第42話 「国会と、動けない盾」
国会は、連日、割れていた。
『自衛隊の出動根拠について、政府は「災害派遣」での対応を決定しましたが、これでは武器の使用が大きく制限されます! 総理、これは「災害」ですか!? 私には「侵略」に見えますが!!』
質問に立ったのは、大神一徹だった。あの、車列の前に立った老議員である。
『防衛出動は「外部からの武力攻撃」が要件です。しかし相手は国家ではない! 治安出動は「間接侵略その他の緊急事態」ですが、ゴブリンは「侵略」の主体たり得るのか! 学説が! 割れております!』
『学説が割れとる間に、わしの選挙区の畑が食い荒らされとるんだ!!』
――正直に言おう。俺は国会中継を、これほど真剣に見たことはなかった。というより、こんなに「面白い」と思う日が来るとは思わなかった。
「なあ、与太郎さん。大神の爺さん、王女の車列を止めた反対派だろう。なんで今、一番まともなことを言ってるんだ」
「まともやから反対しとったんや、あの爺さんは」
与太郎さんは、テレビを見たまま言った。
「ええか、兄ちゃん。『不安や』言うて怒鳴っとった人間はな、不安の正体が見えたら、一番ようけ働くんや。あの爺さんの不安は『得体が知れん』ことやった。ほんで今、得体が知れたわけや。――敵は異世界人やのうて、法の穴やった、てな」
――現場では、「動けない盾」の日々が続いていた。
災害派遣で展開した自衛隊は、住民避難と土嚢積みと監視に徹していた。武器は携行している。だが使えるのは、正当防衛と緊急避難の範囲のみ。つまり、ゴブリンが襲ってくるまで、撃てない。
その光景を、廃校宿舎の騎士団は、歯噛みして見ていた。
「団長! 我らに出撃のご下命を! 剣さえ返していただければ、あのような巣、一夜で!」
「――ならん」
ゲオルグは、動かなかった。
「よいか。我らは客だ。客が主の家で、主の許しなく刃を振るえば、それは助太刀ではない。『外国軍隊による国内での武力行使』――この国が最も恐れてきたものに、我らがなる。……レオン殿が三ヶ月かけて築いた信頼を、一夜で焼く気か」
「では、いつまで待つのです!」
「この国が、法を書き上げるまでだ」
老団長は、窓の外の富士を見た。
「……それがしは信じておる。あの牛丼の国は、書き上げる。存外、早くな」
――そして、信頼は、もう一つの場所でも試されていた。
王女フィリアは、連日、外務省と官邸に通っていた。彼女が携えてきたのは、王国の「対魔物戦闘教範」全巻の翻訳と、一つの提案だった。
「王国軍の武力行使に、日本の法の枠を。指揮権、活動範囲、武器管理、損害賠償――全て、日本の法律で縛ってください。縛られに参りました」
外務官僚が、思わず問うた。
「殿下。外国軍が、進んで他国の法に縛られると? 前例がありません」
「あら」
王女は、にこりと笑った。
「前例がないなら、作ればいい。――わたくしの尊敬する法律家の、受け売りですけれど」
(第42話・了)




