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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第58話 「あれは私の軍ではない」

 七基目の捜索が難航する中、それは起きた。


 深夜、リリスのアパートの窓が、内側から開いた。元魔王は、パジャマ(通販で三着買った)のまま屋根に立ち、西の空を、身じろぎもせず睨んでいた。


 三十分後、彼女は与太郎邸の雨戸を叩いた。全員が叩き起こされた。


「――人間ども。寝ている場合ではない。伝えることがある」


 茶の間に集まった俺たちの前で、リリスは、湯呑みも取らずに言った。


「裂け目の『向こう』の気配が変わった。あれは魔物の群れの無秩序な溢れ方ではない。――軍だ。編成された軍が、門の向こうに集結しつつある」


「軍……魔王軍、ということか」とセリス。


「そう呼ばれているものだ。だが、最初に言っておく」


 リリスの声は、静かで、そして刃物のようだった。


「――あれは、私の軍ではない」


「……どういうことだ、リリス。魔王軍は、お前が退位して、散ったんじゃなかったのか」


「散った。散ったはずだった。……だが、向こうの気配には『核』がある。玉座の気配だ。誰かが、新しい魔王を名乗っている」


 リリスは、そこで初めて、腰を下ろした。


「編成の癖でわかる。あれは私のやり方ではない。私の代の将たちのやり方でもない。……もっと、幾何学的だ。魔物の軍というより――駒の、並べ方だ」


「駒……」


「そうだ。そして、駒を並べる指は、盤の外にある」


 ――翌日から、防衛態勢は一段、引き上げられた。


 理央の観測網は太平洋岸に増設され、騎士団は即応配置に移り、特措法に基づく「対処本部」が官邸に常設された。七基目のアンカーの捜索には、リリスの魔力知覚も投入されることになった。


 その捜索の最中、リリスは、地下坑道の壁に残る微かな「残り香」の前で、足を止めた。


「……ふん。七基目を背負って逃げ回っている鼠は、ガレスだな。残り香が一致する。……だが、妙だな」


「何がだ」


「アンカー本体の術式の匂いだ。ガレスのような『使うだけ』の男の匂いの、奥に――設計者の匂いがある。これが……」


 リリスは、目を細めた。三百年の記憶を、遡る目だった。


「……レオン・アークライト。この匂い、私は昔、嗅いだことがある」


「なに?」


「五十年……いや、もっと前だ。私の代の前半。人間との戦争が、なぜか終わらなかった時代。……講和の使者が消え、和平派の将が失脚し、戦だけが続いた、あの嫌な時代の――幕の裏で、いつも同じ匂いがしていた」


 元魔王は、顔を上げ、俺の左腕を――腕輪を、指差した。


「――その腕輪と、同じ設計者の匂いだ」


(第58話・了)

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