を受けた親衛隊員アダ・ン=ゴンの言葉に隊長アダ・ン=リムは無言でモニターの映像を切り替える。


「う・・・!?」


モニターにはアーヴィダル要塞は静謐(せいひつ)な宇宙空間に厳然と(そび)え立っているのみである。


「貴様と交戦した有機人間共の艦隊の行方は目下探索中だ」


「カデシュは、あの形態は今まで報告が無かった物です!布陣の再編を・・・」


「そして貴様に先陣を取らせると?バカな!」


アダ・ン=リムは部下の子も見ずに吐き捨てるようにその思惑を却下すると同時にコンソールを操作する。


『どうした?親衛隊長殿?』


「ナールライト司令、至急増援を送って欲しい。カデシュはこちらの想定を超える強化を果たしている」


『了解した』


ナールライトは自身に送られてきたカデシュ・ダンの戦闘記録を脳裏に再生すると


『だがこちらで建造中のグルンヴァルトを送る訳にはいかん。そういう勅命だからな。代わりにMO部隊とクレシィ35機を今から送る。防衛には良き働きをしてくれるだろう』


「協力に感謝する」


『健闘を祈る』


ナールライトはモニター越しにアダ・ン=ゴンと親衛隊長の立ち位置を見て内心ほくそ笑むがそんな事は一切悟らせない無機質な声音で短く返した。


普段から互いに良い感情を持ち合わせていない親衛隊と一般部隊だが惑星ザルツとアーヴィダル要塞の『持ちつ持たれつ』の関係では棚上げにせざるを得なかった。


アーヴィダル要塞はザルツの物資無くては成り立たず、ザルツはアーヴィダル要塞以外に大部隊を収容できる基地等は周辺に存在しないからである。


だからお互いに貸し借りを作ったとは思わない。


アーヴィダル要塞側がザルツ軍に『言っていない』事があるだけである。


「人類連盟共がザルツを抜くか?」


「ザルツ軍はカデシュ1機でどうにか出来る数でも無いしちゃちな戦術を取る男でもないよ、親衛隊長はな」


モニターの影になっている個所で一連のやり取りを見ていたサークレイスにナールライトは自身の素直な所感を話すだけだった。


サークレイスの隣の椅子に座っていたオーシャも同調する。


「陛下が親衛隊をむざむざ失う選択肢を取る訳がない、という彼らの慢心を逆手に取ったのが今回の作戦の肝だからな。ザルツを抜かれてもこちらの戦力と119機のグルンヴァルトでザルツを取り返せばいいだけの話だ」


「オーシャ、要塞の改修はどの位進んでいる?」


オーシャはアーヴィダル要塞の巨大なモニターに建造中の5つの砲の設計図と進捗状況を示す図面を映す。


「もうすぐ終わる。試射抜きで撃つことになるのが懸念だが・・・」


「構わん。どの道1発しか撃てん代物だ。要塞に悪影響が無ければそれで良い」



同時刻


ヘーレムのスペースジャンプ装置によって見知らぬ宙域に飛ばされた人類連盟艦隊。


カデシュのコクピット内で一人目覚めた北条翔は近づいてくるスラスター光の群れに目を凝らしてその正体を見極めようとする。右手は1度も撃った事のない拳銃に引っかかったままである。


