第15話 「王様を、民が選ぶ国」
その朝、商店街に大音声が響き渡った。
『ご通行中の皆様! 私、山田たけしが、皆様の暮らしを、必ずや、お守りいたします!』
俺は咄嗟に陽菜を背に庇い、音の方角へ身構えた。
「敵襲か!?」
「ち、違います違います! 選挙カーです!」
「せんきょ、とは」
「えっと……みんなで投票して、政治家さんを選ぶんです。今度、市議会議員選挙があるから」
選ぶ。政を行う者を、民が。
「……冗談だろう。王や領主は、血で継ぐものだ」
「この国、王様いないですし……あ、天皇陛下はいらっしゃるけど、政治はしないんです。政治をする人は、ぜんぶ選挙で」
「では聞くが、選んだ者が無能だったら、どうする」
「次の選挙で、落とします」
俺は、その場に立ち尽くした。
王が悪政を敷けば、民は耐えるか、逃げるか、反乱を起こして血を流すか。それが俺の世界の常識だった。反乱は罪で、成功すれば革命と呼ばれ、どちらにせよ人が死ぬ。
この国は、それを――紙切れ一枚で、やるのか。
「……与太郎さん。民主主義とは、なんだ」
夜、縁側で俺が問うと、与太郎さんは「よっしゃ、ほな一席」と座布団に正座した。この人は、大事なことは全部、高座の形で語る。
「――えー、昔々あるところに、乱暴な王様がおりまして。家来が申し上げます。『王様、政がお下手なら、代わってもらいまっせ』。王様カンカンや。『無礼者! 王の首は誰にも取れん!』。すると家来、涼しい顔で言うたそうな。
『首は取りまへん。……椅子だけ、取り替えさしてもらいます』
――これがな、兄ちゃん。民主主義や。人の首を取らんと、椅子だけ取り替える発明や。人類が何千年も血ぃ流して、ようやっと思いついた、世界一ぬるうて、世界一強い仕組みや」
「ぬるくて、強い……」
「せや。強い者が偉いんやったら、一番強い奴が王様や。ほな兄ちゃん、あんたが世界の王様やで? ――嫌やろ、そんな世界」
……嫌だな、それは。
俺が眠い時に世界が決まるのは、世界に申し訳ない。
「わかってきたやないか」与太郎さんは笑った。「力は、力の使い道を決められへん。決めるのは、いつだって話し合いや。……ま、その話し合いが一番難儀なんやけどな」
――同じ頃。世界の裂け目の、向こう側。
アルディア王国の王城では、夜を徹した御前会議が続いていた。
「英雄殿の消失より三月! 捜索の進展は!」
「畏れながら、痕跡の魔力は既に霧散しており……」
紛糾する重臣たちの中央で、第一王女フィリア・アルディアは、静かに立ち上がった。
「――もう待てません。宮廷魔導師ヴォルフ」
「は。ここに」
「転移門の研究、進んでいると聞きます。王家の予算を倍にします。レオン様の座標を、必ず突き止めなさい」
「……御意」
深く頭を垂れたヴォルフの口元は、誰にも見えない。
(倍、ですか。ありがたい。……門はとうに、開き方を知っておりますがね。あとは“燃料”が、程よく育つのを待つばかり)
(第15話・了)




