第三十五話 灯を守る盾
クローザット星系・惑星カンプ
北条翔らがいるシュトロン星系から2千光年離れたこの星最大の山脈は今ヘーレムのナールライト軍による爆撃を受けていた。完全な奇襲である。
ヘーレム軍の執拗な調査の結果この地に人類連盟のFO秘密工場があることが判明した為である。
「工作部隊、捕虜の確保は出来たか?」
FOカルバラーを駆るナールライトは言葉を終える間に人類連盟所属のタラスが遮二無二突っ込んでくるのをプラズマトライデントで串刺しにしていた。
『技師長その他責任者を捕えました』
無機質な返答に満足したナールライトは麾下のタラス・ダン部隊に工場突入を命じる。
「ただし、工場自体は極力傷つけるな。ここは宝の山だ。どんな掘り出し物があるか分からんからな」
『了解』
タラス・ダンの背を見送ったカルバラーは彼らの開けた穴から工場内に悠々と入り込むと旗艦に通信を送る。
「捕えた連中を記憶抽出装置に掛けろ。脳の隅々まで探って新型FOの実像を捉えるのだ」
「ハ」
(よくやる・・・山脈をくり抜いてここまでの施設を造るとはな。しかも工場内の音響をこの星のマグマの音に偽装されては表面上の観測だけでは見抜けぬ道理だ)
敵に少なからぬ賛辞を内心で送り、工場内を見渡す。何かが吊り下がっていたと思しきラックが天井に所狭しと並べられていた。
『司令、中には何もありません・・・ダミー工場でしょうか?』
「・・・急げ!!連中は既に新型のパーツを運び出しているぞ!」
ヘーレム軍には上官の命令に躊躇したり反論もしくは疑問を持つという事が無い。
彼の指示を受けたタラス・ダン4機が工場奥へと突っ込んでいく。
(これだけの攻撃の中を通常の手段で惑星外には運び出そうとは流石にしないはず・・・)
ナールライトはカルバラーのモニターを拡大して工場内の壁を見回す。
「これか」
資材搬入口。その上の壁が不自然に手前に飛び出していた。
「所詮、人間の浅知恵!!」
蹴り破った先には巨大なトロッコのレールが溶岩の真上を走っていた。レールは溶岩の先のトンネル内に続いている。
「タラス・ダン1機はポイント12-89へ急行せよ!私がネズミを追い込む」
『直ちに』
スラスターを吹かしてレール上を駆ける。
「やはりな・・・ッ!」
トンネル内で奇襲を受けた。正確な所はカルバラーにとっては児戯にも等しい抵抗だったが。
背後から2基のクレーンで両肩を掴まれると同時に、前方の闇の中から赤と黄色、レーザーナパームとメタルランチャーの砲撃を受けたのだ。
カルバラーは両腕の伸縮機構を伸ばし、前腕のプラズマクローを突き立てる。クレーン(バーショットという旧式の戦闘兵器)をトンネルの内壁からもぎ取るとそれを盾にナパームを防ぐ。実体弾は機体の首を右に少し捻って躱す。
お返しとばかりに焼け爛れた残骸を闇の中の光を発した個所へ投げつけると同時に再びスラスターを全開にする。
爆炎を抜けて目的のシャトルを捕捉。飛び出したシャトルは待ち伏せていたタラス・ダンのフォトンマシンガンを躱しながら上昇を続けたが、背後からのカルバラーの頭部フォトンライフルに撃ち抜かれ粉々に吹き飛んだ。
「あっけない」
『司令、先程のシャトルは囮です。捕虜の記憶を探った所、連中は自分達を囮にして腕のパーツを運ぶ計画を立てていました。しかし、その方法は知らないとは考え』
瞬間、轟音が基地を揺るがす。
旗艦の記憶抽出装置を使って『尋問』していたクルーからの通信にナールライトは質問を被せる。目の前で火山の噴火と共にいくつもの貨物船が飛び出していくのを目にしたからである。
「ストラデゴス、連中の向かった先には何がある?」
グラビティ・リフターでマグマを船体にコーティングするという芸当も今まで人類連盟では無かった戦術だった。
『シュトロン星系です』
同時刻
シュトロン星系・惑星トマ近海
ここに展開している、ヘーレム軍サークレイス麾下の第3艦隊に惑星間緊急通信が入った。
『サークレイス司令、ナールライト艦隊から緊急入電あり。敵新型FOの開発基地がこの星系にあるとの情報です』
「そうか・・・我々の目さえ欺いた秘密基地なり工場があるか。陛下はこの事を予期しておられたのか?」
背面に金属分子カプセルのチューブをいくつも突き刺された、FOカンナエのコクピットでサークレイスはフォトンスマッシャーの照準上にカルブンクルス隊とガラン隊が一直線上に並んでいる事を再度確認する。そのガラン隊の進路予想を指し示す矢印の先は星図上では何もない空間なのだ。
「しかしその心配は無用だと伝えろ。カンナエのこの1射で全ての凶兆は打ち払われるとな!」
(フ・・・星の影に隠れようが無駄だ。フォトンスマッシャーの最大出力の恐ろしさを死の直前で思い知るがいい)
