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Galaxy Trail  作者: 紀之
人類側の反撃

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第三十四話 廃星コルンの死闘(後編)




惑星コルン上空


「カデシュ、敵FOと交戦・・・!落下しています!?」


大気との摩擦熱で真っ赤に染まったカルブンクルスのブリッジ。


目視とレーダーで周囲の状況を確認していたオペレーターの報告は悲鳴に近い。彼の目の前でヘーレムの新型可変FOヘイスティングスのレーザーナパームがバリアで弾けた。


「く・・・艦を出来るだけカデシュの近くに移動!!これ以上互いに離されるのを避けるんだ!」


大気圏突入という特異な状況に関わらず、ヘイスティングスは周囲の飛び回り突入前と変わらない激しさでカルブンクルスを攻撃していた。


総舵手はルツ艦長の言葉を忠実に実行すべく、左下に舵を急激に切る。


バババッっという破裂音とも爆発音ともつかない爆音がブリッジ内に響く。


カルブンクルスの重力バリアーがヘイスティングスと接触で相手のバリアーを破ったのだ。


破れ目から高熱と衝撃でヘイスティングスの1機が機体をひしゃげさせながら炭化していった。


カルブンクルスも無事ではない。

球体の左下の装甲が焼け、吹き飛んでバランスを崩し推進というより落下という方がしっくりくる角度で惑星コルンへ向かっていった。


カデシュとそれを拘束したテルモピュライを追って。



カデシュのコクピットの高度計の針が凄まじい早さで下降するのと比例してギシギシというコクピットの振動は高まっていく。


「これ、大丈夫なの!?」


相羽優歌の乾いた声が真っ赤に染まったコクピット内に響く。


「大丈夫じゃない。リジェネレイトシステムで修復されているが、本来なら3回は機体が真っ二つになる程の攻撃を受けている」


「翔は何でそんなに冷静なのよ!」


「生き残る為だよ!あの敵の正体不明の攻撃・・・・今も受け続けている、あの攻撃の正体を見破らない限り、勝ち目はない」


北条翔は惑星コルンの大気との摩擦熱で機体を焼き尽くさない為にバランサーとグラビティ・リフターによる重力バリアーを制御しつつ、胴体を締め上げる敵FO・テルモピュライの爪を引き剥がすべく岩の様に硬い操縦桿を左右に開くべく全身の力を込めた。


その間にも機体のコンディションを示すサブモニターが腹部に何かの衝撃を受け続けているのを警報音とマーカーで示し続けている。


「フォトン反応、物理的な弾丸その他の発射反応や痕跡はなし・・・・本当に衝撃だけの攻撃だってのか!?」


レンは翔の呟きをそのまま手元のコンソールに入力しながら言った。


「カケル、分析も良いけど次の行動を考えた方が良いよ。このままなら後数分で大気圏を抜ける。その後ならこっちもまともに動けるようになる。それは向こうも同じだけど」


それはカデシュが胴体から真っ二つになる事を意味していた。


「握り潰される前に脱出するには・・・・優歌」


翔は優歌を振り返る。


「Type・Fでも抜け出せないかもしれないよ!?」


「抜け出せないかもしれないが、超高速回転で振り回す事は出来る。同時に背部のプラズマフェザーブレイドを俺達全員で操作して奴の爪をこじ開ける」


「正気!?」


その真剣な瞳に優歌はため息を吐く。


「分かった。ただ、生き残るまでグロッキーにならないでよ!」


勿論、返事を聞いて優歌は翔からカデシュのメインパイロットを交代する。


「こんな物か・・・インパクトキャノンのリロードも(じき)に終わる。その時が貴様らの最期だ」


赤熱化する周囲と対照的な静穏そのもののテルモピュライのコクピットでオーシャの唇の端を上げる。


モニターの色が赤から真っ暗な黒に代わる。大気圏を抜けたのだ。瞬間テルモピュライのセンサーが獲物の変化を告げる。


「む・・・これが噂の『変身』か?だが、残念だったな!」


カデシュの『変身』時、機体周囲に衝撃波が発生する。しかしテルモピュライの機体には周囲の衝撃を吸収する特殊機構が備わっている。この機能のおかげで全FO中最も薄い装甲を持つテルモピュライが近距離戦における、恐るべき戦闘兵器たる所以なのである。


その余裕による、彼女の上がった唇は1秒後真一文字に結ばれる。


テルモピュライに掴まれたType・Fへと『変身』したカデシュはこの形態の特徴たる猛スピードで敵機を軸に縦回転を始めたのだ。


「馬鹿め・・・我々ヘーレムの機械人間が有機人間同様の三半規管があると思っているのか?それともテルモピュライのパワーを見誤っているのか」


彼女は真顔で高速回転するコクピットの1つのサブモニターを注視する。そこには機体の射撃武装の弾数やリロード時間のバーが小さく表示されている。


「充填完了まで後3秒か」


リロード完了と同時にオーシャの思念がテルモピュライの両脚に内蔵されたインパクトキャノの引き金を弾く。


「今だ!!」


衝撃波が脚先から飛び出す直前、カデシュType・Fの背部の5対のプラズマフェザーブレイドをねじ込むと同時に背部ウイングを切り離した。


ボゴン、という爆発と衝撃が両者を引き剝がした。爆炎が晴れるより先に2体FOの欠損部分は瞬時に再生、カデシュは距離を取るべくスラスターを吹かす。瞬時にM13まで加速したカデシュの右足を灰色の煙を裂いてテルモピュライのアンカークローが直撃し体勢を崩して浮島の1つへ墜落していく。


「捕捉された!?あの速度を!?」


「・・・カルブンクルスと合流する前にアイツを破壊するか撤退させるしかなくなったね」


牧野琴音の驚愕の悲鳴の意味をレンが肯定する。


(おかしい・・・何故さっきあの謎の攻撃ではなくアンカーを使ったんだ?)


