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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
最終部 無詠唱魔法解禁編

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第96話 「戦後」

 終戦から一ヶ月。世界は、後始末という名の、新しい建設に入っていた。


 ――日本。国会。


 特措法の恒久法化が、成立した。時限立法だった「異世界存在対策特別措置法」は、「異界性事象対処及び異界性人共生基本法」――通称「共生法」に生まれ変わった。「対策」の二文字が「共生」に変わったことを、新聞は「一年間の答え」と書いた。


 成立の日、大神一徹は議場の廊下で、記者にこう語った。


「わしの選挙区の婆さんがな、言うんだ。『騎士さんの盾のシール、次は何を貼ってあげようか』と。……対策の相手にシールは貼らん。隣人に貼るんだ。法律が、やっと世間に追いついたということよ」


 ――王国。王都アルディア。


 病から回復した国王(ヴォルフの供述通り、盛られていたのは緩やかな毒だった。解毒を指揮したのは理央である)は、玉座から、歴史的な布告を読み上げた。


『――王国は、三年の後、王国史上初の「議会」を開く。貴族院と、庶民院の、二院である。庶民院の議員は、身分を問わぬ選挙により選出される。……この決定は、王女フィリアの上奏に基づく。王女の言葉を、そのまま諸君に伝えよう』


 国王は、上奏文を広げた。


『「父上。王の賢さは、幸運にすぎません。わたくしは幸運に頼らぬ国を、隣の世界で見て参りました。首を取らずに、椅子だけ取り替える国を。負けても死なない国を。……王国の民に、その仕組みを贈ることこそ、王家が民に返せる、最大の恩義にございます」』


 布告の後、王都の広場では、市民たちが呆然と顔を見合わせ――やがて、誰からともなく、歓声が上がったという。その日の王都の酒場では「センキョ」と「トーヒョー」という異国の言葉が、乾杯の音頭になった。


 ――魔界。


 リリスは、月の半分を魔界で過ごすようになった。玉座の廃止。長老会の設置。三年後の「魔界初選挙」の準備。彼女は肩書きを問われるたび、面倒くさそうに答えた。「隠居だ。……ただの、口うるさい隠居だ」。なお魔界の administrative 事務所には、業務用エアコンが六台、白鳥エレクトロニクスから納入された。麗華いわく「異世界市場一号案件ですわ」。


 ――白鳥家。


 厳三郎の判決が出た。懲役四年、執行猶予なし。ただし判決文には、娘の告発と本人の全面供述が「二つの世界の危機の解明に決定的に寄与した」ことが、異例の長さで付記された。判決の日、麗華は傍聴席で背筋を伸ばし、父が退廷する瞬間、深く、頭を下げた。厳三郎は立ち止まり――あの、最後列の手の振り方で、小さく手を振って、消えた。


 麗華は今、白鳥グループの再建委員長である。十七歳の委員長は、就任会見でこう言った。「信用は百年、失うは一日。取り戻すのに、わたくしの一生。……安い買い物ですわ」


 ――そして。


 その夜、理央が、与太郎邸の茶の間に、一枚の観測グラフを持ってきた。


 いつもの騒がしさが、なかった。それで全員、察した。


「……報告が、あります」


 理央は、グラフを、卓袱台の上に置いた。


「世界中の門は閉じた。でも、最後の一つ――多摩の、最初の大裂け目だけは、完全には閉じてない。魔力の残滓で、辛うじて繋がってる状態。……私の計算だと、完全閉鎖まで、あと三週間」


 誰も、何も言わなかった。


「そして……ここからが、本題。残滓の解析から、逆算できちゃったの。門の、安定した開き方が。ヴォルフの供述の術式と合わせれば……三週間以内なら、一度だけ、安全に、向こうへ渡れる。……渡ったら、次にいつ開くかは、誰にもわからない」


 理央は、顔を上げて、俺を見た。茶の間の全員が、俺を見ていた。


「――レオン。あなた、帰れるよ。……故郷に」


 柱時計の音だけが、茶の間に響いていた。


 ……ああ。


 元に戻らないものの話を、とうとう、する時が来たのだ。


(第96話・了)

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