凶悪な殺意がサークレイスの電子頭脳から放射されると同時にカンナエの背部に装備されたフォトンスマッシャーが発射される。反動で機体が乗っているペイリオコン級大型偵察艦が後退するほどの威力である。
青白い2条の光が進路上の小惑星や過去の戦いの残骸を消し飛ばしながらシュトロン星系の惑星コルンへ刻一刻と迫っていった。
シュトロン星系・惑星コルン上空
駆けつけたカデシュ・ダンType・Fを収容した超大型移民船、カルブンクルスは傷ついた船体をコルンを盾にするべく動いていた。
「カデシュの収容急げ!全員で残った分子カプセルをぶち込むんだ!もう時間はないぞ!」
格納庫内に整備士長ハリオの怒声が飛ぶ。その言葉通り、彼は機器を操作してFOの金属分子カプセルを操作し、2つをカデシュ・ダンType・Fへ注射する作業を率先していた。
敵が撤退した。それは敵のフォトンスマッシャーが発射が完了した事、すなわち自分達を消し炭にする準備が整った事を意味していた。
「あの・・・!?カルブンクルスの整備分のカプセルは?」
大量に並べられたカプセルの数に困惑する牧野琴音。
彼女の言う通り、カルブンクルスの破損はこの格納庫にも及んでおり、壁面にはリジェネレイトシステムの力を以てしても未だ修復されていない亀裂がいくつも走っていた。
「その機会が出来るのは嬢ちゃんにかかっているんだ。つまり、カデシュ・ダンType・Dの力を当てにするしか俺らに残された道は無いってことよ」
「そんな事・・・」
「出来るって!!あたしに今まで出来た事、琴音はもっとうまく出来たんだから!カデシュの事だってきっとうまくいくよ!あたし達もついているからさ」
突然の期待に身を縮める親友の肩を叩いて相羽優歌は励ました。
「アンタの索敵は大雑把すぎて当てにならないけどね」
「何よレン!せっかく良い事言ったのに!」
レンの呆れた声に優歌は振り返って反論する。琴音は恒例の2人の『じゃれ合い』を微笑ましく見守っていた。
「牧野さん、カデシュは牧野さんの言葉と意志に応えてくれるよ。3つの姿がそうだったんだ。4つ目の新形態だってきっとそうさ」
「北条君に言われると不思議と納得してしまいます。やっぱり最初にカデシュを操縦したからでしょうか?」
素直な賛辞に北条翔は頬を掻く。
「それは判らないけど・・・自信を持ってくれたんなら良かった」
「自信はありませんけど・・・ただ1つ考えを思いついたんです。それをカデシュに伝わるようにイメージ出来れば」
「なになに!?あたし達にも教えてよ!4人分の考えならきっと伝わるでしょ!」
「コトネの考えはまともで分かり易いからカデシュにきちんと伝わると思うよ。だからアタシにも聞かせてほしい」
「優歌ちゃん、レンさん・・・ありがとうございます」
「礼は生き残ってからね」
照れ隠しでぶっきらぼう言うとレンは琴音の背後の席に素早く着席した。
「整備終了!嬢ちゃん、頼むぜ!!」
『正面に超高エネルギー反応確認!い・・・以前の100倍!?これは星の1つや2つ貫通する威力だぞ!?』
オペレーターの言葉は途中から状況説明ではなく目の前に迫った恐怖の実況になっていた。
「カデシュ発進後にバリアー展開と同時に総員対ショック体勢!!後何秒でここに来るんだ!」
「40秒!!」
引きつったルツの言葉に過剰に反応し、カデシュの誘導を怠ったオペレーターを叱責する暇はない。
「各員のやるべきことを全力でやれ!!足掻かない者を救うほど神様も暇じゃないぞ!!」
格納庫から猛スピードでコルンの反対側へと飛んでいくカデシュを見て自身の恐怖心を恥じたルツは最大音量にした艦内放送で激励の言葉を艦の隅々まで響かせた。
「ルツ艦長の言う通りですね・・・私もやれる事を」
「琴音、『私』じゃなくて『私たち』だよ。皆同じ気持ちだよ」
「優歌ちゃん・・・そうですね。皆さんを、皆さんの想いを守る為に!」
(カデシュ、力を貸して)
琴音は天井に現れたレバーを引く。
惑星コルンを背にしたカデシュの全身の装甲の隙間から緑色の光が溢れ、機体が変容していく。
頭部の形状は頭頂部のトサカが大きくなった以外にはType・Dと変化なし
胸部は胸当てを付けた弓道着に見える軽装に変化
肩部装甲が肥大化し、楕円状の緑色の大型装甲が追加
背部ウイングも形状がより複雑化し新しく生み出された大きな翼が元の翼を包み込み、こちらも外側からは楕円状に見える
前腕部に鏃状のパーツが追加
両腰に拍車状のパーツが追加され、脚部左右に8基ずつの大型のスラスター付きの装甲が現れる。
カデシュ・ダンType・D
それが眼前に迫る青白い破滅の津波から希望の灯を守る守護者の名である。




