第三十九話 遭遇戦
シュトロン星系の隣の銀河に「ラクマ星雲」がある。そこはかつて有機知的生命体が住む惑星が7つも存在していたが、5万年前に全てヘーレムによって爆破され住民の強制連行されてしまった。
ここを今、人類連盟きっての古参の将ヴォロダ率いる艦隊が通過していた。
「やっと・・・父祖らの地を、我が幼き日の惨劇の地を生きて再び見えようとは・・・!」
感慨深げに宇宙空間を漂う大小の石塊を眺めるヴォロダ含めた「ラクマ人」(この艦隊の乗員は全てラクマ人なのだが)は純粋な意味での「人型」ではない。
鳥を思わせる頭部と灰色の体色に両側頭部から生える触覚が頭上で輪を描き、背中には全員鳥の羽のような痣が例外なく浮かんでいる。ラクマ人は個々人で大きさや色の違うこの痣を誇りに思っており、彼等の着る宇宙服はこの痣の部分が見えるように背中のみが透明な素材で出来ている。
「ヴォロダ最高司令!これは天啓ですぞ!ここまで我らが生き延びてきた事、このルートを我らが通る事をテオスが認めてくれた事・・・・此度の戦もきっと勝利・・・を」
同じラクマ人の側近は涙ぐんで言葉が続かなかった。
「うむ。天の恵みに我らの力が加われば勝利は確実であろう」
ヴォロダの言う『我ら』とは彼らラクマ人しかこの世に存在しないような言い方だった。
しんみりとしかし厳かな空気はけたたましい警報音に霧散した。
「前方600m先にスペースジャンプ確認!?機械人形共です!!」
「何!?ここにまで偵察を飛ばしていたのか!?補給艦を後方に下げてフレシェットを順次発進させろ!」
「フレシェット隊・・・順次発進!?」
司令官の言葉に困惑したオペレーターがオウム返しに振り向いた。
「恐らく威力偵察だろう。コルトレイクを出すのは連中の戦力を見てからだ。出来る限りこちらの切り札の性能を見せたくはない」
「ハ・・!」
納得してオペレーターは自身の職務に戻る。
実際のところ、ヴォロダは自軍のFOの性能を疑問視していた。オペレーターに言った事は嘘ではないがあまりに投入が早すぎると感じていたのだ。
(兵は拙速を尊ぶというのは事実だがな・・・・)
命令を受けてフィジオクラス級補給艦5隻が旗艦ラッダイト級巡洋艦1番艦『アーク』と随伴艦同級2番艦『ラッダイト』の後ろに就くと各々の格納庫から支援戦闘機フレシェットを発進させる。
フレシェットの外見は地球でいう所の白い2つのブーメランを1本の円筒で上下に繋いだ
恐ろしく珍妙な姿をしている。
こんな姿なのはブーメラン1つでは要求された性能を満たせなかったからで、上の方に前方にホーミングレーザーナパーム6門、上下機首部に計4門のフォトンバルカンを、後方にスラスター2基を装備している。
もう1方の下のブーメランに推進器とプロペラントが満載されており、コクピットは2つのブーメランに挟まれた円筒部に1名が砲手、もう1名が操縦士として配置されている。
コルトレイクが歩兵ならフレシェットは騎兵の役割を担っている。つまりコルトレイクの苦手な側面や後方をカバーし、偵察や撹乱を担当するのである。
敵はコルトレイクをこちらの虎の子の兵器であると考えている。実際、FOを開発し運用しているヘーレムならばそれがどれだけコストが掛かるかはよく知っているはずだ。ならば人類連盟の従来兵器である戦闘機の延長であるフレシェットしか出さない事は連中の油断を誘える。これがヴォロダの考えだった。
一方のアダ・ン=ゴン率いるヘーレム先遣艦隊もこの動きにFO部隊を発進させる。
「例の敵FOは出てきていないのか?」
奇妙な戦闘機のようなものが20機ほどこちらに向かってくる。
アダ・ン=ゴンは電子頭脳のみを入れた自身の搭乗機であるグルンヴァルトのコクピットに偵察FOガビエネの映像を中継させていた。
だがやる事は変わらない。ゴンは当初の予定通りに行動した。
