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魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
第二部 王国軍来日編

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第24話 「牛丼という名の外交問題」

 騎士団の食事は、当初、宿舎の炊き出しで賄われていた。


 だが「この世界を知るには、この世界の飯を知るべし」というゲオルグ団長の号令一下、記念すべき初外食の地に選ばれたのが――商店街の牛丼屋だった。


 選定理由は三つ。安い。速い。そして俺の推薦。


「いいか、入店前に確認する。会計は外務省支給の滞在費、一人一杯まで。注文は俺が教えた手順で。……最大の関門は、入口のあの箱だ」


「箱、とは」


「券売機。金を入れ、ボタンを押し、出てきた札を店の者に渡す。それだけだ」


「なんと……! 注文が、戦の前に済んでいるのか……!」


 騎士たちがどよめいた。「伝令いらずの兵站である」「王都の食堂は見習うべき」と早くも報告書を書き始める者がいた。真面目か。


 だが、本当の関門は、券売機の先にあった。


「レオン殿! 一大事であります!」


 先頭の若い騎士が、券売機の前で直立不動になっていた。


「『並盛』『大盛』『特盛』――丼に、階級があります!」


「階級じゃない。量だ」


「では伺いますが! 一兵卒たる自分が、ゲオルグ団長より大きい丼を頼むのは、不敬に当たりますか!?」


「当たらん」


「しかし! 団長が並で自分が特盛では、軍の秩序が!」


 後ろの列でも議論が沸騰し始めた。「席次はどうする」「上座は」「団長が着席されるまで待つべきでは」。店内の一般客が呆気に取られ、店員の兄ちゃんが「お、お決まりの頃に伺いまーす……」と後ずさった。


 収拾をつけたのは、当のゲオルグだった。


 団長は券売機の前に進み出ると、迷わず「特盛・つゆだく・卵」のボタンを押し、全員を振り返って宣言した。


「皆の者、聞け! ――丼に貴賤なし! 各自、己の腹と相談し、己の丼を選べ! それがこの国の流儀である!!」


「「「はっ!!」」」


 名言みたいに言っているが、要するに団長が一番大きいのを食いたかっただけである。俺は知っている。この人は魔王戦の陣中でも、干し肉の一番大きいのを取っていた。


 ――ちなみに「つゆだく」を教えたのはセリスだ。


「ふっふっふ。いい、みんな? 『つゆだく』と唱えるのよ。つゆが、増えるから」


「「「おお……!」」」


「さらに上級呪文『ねぎだく』もあるわ」


「「「おおお……!!」」」


 一週間先輩の威厳は、完璧に保たれた。当の本人が三日前に俺から教わったことは、騎士団の名誉のため、伏せておく。


 ――五十人の騎士が黙々と丼をかき込む姿は、壮観だった。


 食い終わったゲオルグは、丼を置き、長く息を吐いた。


「……レオン殿。この一杯、王都なら銀貨三枚は下るまい。それがこの国では、労働者が日々、当たり前に食っておる。当たり前に、うまい飯を、誰もが食える。……国の豊かさとは、城の高さではなく、丼の中身なのだな」


 この団長、いちいち学びが深い。


 なお会計時、騎士たちは店員の兄ちゃんに全員で敬礼し、兄ちゃんは翌日から「騎士団の来る店」としてSNSで有名になり、牛丼屋の本部から視察が来た。もう慣れた。


(第24話・了)

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