第四十話 グルンヴァルトの猛攻
出撃したカデシュは執拗にフォトンマシンガンを補給艦へ浴びせかけるタラス・ダンの1機の背後を取ると振り返る暇を与えずフォトンライフルで撃墜した。
「ダメだ・・・・相手がマンジケルトやタラス・ダンでは早すぎてコルトレイクじゃ捉えきれない」
機体を旋回させつつ、北条翔はコクピットのモニターを見回しながら戦況を確認する。
「さっきの武器を持っている奴はいないみたいだね」
「なら敵陣から撃たれたのか・・・でも艦砲でもなかった・・よな?」
周囲を索敵していたレンの言葉を受け翔はレーダー範囲外の正面モニターの彼方を睨みつけるが、特段おかしな光や動きは見られなかった。
「新型のFOか戦艦でもなければ・・右後方・・・!4時からマンジケルトです!?」
牧野琴音の言葉が終わらない内に翔はカデシュをマンジケルト・ダンに向かって飛ばし、相手の両腕のツインフォトンライフルの4条の光の間に入るや否やトリガーを引く。
光弾の命中と同時にカデシュは敵機の後方へ飛び出すと同時にマンジケルト・ダンは爆砕する。
「ちょっと、危ないじゃない!」
相羽優歌の非難に翔は自分でも冷静過ぎる程落ちついていた。
「今までの奴らより動きが早い。少しでも意表を突かないとジリ貧だ」
彼は目の端にコルトレイクのフォトンバズーカを躱したタラス・ダンがマシンガンを撃ちながら右腕に固定されたプラズマソードを展開して突撃する様を見て、そちらに急行する。
コルトレイクは迎撃が間に合わないと思ったかバズーカを投げつけるが相手は小さく、しかし急激な旋回を掛けて移動コースを変える事無くそれを躱した。
「やらせるか!」
2機の間に滑り込んだカデシュの左前腕にソードが突き刺さる。と同時に翔はカデシュの右翼からプラズマソードを射出、ソードを消失させ間合いを取ろうとするタラス・ダンの右腕を掴むと剣を逆手持ちで体を捻って横薙ぎで胴と首を両断した。
その光景は遥か後方で戦場を撮影し続けていた偵察用FOガビエネを通してアダ・ン=ゴンのグルンヴァルトにモニターされていた。
「やるな・・・!流石は5柱を振り切って来ただけの力はある!」
瞬間、アダ・ンシリーズの駆るグルンヴァルト3機は縦1列となってカデシュへ向かう。
「レーダーに新たなFO反応!?識別・・不明!?」
「各砲塔はカデシュを援護しろ!滞空監視も怠るな!」
人類連盟各艦のオペレーターの悲鳴に各々の艦長は全く同じ指示を飛ばす。
「グルンヴァルトの、親衛隊の攻撃を捌けるか!?」
アダ・ン=ゴン機の両腕の爪が上に90度展開し、内部から10本のフィンガーフォトンライフルが飛び出し緑の光条を放つ。
彼は今回の作戦を忘れたわけではない。単純に後方で未だ準備中のジャンプ装置の起動を悟らせないという事もあるがその相手が作戦を実施するに足る強敵であるか、という戦士としてのプライドもある。
「っ!?速い!」
カデシュは幅を縮めながら追尾してくるフィンガーフォトンライフルを躱したが、前方と上からより太いビームの雨が降り注いだ。
「きゃあ!?」
背後のビームの直撃で破損した翼の装甲が優歌のメインモニターに直撃し、悲鳴を上げる。
「カケル!?後ろと上から来るよ!」
「前方からもレーザーナパーム!」
レンと琴音は爆発で揺さぶられながらも状況を翔へ告げる。
彼の瞬時の判断は機体を上昇させる事だった。
上方から迫ったグルンヴァルトは2本のプラズマアックスを合体させ両刃の大斧にすると右手のみで振り下ろす。
強力な一撃は防ごうと翳したカデシュのソードを易々と砕き、ならばと肉弾戦へと持ち込もうと間合いを詰めてくるカデシュ目掛けて左前腕を振り抜いた。
「ぐっ!?」
左前腕に装着されたアックスが右脇腹を抉る。フレームにまで届く損傷に翔の脳にカデシュの痛みが響く。
「後ろ!」
優歌の声に歯を食いしばりながら折れた剣を投げる。反動とスラスターを全開に吹かし翔は包囲網を抜けようともがいた。
弧を描いて逃れようとするカデシュの鼻先をフォトンマシンガンの弾丸が掠めていく。
「翔、あたしが代わるよ!Type・Fならアイツらのスピードに追い付ける!」
「優歌・・・頼むぞ・・ッ!?」
Type・NからType・Fへの変身の為にシートが回転するより早く、激震と共にコクピットが揺さぶられる。
「いっつ・・・!変身が中断された!?」
右肩をコンソールにぶつけた優歌は機体がType・Nのままなのを確認して絶句する。
「変身封じなんて・・・そんな事・・」
琴音の言う通りだった。
親衛隊はカデシュの『変身能力』を最大の武器と捉えており、研究の結果1.5秒のインターバルがある事とこの間に攻撃を受けると変身が出来ない事を突き止めていたのだ。
「データ通りだ。後はゲヘナバスターのチャージをさせぬ様に連続攻撃をかけるぞ」
『『了解』』
3方からフィンガーフォトンライフルと内蔵式フォトンランチャーが網の目の様にカデシュに降り注いで全身の装甲を焼いていく。
完全に停止したカデシュへアダ・ン=ゴンのグルンヴァルトを先頭に3機が縦1列になって襲い掛かった。
(強化形態の変身可能時間はもって15秒か・・!)
