第三十八話 親衛隊の策謀
カルブンクルスとレガス率いる人類連盟の艦隊(旗艦ガラン・ダインと人類連盟の使う補給艦、4つの丸太を並べたイカダそのものの形をしたフィジオクラス補給艦3隻が随伴していた)はヘーレムの鉱山惑星ザルツ攻略へ向けて遂にシュトロン星系を後にした。
「ゲダムやコルンだっけ?変な惑星だったけどまた暫く星に寄らないのは寂しいね」
星々の瞬く暗黒の宇宙空間を監視デッキの強化ガラス越しに眺めながら相羽優歌は呟いた。
「ザルツという惑星はどこにあるんですか?」
『イド星系の真ん中にある。ここからダークゲートを使っても1週間はかかるね』
牧野琴音に別の監視デッキにいるレンが通信機越しに答えた。
「・・・今度の休憩時間終わったらまたあいつらの相手しないといけないんだよねえ」
『優歌、皆死にたくないのは同じなんだ。1週間で自分の機体を文字通り自由自在に動かせるようにしたいって思うのは当然だろ。生き残るにしろ勝つにしろさ』
「翔の言う事も分かるけど、シミュレーションだからか向こうが上達してるように思えないんだよね。こっちの経験値にもならないっていうか」
優歌の言う事は事実だった。ここ4日間、資材を無駄使いできないという理由でカデシュ対コルトレイク9機3隊のコンピュータープログラム上での模擬戦は優に100戦以上行っていた。
そこで分かった事はコルトレイクの機体性能は防御能力の高さと主兵装のフォトンバズーカとプラズマパイクの射程が長い反面、骨格の動きが硬いのと機動性が悪いという事だった。
この欠点を補う為と人類連盟側の練度不足から古代ギリシアの重装歩兵のように隙間なく機体同士を寄せ合ったいわゆるファランクス隊形を採用していた。
だがコルトレイクの武器はカデシュType・Nのフォトンライフルとプラズマソードの間合いを超えてはいたもののその欠点から懐に入り込まれたが最後、側面か背後に回り込まれて撃墜の憂き目に合うのだった。
「機動性をもう少し高くするか、相手の動きを予測して編隊行動を早くしないと背後に回り込まれて終わりだからね」
レンの言葉の調子は現状両方とも望むべくもない事を雄弁に語っていた。
そのくせ、連盟側は地球でいう所のAIやコンピューターによる操縦補助を嫌っている為にコルトレイクの動作プログラムは極めて単調なものでしかなかった。
理由は単純で機械と戦うのにその敵の力を借りるのは怪しからん、というのである。
この考えに気付いたカルブンクルス整備長ハリオは訓練2日目に訓練時間の半分をカデシュパイロット4名とコルトレイクの正規パイロットによる1対1の模擬戦にする事を艦隊上層部に了承させた。熟練者の動きを機体のコンピューターに覚え込ませる為である。
「『あんたらは兵士が多少腰抜けでも兵器が強ければ問題ないと思っているようだがな、FOってのは思考コントロールなんだよ!!いくらレバーで前進を入れても頭が後退を考えていたら機体はその場に留まっちまうか下手すりゃ逃げる。そこんトコロ分かってんのか!?』いや~痛快だったね!」
「同じ事を進言しても俺達じゃ取り合ってくれなかったからな。ハリオさんに感謝しないとな」
翔の言葉に琴音とレンが頷く。
優歌の顔マネに彼女が思った反応を誰も示さなかった。
「その覚え込ませた動作がどれだけカデシュに対して有効かを調べるんでしたよね?」
「といって一朝一夕でどうにかなるとは思えないけど何もしないよりかはま、マシだね」
ピピ!と交代の合図のアラームが鳴る。4人はそれぞれの通路から格納庫ヘ向かった。
同時刻
イド星系・鉱山惑星ザルツ
機械帝国ヘーレム全体で3番目、外宇宙のみの鉱山惑星内では首位の鉱物資源を生み出すこの星の上空と地表はヘーレム第1艦隊の保有戦力の約半数の兵器に埋め尽くされていた。
艦船50・保有FO1200機というこの大部隊を指揮するのが親衛隊隊長アダ・ン=リムである。彼は親衛隊としての役割を持たされるべく造り出されたアダ・ンシリーズ製造年数最年少という、ヘーレムの機械人間でも特に高い能力を有している個体である。
彼はザルツの大山脈をくり抜いて作られた司令部ではなくザルツ上空のストラデゴス級機動戦艦のブリッジから各部隊に通達を出していた。
「敵も編隊で来るぞ!連携が取れる機種での編成を急げ!!」
「ハ」
「例のカルブンクルスとやらの足取りは掴めたか?」
「いえ・・・しかし、シュトロン星系からならば後1週間ほどでポイント332-45、こちらの後背へ転移してくると思われます」
