第57話 「仮想敵は誰だ」
特措法の施行を受け、史上初の「日王合同演習」が、富士の演習場で行われることになった。
参加は、自衛隊一個連隊、警視庁機動隊、王国騎士団(特措法に基づき、剣が、ついに、正式に返還された。返還式で号泣する騎士が続出し、ゲオルグは大剣を受け取ると三度、天に掲げた)。
だが、演習計画の段階で、大問題が発生した。
「――仮想敵を、誰がやるか」である。
「オーガの突進を再現できる隊員はおりません」と自衛隊。
「ワイバーンの空襲を再現する機材がありません」と機動隊。
「魔物の動きは、魔物と戦った者にしかわかりませぬ」と騎士団。
会議室の全員の視線が、ゆっくりと、オブザーバー席の俺に集まった。
「……おい、待て。まさか」
「レオン殿。貴殿、確か『全魔物の動きを再現できる』と豪語しておられたな」と、ゲオルグがにやりと笑った。
「豪語じゃない。事実を言っただけ――あ」
語るに落ちた。
――かくして、演習当日。俺は「仮想敵・魔物役(一人)」として、三千人の前に立つことになった。
結論から言うと、演習は「伝説」になった。
第一次想定「ゴブリン三十の襲撃」。俺は三十匹分の機動を一人で再現し(分身はできないので、高速で走り回った)、機動隊の盾の隙間を的確に突いた。第二次想定「オーガの市街地侵入」。段ボールの「民家」を庇いながら戦う自衛隊員たちに、俺は容赦なく回り込んだ。第三次想定「ワイバーンの空襲」は、クレーンから吊るされた俺が上空から模擬襲撃するという、傍から見れば完全に意味不明な絵面になった。
「い、一人の少年に、一個連隊が翻弄されている……」と視察の防衛省幹部が呻き、
「うちの隊員が『レオン基準』で鍛えられたら、対人戦は無敵になりますな」と連隊長が笑い、
「もっとも、レオン基準の敵は、世界にレオンしかおらんのですが」と三隅一尉が締めた。
――だが、この演習の真の成果は、俺の運動量ではなかった。
夕方の講評で、ゲオルグと連隊長が、互いの隊の前で、同時に頭を下げたのだ。
「騎士団の対魔物の知見、余すことなく提供する。……貴国の民を守る糧とされたい」
「自衛隊の装備と組織運用、学べるだけ学んでいただきたい。……貴国の再建の糧とされたい」
三千人の拍手が、富士の裾野に響いた。二つの世界の軍隊が、初めて「同じ側」に立った日だった。
――その頃。都心の地下、深く。
アンカー撤去班は、六基目の解体を終えていた。「地下鉄耐震工事」の作業員に扮した理央が、無線に囁く。
「六基目、沈黙確認。残り一基。……七基目の反応が、その、変なの。位置が――昨日と、ずれてる」
『ずれてる? アンカーは固定設備でしょ』
「うん。だから、変なの。まるで……誰かが、背負って、歩いてるみたい」
(第57話・了)




