第25話 「聖剣、美術品になる」
問題は、いつまでも保留にできなかった。剣である。
番号札で預かられた騎士団の剣、五十本。セリスの聖剣、一本。これらの法的な行き場を決める日が来た。
「結論から言います」
氷雨が、会議室のホワイトボードの前に立った。出席者は騎士団幹部、文化庁、警察、外務省、そして俺。
「日本で剣を合法的に所持する道は、実質一つ。銃砲刀剣類登録――『美術品もしくは骨董品として価値のある刀剣類』としての登録です。つまり皆さんの剣は今後、武器ではなく」
彼女は、ホワイトボードに大きく書いた。
『美術品』
会議室の騎士たちが、凍りついた。
「じ、自分の相棒が……美術品……」
「先祖伝来の魔剣が……骨董品……」
「よろしい、では審査に移ります」と、文化庁から派遣された審査員の老先生が席に着いた。刀剣審査の権威だという。
――審査は、事件の連続だった。
一本目、ゲオルグの大剣。老先生は一目見て眼鏡を外し、拭いて、かけ直した。
「……この波紋、見たことがない。地金も、造りも、何もかも。……あなた、これはどこの何という刀匠が?」
「王都の名匠ドヴェルグ工房の三代目であります」
「連絡先は」
「異世界であります」
「はあ〜〜〜〜」
老先生のため息は、感嘆と絶望が半々だった。「審査基準の外側から五十本も来おって……儂の審査人生の集大成が、最終日に全部ひっくり返った……」とぼやきながら、しかしその目は少年のように輝いていた。職人はどこの世界でも職人に弱い。
最難関は、聖剣だった。
「発光しとるが」
「聖剣ですので」と、セリス。
「時々、羽根のような光が出るが」
「聖剣ですので」
「……『材質:不明(聖)』と書くしかないのう」
公文書に「(聖)」の一文字が刻まれた歴史的瞬間である。
――会議の帰り際、ガレスが氷雨に、如才ない笑みで話しかけていた。
「いや、お見事な仕切りでした、一ノ瀬先生。ときに――登録さえ済めば、剣は我々の手元に戻る。そういう理解でよろしいか? 例えば、緊急の際には、すぐ抜ける場所に」
「登録刀剣の携帯は別の話です。正当な理由なき持ち歩きは禁止。宿舎での保管方法も、警察と協議の上で決めます」
「……ははは。剣を鞘に納めたまま錆びさせる国だ」
「ええ」
氷雨は、眼鏡を押し上げ、真正面からガレスを見た。
「剣を抜かずに済む状態を、全力で維持する国です。……何か、抜く予定でも?」
「まさか。備えの話ですよ、備えの」
ガレスは笑って去った。
氷雨はその背中を見送り、手帳に小さく書き付けた。
『ガレス卿。質問の九割が「武器の所在」と「返却の速さ」。要注意』
軍師の手帳と猛禽の日誌に、同じ名前が並んだ夜だった。
(第25話・了)