「集結地点がここだって奇跡があっても良さそうだけどな・・・」


殆どありえそうもない自身の願望に苦笑する。


だがスラスター光の中央の影は彼の見知った形だった。


「ラッダイト級だ!・・・周りにいるのはエイジア号と同じ宇宙艇か?」


翔はシートの下に備えられた発光灯を引き抜いて機外に出ると人類連盟の暗号光通信を味方艦隊へ送る。

その信号に安堵したのか、恐る恐るといった調子で近づいていた艦隊はその速度を上げた。


2時間後には7つの艦隊が並列してザルツ攻略部隊の集結場所へ向かっていた。


「凄いね!こんなに一杯戦艦とFOがあるなんて!」


後方相羽優歌は歓声を上げる。


実際カルブンクルスの後方デッキの窓一杯の祖とは艦艇とコルトレイク、フレシェットで埋め尽くされていた。


「呑気だね、アンタは」


レンはやれやれと大げさに肩をすくめる。


「何よ!事実を言っているだけじゃない!!」


「まともに戦闘可能な艦はこの中の1割くらいだよ。後は補給艦とか火力不足の宇宙艇。FOのパイロットも経験不足だらけだしね。さっきの戦闘を見ただろ」


「う・・そりゃそうだけど。でも皆がそうって事は無いでしょ」


「じゃ、質問。アイツらはどうして何もない宙域を進んでいたんだ?」


レンは優歌とその幼馴染である北条翔、友人の牧野琴音を見回す。


「単にあそこを進んでいたんじゃないの?」


「それにしてはおっかなびっくりって感じだったな。まるで敗走してる感じだった」


翔の言葉にレンは頷く。


「それってこの先にさっきみたいな敵が待ち構えているってことですか?」


「かもね。でもアタシなら追撃を掛けるけどね。そうしないのはこの先が本陣って可能性もあるけど」


「その事をルツさん達は知っているんでしょうか?」


「スペースジャンプでのヒット&アウェイって事か。こっちの出血を強いているのか」


「そのお返しで格納庫のアレ、あたしが使うんだよ!?超高速で突っ込ませて敵を撹乱(かくらん)しろって無茶苦茶よ!!」


「多分ね。だから今会議してるんだろう。どうやったら一番敵にダメージを与えられるかのさ」


「アンタも十分ノンキじゃない!他人事だと思って!!」


「ギャアギャア喚く余裕があるんなら大丈夫だね」


「優歌、俺達もサポートする。俺達全員が全力を尽くさないと生き残る事も勝つことだってできない」


翔の言葉に他の3人は笑顔で頷き、拳を突き合わせた。



一方レンの言う通り、ラッダイト級1番艦『アーク』の司令室で4人の指揮官が今後の戦略を練っていた。


無言でそれぞれ右手の1枚の金属製のカードを巨大な机の窪みにセットする。


「「「「おお・・・」」」」


机に星図が浮かび上がりある座標に緑の1つの大きな光点が点滅する。その地点にいくつもの小さな白い点が集まってくる。


「他の味方艦隊も近くにいるのか」


レガスの言葉が地図上に表示される。それを呼び水としていくつもの反応が言葉として地図を埋め尽くす。例の地図アプリは一種の通信装置としての機能も持っているのだ。


「ここが集結地点か。ヘーレム共のスパイに悟らせまいとするテオスの深謀遠慮にはあ頭が下がる」


4人目の指揮官、カルブンクルスらに合流した艦隊司令であるモグラのようなずんぐりしたオモン人オグンは地図に表示されない様に感嘆半分、皮肉半分に呟いた。


彼の言う通り、4人の指揮官が揃わなければ人類連盟の集結地点は司令官クラスですら知りえることが出来ないシステムというのは、各個撃破される可能性が極めて高い軍の現状を知らない人間の考えそうな事だった。


このやり方を採用するテオスという人物も大した事はないとオグンは内心失望していた。


「オグン殿、まずは救援に感謝する。早速だがそちらが入手したという敵地のデータだが」


最年長のヴォロダの言葉にオグンは感謝の言葉を短く返すと机のコンソールを操作する。


集結地点と隕石地帯を挟んで惑星ザルツとその上空に布陣するヘーレム艦隊が3D表示される。


「大陸を文字通り覆う程の艦艇か・・・」


レガスは小さく唸る。


「そして地上の要塞と敵の配置はこれだ」


「地上は鉱山の周りを高射砲でハリネズミみたいにびっしり配している・・・FOはバノックバーンタイプとマンジケルトが中心・・しかし数が少ないですね」


ルツの言葉にヴォロダは何かに気が付いた様に眉を上げた。


「それだけ大気圏外で我々を討つ自信があるという事だろう。逆に言えば宇宙艦隊を振り切ってしまえば後は何とかなるとも言える」


「振り切る!?ヴォロダ総司令ここは敵地なんですよ!不可能ですよ!この数の艦艇と機動兵器を・・・」


「いや、オグン殿。彼らの宇宙艦隊は下から見ると円錐状に布陣している。つまり上からの攻撃には自慢の火力も味方に遮られて活用できないのだ」


ヴォロダは地図に赤い光点を追加した。


「ここだ。ここに我が軍の高速突撃部隊をスペースジャンプ後電撃降下させる。この部隊の護衛を」


「我々の役目という訳ですね」


ルツの表情はもう慣れた、という諦めというか悟りの境地を表している。


「その為の高速戦闘ブースターをカデシュに使わせるべく、現在調整中です」


後ろからレガスが引き継ぐ。


「うむ。我々とオグン隊もここに配置する。カデシュ以外はストラデゴスに集中砲火を掛ける。その間に主力艦隊はザルツへ降下し要塞を占拠せよ」


地図が了解の声に埋まる。


1時間後


カルブンクルスの格納庫にスクランブルが走る。


件の高速戦闘ブースターとは見た目は巨大なビート版だ。破壊されたラッダイト級の推進ブースター2つを改造したもので先端部に巨大なプラズマエッジと左右4門のレーザーナパームを装備、ブースターは2段階の切り離しが可能である。


カデシュType・Fはこの2本のブースターの間のバーに掴まる形で待機していた。この形なのはカデシュに他のFOやその他の装備を装着する事が出来なかった為である。


「これ、両側見えないんだけど!?」


「センサーを使え!とにかく飛び回りゃいい!ヤバくなったら切り離せよ!!」


優歌のクレームにハリオ技師長のダミ声がコクピットに響く。彼はブースターに加えてフレシェット戦闘機10機とカーカスの整備に文字通り寝る暇も無かったのだ。


整備士達がエアブロックへ退避する。発進の時が、戦闘の時が近づいていた。



ザルツ上空・ヘーレム艦隊


「ポイント455に敵艦隊出現・・・待ってください。ポイントX997にも熱源多数。有機人間共の艦隊・・・上を取られました!?」


狼狽(うろた)えるな。その為の布陣なのだ。各艦はFOとMO部隊順次発進後に砲撃開始!私のグルンヴァルトは出撃出来るな?」


「ハ」


艦隊旗艦たるストラデゴスの真上にこうも早く現れるとは親衛隊長アダ・ン=リムも思っていなかったがそれ以外は計略通りだった。


ブリッジを出て格納庫に急ぎながらリムは親衛隊へ発進を命じる。


「親衛隊全機発進!ゴン機を先頭にカデシュとカルブンクルスを抑えろ!」


一方奇襲を敢行したはずの人類連盟艦隊は初動が遅れていた。実際のヘーレム艦隊の配置を見て混乱の渦中にあったからだ。特にストラデゴス周囲の艦艇は死角からの攻撃に完全に対応できるように互い違いの横隊だったのだ。


「編隊が全然違うぞ!?どうなってんだ?」


『作戦変更は無しだ。主力艦隊は動揺せず各員足並みをそろえて進軍せよ』


ヴォロダ司令の冷静な声音が猛烈な火線で浮足立った艦隊を落ち着かせる。


「ヴォロダ司令、カルブンクルスとガランが!?」


「突出しているのだろう?彼らは自分の役割を全うしているのだ。全砲門撃て!カルブンクルスとガランを援護せよ」


遂に銀河の趨勢(すうせい)を決めるザルツ攻防戦が始まった。

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