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Galaxy Trail  作者: 紀之
人類側の反撃

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第三十七話 決戦の序章




 オーシャのエスノセントロン級強襲揚陸艦が惑星トマに布陣するサークレイス率いるヘーレム軍本陣に戻ってきた時、彼らは撤退準備をほぼ終えていた。


「撤退するつもりか?」


『アーヴィダル要塞へ5柱を持つ3軍団集結せよとの勅命だ。届いていないのか?』


「こちらは強力な電磁兵器の影響を受けていてな・・・機体は良くても我々パイロットの方が参っているというのがこちらの部隊の現状だ」


『事情は分かった。ではこちらの旗艦に入れ。貴公らの電子頭脳や身体各部のリフレッシュを行うと良い』


「・・・寛大な処置に感謝する」


敵を完全に舐め切っていた。カデシュ・ダンの思わぬ反撃にここまで消耗するとはどの演算予測を用いても想定すらされなかったのだ。


結果、サークレイスの第3軍以上の大打撃を受ける結果となってしまったこの時の屈辱をオーシャは死ぬまで忘れる事は無かった。


同時に自分達第2軍は援軍という立場なのだから受けられる補給は当然相手持ちだという計算が最終的に彼女の指揮官としての面子を辛うじて保たれる事にはなったのだが。


「陛下は第1軍の親衛隊を送るおつもりか・・・」


ペイリオコン級大型偵察艦のブリッジで顔を合わせた両司令官。オーシャは第1軍の司令官たる女帝の親征など馬鹿げていると考えている。いかに人類連盟が強大であろうと羽虫がカブトムシになっただけの事だ。そのカブトムシを獅子が相手にするはずが無いのが道理なのだ。


「グルンヴァルドがいよいよ完成したという事だろう。カデシュは例のサンバルテルミが相手どるようだ」


「我々のデータを基にして、か」


その戦術がオーシャには面白くない。


5柱がヘーレム軍最強の兵器なら親衛隊は軍内最強の部隊である。隊員達は全員が特殊な電子頭脳を埋めこまれ、最新の装備が与えられる。新型FOヘイスティングスはこの元々は1軍の物であったのを実戦テストの最終段階としてオーシャへ貸与されたという経緯がある。


「ヘーレム軍最大最強の戦力を持つ第1軍が外宇宙に出た事は歴史上片手で数えるほどしかない。だが我々にアーヴィダルに下がれと命じたのはいつでも増援を出せるようにしておけという事だ」


「1軍が負ける事が無いように、だろ?」


「口が過ぎるぞオーシャ!どの道連中の鼻っ柱をへし折らねばならんのだ。その為なら偽装撤退でもなんでもするという陛下の決意を無下にしてはならん」


その言葉にオーシャはサークレイスも親衛隊に含む物があると知り内心ほくそ笑む。


「後はナールライトがどう思っているかだが・・・」


「奴は真の愛国者だ。私や親衛隊の連中が陛下を賛美するのと奴が賛美するのとでは全く意味が違う」


サークレイスはオーシャの企み見抜いて、かつ角が立たぬ様やんわりと断った。



シュトロン星系・惑星コルン近海


突如戦場に乱入してきた人類連盟の部隊。カデシュ・ダンは連盟の新型FOコルトレイクと共に新型艦へ向かっていた。


「あれ、どこに着艦するんだろ?」


相羽優歌の言う通りだった。ラッダイト改級重巡洋艦『ガラン・ダイン』は艦の下部がX字の推進部で占められ、両舷がU字型の武装ユニットという異形だった。見る限り艦の本体にFOデッキのような物が見当たらなかった。


「あの新型FOについていくしかないな」


メインブリッジを艦後部に収納するガラン独特の機能からレガスの坐乗艦である事は判ったものの、北条翔はこんな短期間でこれだけの改装と戦力を用意できた理由を頭のもう半分で考えていた。


「あんなところから入るのね・・・」


呆れたような、感心したような声をレンは上げる。


X字の交点の真下からコルトレイクは上昇して艦内へと入っていった。


それに(なら)ってカデシュ・ダンが着艦する。イキイキした表情の整備員達が交わす、異様な高揚感に包まれた会話を聞きながら、翔は分隊した1か月前との士気の違いを(もたら)したレガスに内心舌を巻く。