翔は先程のテルモピュライの攻撃の映像を隅から隅まで凝視し続ける。


「まさか・・・射程が短いのか!?」


突然叫んだ翔に3人の少女の視線が集中する。


「一体何の話!?」


優歌はカデシュの体勢を立て直し、浮島の森林地帯の上を飛行しながらコクピットを振り返った。


「奴の正体不明の攻撃の事だよ。あの攻撃は目に見えない上にこっちのセンサーやバリアーにも反応しない。だがそんな攻撃をさっきあいつは使わなかった」


「弾切れだった・・・とかでは?」


「牧野さんの推論が正しいかもしれないが・・・俺だったらあの千載一遇のチャンスにあの攻撃をしないって選択肢はないな」


「だとしたら、今周りにいないのは・・・ユーカ!!その浮島から離脱しな!!」


「判るように言ってよ!」


1人蚊帳の外の優歌はむくれるが、それを無視してレンは畳み掛ける。


「生きてたら説明してやる!やれ!!やったらとにかく機体と敵との距離を離すんだ!」


彼女の剣幕に優歌はカデシュを上昇させようとした瞬間、大地を切り裂いて緑の2条のフォトン光が鼻先を掠めて行った。


「ウソ!?」


猛烈な加速で地中から飛び出してきた巨大な猛禽類を思わせる飛行形態となったテルモピュライが飛び出す。その奇襲をカデシュは文字通りタッチの差、ギリギリのタイミングで躱した。


「距離をとる・・距離をとる・・・」


「優歌、Type・Fをカデシュ・ダンに変えるんだ!俺やレンに出来たのなら優歌にも出来る!」


必死の形相で機体をライバルの言った事を忠実に守る優歌を幼馴染が励ます。


「そうよね・・・翔はともかくレンに出来るんならあたしにも出来るよね!!」


ハッとしていつもの笑顔が優歌の顔に戻る。


「その言い方!ムカつくね!」

コクピットに影が差す。


テルモピュライが滑るようにカデシュの真上を「獲った」のだ。


それをレンも翔も琴音も笑顔で見上げる。


すでに先ほどまでの理不尽さからくる恐ろしさを感じてはいなかった。


「カデシュ行くよ!!」


「獲った!!」


両脚をカデシュに向けたテルモピュライのインパクトキャノンを発射したオーシャは勝利を確信した。


だがインパクトキャノンの衝撃は何もない空間で炸裂した。


「な・・・上!?」


混乱しながらもテルモピュライに回避行動を取らせたのはオーシャの脳の『技量』ゆえだろう。


でなければこの瞬間にテルモピュライは細切れに切り刻まれて確実に終わっていた。


「カデシュ()!!このテルモピュライを超えるスピードを得るという事は許されないと教えてやる!!」


前方を向いた2つの角を持つデュアルアイ


7対のブレードと24の高効率のスラスターを持つ巨大なバックパック


より大きくなった両腕の3本のクロー


より流線形となったボディは文字通り飛行能力の向上を目的としていた。


オーシャの目はマッハ30以上で飛んでいるであろう、敵機の新たな姿、カデシュ・ダンType・Fの詳細なディティールを記録回路に焼き付ける。


「だが、その形態に射撃武器が無いのは判っている!」


テルモピュライは距離を離し、背部の連装フォトンキャノンを連射。威力と発射サイクルに優れたこの武装で敵の足を止め、両手足のインパクトキャノンでトドメを差すのがテルモピュライの戦術なのだ。


今や互角のスピードでコルンを飛び回る2機のFO。


4度目の射撃をカデシュ・ダンType・Fは機体を翻して機体をテルモピュライの正面に向ける。


()れて体当たりするつもりか!?」


オーシャの予測は当たった。


カデシュ・ダンType・Fは回避行動を一切取らずフォトン光へ自ら突っ込んで来たのだ。


(・・・あの速度と質量を受け止め切れるか!?)


オーシャの懸念はそれだけだ。全FO中最軽量のこの機体の装甲材に特別な衝撃吸収素材があろうとも限界はある。しかし確実にカデシュを倒すチャンスでもあるのだ。


もう一度フォトンキャノンを放ったテルモピュライは機体人型形態へ変形、敵を待ち受ける。


その間にもカデシュ・ダンType・Fは背中の7対のブレードを前面に伸ばして距離を詰める。


「しまった!プラズマソードの電磁効果でフォトンを切り裂いただと!?」


自棄(やけ)による特攻ではなく、自機の特性を考えた攻撃にオーシャは全速力で機体を上昇させる。


だが、ブレードから三日月状の巨大な光波が飛びテルモピュライの右翼先端を切断。


態勢を崩して回転するテルモピュライの脇をすり抜けてカデシュ・ダンは彼方へ飛び去って行った。


「遠距離兵器・・フォトンウエイブとでもいうのか・・・全機帰投しろ!状況が変わった!後は本隊に任せるのだ!」


僅かな時間敵を釘付けにした上に敵の新たな力とヘイスティングスの実戦データを取れたのだ。これ以上の損耗は望む所ではなかった。


姿を消して待機していた母艦へ他のヘイスティングスらが帰還したのを見届けたオーシャはサークレイスの許へと合流すべく惑星コルンを後にした。


それは即ち、FOカンナエのフォトンスマッシャーのチャージが完了した事を意味していた。

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