第21話 「勇者と警察と、三ヶ月分の説教」
翌朝、俺は交番にセリスを迎えに行った。
勇者は、パイプ椅子の上で毛布にくるまり、憮然としていた。
「……レオン。この国、英雄の扱いが雑すぎない?」
「言っておくが、俺の初日と完全に同じ扱いだ。むしろ毛布がある分、お前が上だ」
「毛布で機嫌が直ると思わないでよね」
直りかけているのが顔に出ていた。わかりやすい奴なのだ、昔から。
セリスの聖剣は、署の保管庫で厳重に預かりとなった。「持ち主に返してよ! 聖剣なのよ!?」と抗議する勇者に、美咲は事務的に告げた。
「日本では、刃渡り十五センチ以上の剣の所持は原則禁止。例外は美術品としての登録刀剣など。……ということで、聖剣は今後『美術品登録』の方向で調整します。一ノ瀬先生が」
「聖剣が……美術品……」
「文化庁預かりの日々になるかもだけど、没収よりマシでしょ」と、駆けつけた氷雨が書類をめくった。「あと、あなたの在留資格もこれから作ります。レオンで前例を作りかけてるのが不幸中の幸い。……まったく、異世界人が二人目。私の事務所は入管専門になったのかしら」
――そして、昼。与太郎邸の茶の間で、宣告どおり「三ヶ月分の説教」が開始された。
正座する俺。仁王立ちのセリス。見物する全員(与太郎さん、あかり、真琴、なぜか陽菜は茶菓子を配膳)。
「まず一つ! 凱旋式で消えたこと!」
「不可抗力だ」
「二つ! 三ヶ月も連絡しなかったこと!」
「世界を跨ぐ郵便があるなら教えてくれ」
「three つ!! なんかあなた、こっちで楽しそうにしてること!!」
「それは説教の項目なのか!?」
セリスは、ぐ、と言葉に詰まり、それから、小さな声で言った。
「……こっちは、心配で、王女様と二人で毎晩お城の書庫にこもって、転移術式を調べて。指輪の魔石も髪飾りも全部、門を開く触媒に使っちゃって。……なのに、当のあなたは、畳の上でお茶なんか飲んでて」
「セリス」
「……無事で、よかったじゃない。ばか」
茶の間が、しんみりしかけた――ところで、与太郎さんが飴の袋を差し出した。
「嬢ちゃん、飴ちゃん食べるか」
「! いただきます! ……何これ美味しい!? 王都の砂糖菓子より美味しい!?」
「せやろ。ほれ、もう一個」
「勇者、陥落はやっ!?」とあかり。
――夕方、セリスは縁側で、俺に「本題」を切り出した。
「レオン。私が先に来たのは、伝令も兼ねてるの。王女様の命令で、近く、王国軍の先遣隊がこっちに来る。目的はあなたの保護と、この世界の調査。……向こうはね、この国が『どういう国か』を、まだ何も知らない」
「軍を、この国に」
俺は、腕を組んだ。
武装した騎士団が、銃刀法と入管法と道路交通法の国に、集団で来る。
「……なあセリス。先遣隊の指揮は誰だ」
「ゲオルグ騎士団長よ。副長のガレス卿も一緒」
「そうか。――なら、急いで教えることが山ほどある。まず、この国では『殴った時点で負け』だ」
「は? 何それ。……え、ほんとに? 決闘は?」
「明治時代からの法律で罪だ」
「めいじじだい???」
前途は、多難である。
(第21話・了)