「連中はこちらの行動を威力偵察程度にしか見ていないか・・・判断は悪くないが消極的ではな!」
人類連盟に1拍遅れてタラス・ダンとマンジケルト・ダン、計25機が出撃、フレシェットのホーミングレーザーナパーム弾の火線を掻い潜ってタラス・ダン10機が敵機を無視して敵艦隊に一直線に向かう。
ここにきてヴォロダはコルトレイク隊を防衛の為に出撃させた。
彼等の中で最も危険なマシンがタラス・ダンなのである。
フレシェット隊が反転して追おうとするが、それをマンジケルト・ダンが両腕のフォトンライフルを撃ちかけ妨害を掛ける。
こうなると射程がマンジケルト・ダンに比べて短いフレシェット側は劣勢になる。
「振り切れ!艦を、俺達の帰る所を守るんだ!」
ラクマ人リーダーは自身の機体を再度反転、敵機のフォトンライフルの4条の光の間を縫って接近、バルカンを叩き込みマンジケルト・ダンを火球に変えると自陣へ向けて加速する。
その火球を盾にするように次々にフレシェットらが続く。彼らの目の前では緑と赤の火線が飛び交う光の地獄絵図が広がっていた。
だが戦闘機部隊が戻る最中にも自軍の艦がタラス・ダンの攻撃を受けて各部から火花を上げ、どう見ても劣勢に見えた。
「補給艦をもっと下がらせろ!コルトレイク隊は3機で円陣を組んで攻撃に当たらせろ!」
ヴォロダの指揮は的確だった。指示を受ける側の動きがぎこちない事を除けば。
コルトレイクパイロット達はM15の猛スピードで迫るタラス・ダンの編隊が放つフォトンマシンガンを盾で防ぐのが手一杯で、隊形を整えるなど二の次三の次の状態だった。
「くっそう!!」
動きが鈍いのを嘲笑うかのように近づいて来たタラス・ダンへコルトレイクはプラズマパイクを振り上げる。
だがタラス・ダンはパイクの柄を蹴って機体を敵機の真後ろに回り込み、背中にプラズマソードを突き立てる。
「グワッ!?だが・・・!このまま撃て!撃ってくれ!!」
コルトレイクは両手でソードを掴み離脱しようとするタラス・ダンを妨害、仲間の想いを無駄にせんと残り2体のコルトレイクのフォトンバズーカがタラス・ダンの胴と頭を消し飛ばした。
2機は爆発で吹き飛んだコルトレイクを救おうと手を伸ばすが瞬間、猛烈なフォトンライフルの連射が件のコルトレイクの背中の亀裂を直撃し、撃破。
戦いは一進一退の攻防となった。流れを引き寄せる為両軍の指揮官は次の一手を打った。
ヴォロダは緊急信号の発信を、アダ・ン=ゴンはグルンヴァルトの出撃を命じた。
「この戦争に勝ってもラクマが滅びては意味がない!このままではどの道押し切られるぞ!」
フレシェット3機がタラス・ダンに撃墜され、破片が『アーク』に降り注ぐ中ヴォロダが吠える。
「グルンヴァルト発進。200m先で停止後フォトンボンバー発射体勢に入れ」
3機のグルンヴァルトは全て姿形が違っていた。
ゴン機は異様に長い爪を生やした両腕
1機は赤い悪魔のような見た目の「通常の」機体
もう1機は本来両前腕部に装備される内蔵式フォトンランチャーを両肩に配置し前腕部に4本のプラズマアックスを装備している。
3機は三角形を描くように布陣すると胸の3つの砲口からエネルギーをチャージ、巨大な緑の光球を形成すると敵艦隊目掛けて放った。
「ヴォロダ様を守れ!!ラクマの勇者を死なせてはならん!!」
ラッダイトが随伴機3機と共に前に出る。
光球がFOと艦を諸共飲み込んだのとガランそしてカルブンクルスが宙域にスペースジャンプしてきたのは同時だった。
「遅かった!!しかしあれは見た事のない兵器だ!?」
『カケル、旗艦アークは無事だ!ヴォロダ司令の居るといないとでは士気も用兵も桁違いだ!だから何としても救い出してくれ!』
「了解!!カデシュ出ます!」
敵の新兵器を前に一瞬怖気た心を押し止めて北条翔はカデシュの操縦桿を目一杯引いて戦場へ飛び出していった。