「司令がお待ちかねですよ」


「・・・・どうも」


整備兵と明らかに異なる宇宙服を着た士官がカデシュの足下まで来て翔達を先導する。


「ルツ艦長も既に司令室でお待ちですよ」


「早いですね。それに凄い艦とFOですね」


「そうでしょう!スクラップ品をつなぎ合わせただけですが、ここまで高性能になるなんて驚きですよ!FOコルトレイクは我々の努力の結晶ですから当然ですがね」


士官の言葉には技術的な問題に全く興味が無いのが判って4人は苦笑した。


それを追従(ついしょう)と判断した士官は益々気を良くして司令室の前で大きな声でカデシュのパイロット達を連れてきた事を告げる。


「入りたまえ」


無言で敬礼するレン。


「お久しぶりです、レガス司令官」


地球人3人もレンに倣って敬礼する。


「ン・・・ご苦労だった。我が軍もようやく反攻の狼煙(のろし)を上げる事が出来そうだ」


レガスは司令官らしく、流石に現場の兵卒らほどは高揚していないように見えた。傍に立つルツも同じ。というよりもいつもの「外行き」の仏頂面のままである。


「反攻作戦・・・ですか?」


「そうだ。人類連盟の命運を賭けた戦、プロメテウス作戦だ」


レガスの『プロメテウス』という言葉が実際には彼の唇の動きとは全く違う事を牧野琴音は見逃さなかった。レン達と行動を共にして以来、彼女の耳に着けている高性能翻訳機が自分達の知識に見合った言葉を選択したのである。


(他の宇宙の人達も私達と同じような神話を・・・考えをしたというの?)


彼女の頭の中にもたげた疑問は現実的な軍事作戦を語るレガスの言葉に遮られた。


「この図の通り、作戦は2段階に分かれる。第一攻撃目標は連中の保有する鉱山惑星ザルツの攻略。これによって連中の外宇宙での軍事物資供給源の大元を絶つ。そして第二に作戦の最終目標たるアーヴィダル要塞を落とす」


「まさか、これだけの戦力で2つの拠点を落とせとは言わないだろうね?」


「もちろんだ、ルツ艦長。我々には情報漏洩の危険から互いに存在を隠匿しあっている部隊が外宇宙で最低20もあるのだ。それら1艦隊につきコルトレイク150機が配備されている。まずはこの部隊でザルツを奪還する。その後外宇宙からアーヴィダル要塞を取り囲むダークゲートを通って敵要塞の四方八方から艦隊が攻撃をかける手筈になっている」


星図とレガスの説明を聞いても翔達には非常に大きな作戦であるという事以外分からなかった。それを察したルツはまだ説明を続けようとするレガスを片手で制した。


「最初から説明しよう。まず外宇宙と内宇宙の区分だけど」


ルツはコンソールを操作し、アーヴィダル要塞にマーカーを点ける。


「このアーヴィダル要塞の空域は特殊でね。重力()じれの影響でワープだろうとその他の手段を採ろうがヘーレムの完全制圧された勢力圏に行くには必ずここを通らないといけない。そしてここにダークゲートが集中しているんだ。それでこの要塞を境に宇宙の内と外を分けているんだ」


「なら鉱山惑星を先に叩くのはどういう事ですか?」


「ザルツはね、外宇宙最大の鉱山なんだ。FOの部品類や機械人間のパーツの原料の7割がここで採れる」


「つまり、ここを落とせばヘーレムの侵略スピードが大幅に落ちる?」


「そうだ。カケル君、この作戦の意味が良く分かっただろう?」


最後の締めは自分だと言わんばかりにレガスが会話に割り込んだ。


「良く・・・分かります」


ヘーレムにしてみればここを落とされることは外宇宙への足掛かりを一気に失う事を意味する。


(絶対に死守しようとするはずだ・・・・それを今の俺達で抜けるのか?)


翔が案じているのは人類連盟軍の練度である。先程のコルトレイク部隊の奇襲攻撃で撃ち落としたのは僅か1機のみ。この部隊の練度が単に低いだけならまだしも他の部隊も同様だったら?


その結末を想像するだけで翔は身震いする。


「武者震いかね?それでこそ我が軍のエースだよ」


レガスは上機嫌で艦隊に移動を命じる。


反攻の火はさらに燃え上がるかそれとも濁流に飲み込まれるか。


それはまだ誰にもわからない事だった。

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