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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第三部 モンスター襲来と法律編

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第43話 「英雄の拳は合法か(本人不在)」

 その頃、霞が関の会議室では、世にも奇妙な法律論争が行われていた。


 議題「レオン・アークライト氏の戦闘行為の法的位置付けについて」。


 出席者は、法務省、警察庁、内閣法制局の精鋭、そして参考人・一ノ瀬氷雨。


 ――なお、議題の本人は欠席である。呼ばれていない。本人は今頃、与太郎邸の庭で筋トレをしている。後で聞いた話を、時系列で再現しよう。


「まず整理する。氏がゴブリンを殴打した場合、何罪が成立し得るか」


「暴行罪は『人』に対する罪。ゴブリンは人か?」


「知性の程度が不明。仮に人でないなら、器物損壊は? 器物損壊は『他人の物』が客体。ゴブリンは誰の所有物でもない」


「つまり――無主物」


「無主物を殴打する罪は……」


 会議室が、静まり返った。


「「「……ない」」」


「では鳥獣保護管理法は? 無許可の捕獲・殺傷は禁止だが」


「先日整理した通り、異世界産生物は『鳥獣』の定義外」


「動物愛護管理法は? 『愛護動物』は牛馬犬猫等の列挙と、人が占有する哺乳類・鳥類・爬虫類。ゴブリンは列挙外かつ無占有。哺乳類かどうかも不明」


「では……あー……整理すると、だ。諸君」


 法制局の審議官が、眼鏡を外し、こめかみを揉んだ。


「レオン・アークライト氏が、素手で、ゴブリンと戦うことは――現行法上、これを禁止する規定が、存在しない」


「「「…………」」」


「銃刀法は素手に適用されない。彼の拳は法的には『拳』でしかない。暴行にも器物損壊にも当たらない。強いて言えば、戦闘で公共物を壊せば器物損壊、堤防を崩せば……」


「本人は『そっと置く』ので有名です」と氷雨。


「知っています。動画は全部見ました」


 審議官は、深いため息とともに、結論を書き付けた。


『結論:同氏の対ゴブリン格闘は、現行法の間隙において適法に行い得る。ただし周辺の人・物への配慮義務を前提とする』


「――皮肉なものですね」


 会議の帰り際、氷雨は、ぽつりと言ったという。


「剣も、銃も、魔法も、この国の法は全部縛れる。……なのに、拳だけが、自由。まるで、あの依頼人のためにあるような法の穴だわ」


 ――夕方。氷雨は与太郎邸に寄り、庭で逆立ち腕立てをしている俺に、会議結果を伝えた。


「――というわけで、あなたの拳は合法。おめでとう」


「そうか。……なあ、氷雨。俺は向こうの世界で、剣を折り続けて、仕方なく拳を選んだ。コスパの問題だった」


 俺は、逆立ちのまま言った。


「だが、この国に来て、魔法は封じ、剣は美術品になり、最後に残ったのが、また拳だ。……どの世界でも、最後に手元に残るのは、生身一つらしい」


「……含蓄のある話をするなら、逆立ちをやめなさい」


「これは三百二十一回目の腕立ての途中だからだ」


「台無しよ」


 ――だが、この「合法の拳」が試される日は、誰の予想よりも早く来た。


 その夜、理央の観測網が、多摩の裂け目の「脈動」を検知した。


『レオン、起きて! 裂け目が開き直る! 今度のは……大きい! ゴブリンじゃない、もっと重いのが来る!!』


(第43話・了)

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