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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第49話 「無罪、そして宿題」

 判決公判は、開廷から主文まで、三分もかからなかった。


「――主文。被告人は、無罪」


 法廷が、静かに、震えた。傍聴席の誰も、歓声を上げなかった。上げてはいけない場所だと、全員が知っていたからだ。かわりに、すすり泣きと、深い、深い息の音がした。


 裁判長は、判決理由の最後に、異例の付言をした。


「……本件の審理を通じ、当裁判所は確信した。被告人は、本邦の法秩序を、多くの国民以上に真摯に尊重している。緊急避難の成立は、その真摯さの帰結である。――なお、付言する。本件のような事態を、今後も現場の個人の献身と、刑法三十七条の解釈のみに委ね続けることは、立法の不作為との誹りを免れない。速やかな法整備を、切に望むものである」


 司法が、立法に投げた、直球だった。この付言は翌日、全ての新聞の一面に載り、特措法の審議を一気に加速させることになる。


 ――裁判所の外は、お祭りだった。


 「無罪」の速報に、待ち構えた群衆から歓声が上がり、商店街のコロッケは午前中に売り切れ、騎士団は宿舎で(許可を得て)祝砲代わりに全員で盾を打ち鳴らした。


 その中心で、当の俺は――妙に、静かだった。


「……浮かない顔ね。無罪よ?」と美咲。


「ああ。ありがたい。氷雨にも、証人に立ってくれた全員にも、頭が上がらん。……ただな」


 俺は、裁判所の建物を、振り返った。


「俺は今回、『ぎりぎり合法』で勝った。氷雨の腕と、運と、無人の車のおかげでだ。……次もそうとは限らない。次は、車に人がいるかもしれない。電柱の向こうに、人がいるかもしれない」


「レオン……」


「強さが足りないんだ、美咲。壊さずに勝つ強さが。法を破らずに守り切る強さが。……八体のオーガ相手に電柱二本。魔王を殴った俺が、まだまだ未熟だってことだ。修行し直しだな」


 美咲は、呆れたように笑った。


「……無罪判決の日に修行の反省をする被告人、日本の司法史上、あなたが初めてよ」


 ――なお、壊れた電柱と道路と車両の弁償(無罪でも民事は別、と氷雨に念を押された)を巡っては、ちょっとした騒動があった。


 王女が「王国が国家として全額弁償します。力には責任が伴うことを、王国が示します」と申し出たところに、麗華が乱入したのである。


「お待ちになって!! ここは白鳥グループが……! レオンさんへの貸しを作る千載一遇の好機ですのよ!?」


「本音が漏れておりますわよ、白鳥さん」


「あら王女殿下こそ、これは国家間の貸し借りですわよね!?」


「まあ」


 結局、折半になった。電柱の一本は王国、もう一本は白鳥グループが弁償し、両者の名前が入った真新しい電柱は、後に「日王友好電柱」と呼ばれ、商店街の観光名所になった。何なんだ、この街は。


 ――そして、祝賀の輪の外で。


 理央だけが、一人、浮かない顔で自分の端末を睨んでいた。


 観測データの整理中に、見つけてしまったのだ。自分の研究室のサーバーから、外部への、身に覚えのない送信ログを。


 それも、一度や二度ではない。……この、三ヶ月間、ずっと。


(第49話・了)

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