「終わりだ」
アダ・ン=ゴンのグルンヴァルトの右腕のクローが左胸に突き刺さる。
その瞬間カデシュType・Nはカデシュ・ダンType・Nへと『変身』
「・・・アダ・ン=キル離脱しろ!」
だがキル機はゴン機の真後ろにいる為にその言葉の意味も状況の変化も理解できない。グルンヴァルトの背中越しに振り下ろされた大型プラズマアックスをカデシュ・ダンの右腕が斧頭を掴んで押し止める。
「いかん!?」
キルはようやく異変に気が付き、後退をかける
だがゴン機とキル機が離脱するより先にカデシュ・ダンは右腕を振り下ろしゴン機の右腕をアックスで切り落とすとタックルで吹き飛ばした。
3機目のアダ・ン=エンのグルンヴァルトが上からフォトンマシンガンと内蔵式フォトンランチャーを連射し、アシストに入る。
だがカデシュ・ダンの強化されたグラビティ・リフターのバリアーはエン機の攻撃を防ぐと逆に切り落としたゴン機の右手を投げつけ弾き飛ばした。
「ここで・・・終わらせる!!」
翔の気合に応じてカデシュ・ダンはプラズマソードを引き抜くと同時にフォトンソードモードを発動、全スラスターを噴射し突っ込むと応戦するキル機の内蔵式フォトンランチャーを弾きながら一刀の下に両断した。
「キルが・・信じられん・・・!奴にあんな形態があるとは!?」
アダ・ン=ゴンはグルンヴァルトを容易に破壊できる敵を自軍の真っ只中に追い込む事に躊躇いを覚える。
「スペースジャンプ装置の状況は」
「いつでも発動可能です」
完璧に平静を装った声音にオートノミー級のオペレーターも淡々と返した。
「座標をC―667へ変更せよ。敵の戦闘能力はこちらの想定を上回っている」
「了解。座標変更」
その座標はアーヴィダル要塞の目と鼻の先だった。そこには3柱の高性能FOがいるのだ。
(5柱の排除は5柱にやらせるに限る・・・!)
2機のグルンヴァルトを追い抜いて2隻のオートノミー級が全速力で戦場に割り込んだ。
「何あれ!?」
優歌はオートノミー級の間にワイヤーで繋がれた、青白い光を噴き上げる円筒形を見て素っ頓狂な声を上げた。敵FOは2隻のオートノミー級へそれぞれに帰還し、ワイヤーを切り離した敵艦は左右に別れて全速力で戦域を離脱していく。
『あれはスペースジャンプ装置だ!あんな古代の装置がまだあったとは!?カデシュ、戻れ!!孤立するぞ!!』
ノイズ越しにヴォロダ司令の声がカデシュ・ダンのコクピットに響き渡る。
「あの光に呑まれるのは危険です!攻撃してアレの向きを変えます!」
ワイヤーを切り離した装置がスペースジャンプ装置と聞いた翔は円筒形へフォトンライフルを連射する。
彼は敵が自分達に有利な場所に自分達を追い込むつもりだと勘づいたのだ。ならば臨界点に達しつつあるあの光を避ける方法は攻撃の衝撃で射角を狂わせるしかないと判断しての行動だった。
「ヴォロダ司令、カケルの、カデシュのパイロットの言う通りです。新型を目くらましにしてまで装置を起動させたのは我々を確実に排除する算段があるからです」
『アーク』へ通信を入れるルツ艦長はその間にもカルブンクルスの10門の大型フォトンブラスターでスペースジャンプ装置を砲撃させる。その位置はカデシュ・ダンの狙撃位置付近だ。
「く・・・!これ以上の議論は時間のムダか!?全機あの円筒形を撃て!砲が焼き切れても構わん!」
『ヴォロダ司令・・!』
レガスの非難とも悲鳴ととれる声をヴォロダは無視した。
保守派最長老のヴォロダ司令がレガスら若い指揮官と違うのはこういった状況での自説に固執せずに生き残るための方法を判断できる嗅覚の鋭さである。
彼の采配で人類連盟の全ての機動兵器がスペースジャンプ装置の1点へ向けて攻撃を開始する。
「まだか!?まだ駄目なのか!?」
元のカデシュに戻ったコクピットの中で翔は2つの操縦桿のトリガーを人差し指で連打し続ける。
攻撃によって僅かに上に傾いた様にみえた円筒形から青白い光が放たれ、連盟艦隊を飲み込んでいった。
『攻撃し続けるのだ!たとい光に呑まれてもあのタイプは内部を損傷すれば座標は外れる!』
「だってさ!カケル、機体のエネルギーをライフルに回すよ!」
ヴォロダとレンの激励に翔はコンソールを操作し、ライフルの出力を最大以上に上昇させる。
「いっけえー!!」
強烈な光の中で僅かに見える内部壁面に最大出力の艦砲とカデシュのライフルが直撃し、爆発が連鎖的に内壁を吹き飛ばしていく。赤と青の光が混じり合った空間は歪み捻じれて収縮すると星の爆発に匹敵する熱と光が宇宙を照らす。
「う・・・・」
どのくらいの時間が経ったのか。
半壊したカデシュの中で翔は目を覚ました。彼の視界一杯にカルブンクルスの丸い装甲が広がっていた。
レガス隊とヴォロダ艦隊はどの兵器も川に流れる死体の様にどこかの宇宙空間を漂っていた。
「ここは・・・どこだ?優歌、牧野さん、レン起きてくれ!」
ヘルメットのバイザーを叩く翔の顔の左側に光が当たる
「艦隊が来たのか!・・・カデシュはエネルギー切れか・・・覚悟を決めるしかないな」
拳銃を腰から取り出した彼の目の前のいくつものスラスター光はレガス隊とヴォロダ艦隊へ段々と近づいて来ていた。




