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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第44話 「参考人・一ノ瀬氷雨」

 衆議院第一委員室は、満席だった。


 「異世界由来生物等対策に関する特別委員会」。その参考人席に、一ノ瀬氷雨は、いつもの黒いスーツで座っていた。


 テレビの前では、俺たち全員が正座していた。与太郎邸の茶の間に、セリス、あかり、陽菜、真琴、リリス(コロッケ持参)まで揃っている。


「氷雨先生、緊張してるかな……」と陽菜。


「あれは緊張しない生き物よ」と美咲。


 ――質疑が、始まった。


『参考人に伺う。あなたは異世界人の法律顧問の立場だ。中立性に疑義があるのではないか』


「疑義を持たれるのは当然です。ですから本日は、依頼人の利益ではなく、条文の話だけをします。条文は、誰の顧問でもありませんので」


 委員室が、少しざわめいた。掴みは取った。師匠(与太郎)が「ええ入りや」と呟いた。


『では聞く。政府は現在、災害派遣の枠組みで対応しているが、参考人はこれをどう評価するか』


「現場の運用は、称賛に値します。制度は、落第です」


 言い切った。委員室が、今度ははっきりとどよめいた。


「現行法体系は、よくできた家です。ただし『人間しか来ない』前提で建てられた家です。ゴブリンは玄関から入らない。だから今、現場の警察官と自衛官は、家のどこにも書いていない仕事を、解釈の隙間を縫って、身体一つでやっています。先日の夜、民家を守ったのは、緊急避難の条文を叫びながら戦う十七歳の少年と、大盾二枚の勇者と、非番の警察官一人でした。……委員の皆さま。これは、法治国家の光景でしょうか」


『……参考人は、つまり、現行法の不備を』


「不備という言葉は使いません。『未対応』です。法律が悪いのではない。世界のほうが、先に変わったのです」


 そこで、あの男が挙手をした。大神一徹である。


『参考人。わしはあんたの依頼人たちを、出て行けと言うてきた側の人間だ。今も、有権者の不安を預かっとる。……その上で聞く。あんたの言う新法とやらは、わしの選挙区の婆さんに、どう説明できるものかね。三行で頼む』


 氷雨は、一拍おいて、答えた。


「一行目。危ない生き物が出たら、誰が、何をしていいかを決めます。二行目。守るために力を使う人には、ちゃんと縛りと責任を付けます。三行目。――あなたの家が壊れたら、国が直します」


『……ふん。三行で言えるなら、ほんものだ』


 老議員は、それきり質問を終えた。後に大神は、この新法の共同提出者に名を連ねることになる。


 ――質疑の最後に、若い委員が、意地の悪い質問をした。


『参考人は法律家だ。法律の限界を、そんなに雄弁に語っていいのですか』


 氷雨は、初めて、わずかに微笑んだ。


「法律家だから、語るのです。法は、完成品ではありません。人間が、間違えるたびに直してきた、継ぎはぎの営みです。継ぎはぎであることは、法の恥ではない。……直せることこそが、法の誇りです」


 ――茶の間で、リリスがコロッケを置き、ぽつりと言った。


「……三百年前にあの女がいれば、魔王と人間の戦争は、半分で済んだな」


 その夜、理央から全員に、短いメッセージが届いた。


『裂け目の脈動、周期が縮んでる。観測班の予測、開口まで七十二時間を切った。……次のは、重いよ』


(第44話・了)

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