第16話 「猫は知っている」
最初に気付いたのは、あかりだった。
「ねえ、レオンさん。……なんか最近、動物に好かれすぎじゃない?」
言われて、周囲を見た。
与太郎邸の塀の上に、猫が九匹、等間隔で並んでいた。全員、俺を見ていた。
「……壮観だな」
「壮観じゃなくて! 先週は三匹だったの! 増えてるの!」
思い返せば、確かに妙だった。
散歩に出れば、鳩が頭上に編隊を組む。商店街の犬という犬が、俺を見ると吠える――のではなく、一斉に「お座り」をする。川の鯉は俺が橋を渡るたび水面に集結し、この間は皇居の近くで白鳥に行進をされた。
「動物は正直なんや」と与太郎さんは呑気に構えていたが、これを聞き逃さない人間が、一人いた。
「――それ!! 詳しく!!」
月一計測に来ていた理央である。
「動物の異常行動は、微弱なエネルギー変動の古典的な観測指標! 地震の前のナマズと同じ理屈! つまり動物たちは、あなたの漏出を感知してる!」
「猫が、俺の魔力を?」
「そう! で、ここからが本題」
理央は、ノートパソコンの画面をこちらに向けた。折れ線グラフが表示されていた。
「あなたの漏出量の推移。……先月言ったわよね、『右肩上がり』って。今月、傾きが変わった。増え方が、速くなってる」
グラフの線は、途中から明らかに角度を変えていた。
「腕輪の劣化なら、こんなカーブにはならない。これは……段階的に、意図的に、絞りを開けてるカーブ。工学的に言うと、『慣らし運転』のカーブよ」
「慣らし運転。……何のための」
「わからない。でも、ひとつ言えるのは」
理央は、いつもの騒がしさを消して、空を見上げた。
その日の空は、よく晴れていた。ただ、夕方の一時、西の空の雲が、不自然に「渦」を巻いた。気象予報士は「珍しい気流です」と笑っていた。
「――このペースで増え続けたら、数ヶ月以内に、どこかで『閾値』を超える。超えたら何が起きるかは、私の物理学の外側。……ねえレオン、その腕輪をくれた人って、信用できる人?」
「ヴォルフ様か? ……ああ。じいちゃんの旧友で、俺のためだけに腕輪を鍛えてくれた恩人だ」
「そう。ならいいんだけど」
理央はそう言って、けれどグラフから、目を離さなかった。
――その夜。塀の上の猫は、十一匹に増えていた。
全員が、西の空を見ていた。
(第16話・了)




