第22話 「王国軍先遣隊、入国審査を受ける」
転移は、三日後の早朝、多摩川の河川敷で行われた。
場所を指定したのは日本政府だ。理央の観測データとセリスの術式知識を突き合わせ、「開くならここ」と誘導した。人払いは完璧、周囲には警察の規制線、上空にはヘリ、土手の上には鷹峰たち官僚の列と、なぜか折り畳み椅子でお茶を飲む与太郎さん。
「兄ちゃん、ええ見物やで。歴史の教科書に載る朝や」
「載るのは確実だが、何の教科書かはまだわからんぞ」
午前六時ちょうど。河川敷の空気が歪み、光の門が開いた。
現れたのは、騎士五十騎。
磨き上げられた鎧。掲げられた王国旗。先頭の巨漢が兜を脱ぎ、朝日に白髪を晒した。騎士団長ゲオルグ。魔王戦を共に駆けた、歴戦の武人だ。
「――レオン・アークライト殿! ご無事の御姿、このゲオルグ、感涙の極み!!」
「団長、久しいな。……そして着任早々すまんが、全員、その場を動くな。まず俺の話を聞け」
「は?」
「あんたたちは今、『にゅうこくしんさ』というものを受ける」
――土手の上に設営されたテントで、史上初の「異世界人集団入国手続き」が始まった。
仕切るのは氷雨。政府との突貫協議で作り上げた「特例上陸許可」の枠組みである。徹夜明けの眼鏡が光る。
「では一名ずつ! 氏名、所属、来訪目的! 武器は全て申告! 申告漏れの帯剣が見つかった場合、その場で預かります!」
「じょ、女性殿! 騎士から剣を取り上げるは、名誉を取り上げるも同然……!」
「名誉は没収しません。剣は一時保管です。番号札をどうぞ」
「番号札!?」
騎士たちは戸惑い、ゲオルグに視線で助けを求め、ゲオルグは俺に視線で助けを求めた。俺は首を横に振った。
「団長。ここは王国じゃない。この国には、この国の掟がある。……俺も剣を預けた(折れていたが)。勇者も預けた(泣いていたが)。騎士団だけ例外はない」
「……レオン殿が、そこまで言われるか」
ゲオルグは長く唸り、やがて、腰の大剣を鞘ごと外して、両手で差し出した。
「王国騎士団長ゲオルグ! 当地の法に従い、これを預ける! ――皆の者! 恥じるな! 郷に入っては郷に従うもまた武人の道である!!」
五十本の剣が、次々と番号札に変わっていった。文化庁の職員が「国宝級が五十本……」と震えていたが、それはまた別の話だ。
――手続きの列の最後尾に、その男はいた。
副騎士団長ガレス。細身、灰色の目、如才ない笑み。
「いやはや、面白い国ですなあ。剣より書類が強いとは」
彼は申告書を流れるような字で書き上げ、剣を預け、そして、すれ違いざま、俺の左腕にちらりと目を落とした。
「……腕輪、健在で何よりです。英雄殿」
「? ああ。ヴォルフ様の作は、頑丈だ」
「ええ、ええ。あの御方の作品は、実に――よく出来ている」
ガレスは笑みを深くして、列に戻っていった。
隣で見ていた真琴が、ぽつりと言った。
「レオン様。今の男、書類を書く間、一度も視線が手元にありませんでした。ずっと、周囲の警備配置を数えていました」
「……ほう」
「警護日誌に、要注意と記録します」
猛禽の目は、伊達ではない。
(第22話・了)




