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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第45話 「通学路の騎士団」

 国会の熱とは裏腹に、世間の空気は、割れ始めていた。


 SNSでは『#異世界人は帰れ』と『#共に生きよう』が殴り合い、ワイドショーは連日「異世界リスク」の特集を組み、廃校宿舎には抗議の電話と、激励の千羽鶴が、同じ日に届いた。


「人間ってのは、わかんないね」と、あかりがスマホを睨む。「同じ映像見て、真逆のこと言うんだから」


「同じやで、どっちも」と与太郎さん。「怖いんや、みんな。怖さの出口が、右に出るか左に出るかの違いや」


 ――そんな中、騎士団は、誰に言われるでもなく、あることを始めていた。


 きっかけは、麓の町から避難してきた母親の、何気ない一言だった。「子供の通学路が、山沿いなんです。集団登校でも、親は気が気じゃなくて」。


 翌朝から、通学路の要所に、鎧の巨漢たちが立った。


 武器は、ない(法律上持てない)。持っているのは、大盾だけ。攻めることは一切できない、守るためだけの配置だった。


 ゲオルグは全隊にこう訓示したという。


「――剣は預けたままでよい。よいか、諸君。騎士の本義は、突撃にあらず。『そこに立つこと』である。恐れる者の隣に、ただ、立て」


 最初の三日、子供たちは遠巻きだった。親たちは会釈だけした。


 四日目、一年生の男の子が、一番大きな騎士に「おはようございます」を言った。騎士は兜を脱ぎ、片膝をつき、「おはようございます」と返した。


 七日目には、騎士たちの盾に、子供たちの描いたドラゴンや花のシールが貼られ始めた。騎士たちは剥がさなかった。それどころか「それがしの盾の紋章は増える一方である」と誇った。


 十日目の朝、あかりは、その光景を撮った。


 ランドセルの列と、並んで歩く鎧の巨人たち。信号で、騎士が手を挙げ、子供たちが真似して手を挙げる。横断歩道の向こうで、片膝をついた騎士が、転んだ子の膝に、不器用に絆創膏を貼っている――。


 動画のタイトルは、飾らなかった。


『通学路の騎士団(音量注意:朝の挨拶が大きい)』


 ――再生数は、三日で二千万を超えた。


 潮目は、変わった。ワイドショーの論調が変わり、『#共に生きよう』が伸び、宿舎への千羽鶴が抗議電話を数で上回った。世論調査の「王国軍の活動を認めるべき」は、三週間で二十一ポイント跳ね上がった。


「……あかり。お前、大したもんだな。俺の武勇の動画より、絆創膏一枚の動画のほうが、世界を動かした」


「そりゃそうだよ、レオンさん」


 あかりは、当然のように言った。


「強さって、遠くから見るものだもん。優しさは、隣で撮れるんだよ」


 ――一方その頃。迎賓館の一室で、ヴォルフは、その動画を三度、再生していた。


「……絆創膏、か」


 老魔導師は、画面を消した。その顔から、いつもの柔和な笑みが、珍しく、消えていた。


「恐怖で満たすはずの器に、妙なものが溜まっていく。……よろしい。ならば、恐怖の量を増やすまで」


 彼は、袖の中の鏡に、短く命じた。


「――『重いの』を、先に通せ。予定より、二日早くな」


(第45話・了)

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