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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第48話 「九十秒の解剖」

 第一回公判の東京地裁一〇四号法廷は、傍聴券の倍率が七百倍を超えた。


 罪名は、器物損壊。争点は、ただ一つ。


 ――あの九十秒の破壊は、「やむを得ずにした行為」だったか。


 検察官は、有能で、そして誠実だった。冒頭陳述で、彼はこう言い切った。


「検察は、被告人の勇気を疑いません。八体のオーガから住民を守った事実も争いません。……本件で問うのは、ただ一点。『electric柱二本、道路四十メートル、車両三台』――この破壊は、本当に、避けられなかったのか。力ある者の破壊に『仕方ない』の前例を作ることは、法治国家として、慎重の上にも慎重であるべきだからです」


 正論だった。傍聴席の俺の仲間たちですら、一瞬、静まったほどに。


 ――だが、氷雨の反撃は、そこからだった。


 彼女は、あの九十秒を、一秒刻みで解剖してみせた。


 証人一人目、天城理央。工学の言葉で、オーガの打撃力を数値化した。「立木の一振りは、乗用車の正面衝突に相当します。人体が受ければ、即死です」


 証人二人目、セリス・ルナリア。異世界の知見で、オーガの習性を証言した。「オーガは、群れの一体が倒されると、残りは倒した者だけを狙います。被告人は最初の一撃を最大化することで、八体全ての敵意を、自分一人に集めました。……住宅地で他の誰も襲われなかったのは、偶然ではありません。あれは技術です」


 証人三人目、三隅一尉。武の言葉で、選択肢の不在を証言した。「私は自衛隊で二十年、格闘を教えています。証言します。あの状況で、あれ以下の力でオーガを止める方法を、私は知りません。世界中の教範のどこにも、書いてありません」


 そして氷雨は、法廷のモニターに、報道ヘリの映像を映した。


「裁判長。弁護人は、破壊された物の『位置』に注目します。折れた電柱は二本とも、オーガを民家から引き離す動線上にあります。潰れた車両三台は、すべて無人でした。被告人が投げたオーガの落下地点は、八体すべて、河川敷と空き地です。……九十秒間、八体、数十回の攻防で、破壊されたものが『無人の物』だけ。これが偶然だと、検察官は本当にお考えですか」


 彼女は、振り返り、法廷全体に言った。


「あの九十秒は、破壊の記録ではありません。――何を壊し、何を壊さないかを、毎秒選び続けた記録です」


 ――最後の証人は、九条美咲だった。


 宣誓する声が、少しだけ震えていた。だが、証言は、警察官のそれだった。


「現場に最初に臨場した警察官として証言します。私は拳銃を、抜けませんでした。どの射線にも民家がありました。警棒での制圧は不可能でした。応援の到着まで最短十二分。……被告人が現れなかった場合、最初の犠牲者は、私が庇っていた八十二歳の男性と――私です」


 彼女は、一度だけ、被告人席の俺を見た。


「被告人は日頃から、『殴った時点で負け』という日本の原則を、誰よりも真剣に学んでいました。その彼が全力を使ったことこそ、あの場に他の選択肢がなかったことの、何よりの証拠だと考えます」


(第48話・了)

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