部下のオペレーターがモニターに示した進路予想図。示されたポイントにはダークゲートあった。
体の半分が機械化された紅い悪魔という見た目のリムは自身の考える予想図を付け足す。それは惑星上空に展開中の艦隊の真っ只中だった。
「ここに来ると言うのですか?」
「来させるのだよ。その為の部隊を編成せよ。タラス・ダンとマンジケルト・ダンの部隊でだ。奴らの近くに有機人間共の別の艦隊がいるはずだ。そいつらを襲って奴らをここへ誘い出せ」
「古代に使われた艦隊移動用のジャンプ・ユニットを・・・この為にわざわざ引っ張り出してこられたのですね」
「そうだ。FOの神髄は攻撃にある。兵器特性上守りに入ればどんな最新鋭機種でも劣勢になる。それは相手方のFOとて同じ事だ」
先の小競り合いからリムはコルトレイクの戦闘能力がタラスシリーズを前提にしている事を見抜いていた。
(記録によれば設計思想はグルンヴァルトに近いな・・・)
リムは己の人工頭脳が脳内で再生した映像、すなわちコルン上空で可変FOヘイスティングスが撃墜される様を様々な角度から分析する。
「グルンヴァルト3機を回せ。今出られるのはどの部隊だ?」
「アダ・ン=ゴン様ですが」
「1機でも数を減らしておきたい。それに噂のカデシュと我が軍の最新鋭機が本当に互角の性能を持つのかをスペック上だけでなく実戦で知っておきたい」
「ハ・・アダ・ン=ゴン部隊応答せよ・・・」
ストラデゴスの格納庫から二重円の物体、スペースジャンプユニットがタラス4機に運び出されるとオートノミー級2隻の後部に接続・牽引される形で出撃していく。
中央のコルトレイクを狙ったカデシュType・Nのプラズマソードが2列目のコルトレイクの盾に防がれると同時に左右と両斜め下からプラズマパイクが迫る。
翔はカデシュの右足で盾を蹴り上げ、反動で槍衾を躱すとこちらから見て左列のコルトレイクの右腕の関節部分をフォトンライフルで狙撃。伸び切った腕を吹き飛ばす。
「ここで!」
隊列に再び突っ込んだカデシュに前列がフォトンガン、後列2つがフォトンバズーカを放って迎え撃つが、上下にジグザグに回避したカデシュはライフルでバズーカを溶解しソードでガンを斬り飛ばしながら部隊の背後に回り込んだ。
最後列中央のコルトレイクはこの動きを予測し機体を反転させたが1歩遅かった。機体同士が相対する前にカデシュは強引に相手の盾の上方先端を剣の柄で押し下げる。
盾ごと縦回転したコルトレイクは下方へと流れていく。入れ替わりに隊列に割り込んだカデシュは二丁のライフルで至近距離から対応の間に合わないコルトレイク達のバックパックや頭部を撃ち抜いて模擬戦での勝負は決まった。
「さっきの攻撃は危なかった」
ブラックアウトしたコクピットの正面モニター兼用のハッチを開き翔はコルトレイク部隊のパイロット達に声を掛けた。
「動きが良くなっただろ?次は撃墜するからな」
陽気な声が返ってくるのをレンは咎めた。
「1対多数それも何度も相手してるからだろ。実際は初見でどうにかしないといけないのよ」
「レン様は手厳しい事で」
「なら、今度はカデシュ側にも戦力があっても問題ないよね?」
FOの足元にやって来たラナがパイロット達に声を掛ける。
「カーカスで何が出来るって言うんだよ」
「・・・コルトレイクの支援機にカーカスの正式版が採用されたんだろ?ならその威力を確かめておいた方が良いと思うけどね。他の部隊には配備されているっていうし」
あからさまな侮蔑にラナは相手を睨みつけて言った。
その情報は真正だった。このガラン・ダインに支援機ペクサンが配備されていないのは単に補給が間に合っていないというだけの話なのだが、ペクサンのモデルになったのはカーカスなのである。
「あんな手羽先みたいなのに支援されんでも俺達は十分やれるさ。こっちとしては数を揃えるならコルトレイクにしてほしいね。それが本音だろ?」
ラナは肩をすくめて同意を示した。彼女としてもカーカスよりコルトレイクのパイロットになりたかったのだが、編成の変更は受け入れられなかったのだ。
「どうする?やるの?やらないの?」
トゲのある彼女の言葉が終わらぬ内に格納庫に緊急通信が入る。
『Bポイント287-66にて友軍が交戦中!機動部隊は第一戦闘配置で待機!!』
「いきなり実戦で連携しろってか!」
「そう言う物でしょ!」
毒づきながらパイロット達は各々の機体の立ち上げを始めた。




