表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を捨てた最強格闘家、現代日本へ ~異世界最強なのに法律では最弱でした~  作者: 伝説の男前
与太郎のメタ高座

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/107

第一席 「バトル・強さ編」

 打ち上げの夜は、まだ長い。


 鍋が二巡りした頃、与太郎さんは座布団を裏返し、扇子を膝の前に置いた。噺家が扇子を横に置くのは「これより一席」の合図である。茶の間が、寄席になった。


「――えー、本日は趣向を変えまして、『創作テンプレ・アンチテンプレ辞典』。世に溢れる物語のお約束を、四十個、順繰りに俎上に載せていく無礼な高座でございます。なに、悪口やおまへん。**お約束いうもんは、みんなが使うだけの理由がある**。その理由ごと笑うのが、今夜の趣向で」


---


## 其の一 「主人公補正」


**「お前だけ死亡フラグが当たらないのは契約でもあるのか?」**


「――えー、物語の主人公いうもんは、まあ死にません。崖から落ちても死なん。爆発の中心におっても死なん。挙句、敵の必殺の一撃が、なぜか主人公の時だけ石畳に躓く。……あれ、保険屋が見たら卒倒しまっせ。『お客様だけ事故率がゼロです』いう契約書、どこで判子つきましたんや、と」


 茶の間から美咲が手を挙げた。「うちの主人公、補正どころか手錠でしたけどね」


「せや、そこや」師匠は扇子でぴしりと畳を打った。「うちはな、フラグを**平等に**当てました。人を守ったら逮捕状が来る(第47話)。世界を救う途中で腕が透ける(第92話)。……ええか、補正を切るコツはな、主人公に『特別扱いされん苦労』をさせることやない。**特別扱いされん世界の方を、ちゃんと書くこと**や。警察は英雄も職質する。裁判所は英雄も裁く。それが書けたら、主人公が生き延びる理由は補正やのうて、**本人の始末の良さ**になる。……現にうちの阿呆は、死亡フラグを全部、書類で回収しよった」


 レオンが鍋をよそいながら答えた。「フラグは折るものじゃない。**手続きで消し込むものだ**」


「弟子が役所みたいなこと言うようになってもうた。師匠は嬉しいで」


---


## 其の二 「敵が一人ずつ戦う」


**「全員で行けば5秒で終わるよな?」**


「――悪の軍団いうもんは、律儀ですなあ。百人おっても、一人ずつ順番に出てくる。あれはもう戦闘やのうて、**受付**です。『番号札を取ってお待ちください』いう世界や。魔王軍に整理券発行機があるんか、と」


「うちの敵は容赦なかったわよ」とセリス。「魔兵八千、一斉突撃(第85話)」


「せや。ほんでレオンはどないした? 一人ずつ来てもらうよう頼んだか? ――ちゃう。**光の壁で二十区画に切り分けた**。ええか、お客さん。敵が一人ずつ来るんが嘘くさいんは、『主人公の都合』が透けるからや。ほな逆にしたらええ。**敵は全員で来る。分けるのは主人公の仕事**。並ばせるんやのうて、区画整理する。……あれな、ワシは高座の技やと思うて見とりました。大入りの客席を、話術で一人ずつの顔にしていく。あれと一緒や。八千人を『八千人』のまま相手したらあかん。**四百人の二十組**にしてから、順に語りかけるんや」


「師匠、あれは語りかけてません。殴ってます」


「表現の違いや」


---


## 其の三 「ラスボスの長話」


**「その説明、戦い終わってからでよくない?」**


「――ラスボスいうもんは、喋る。まあ喋る。世界の真実、計画の全貌、幼少期の思い出。……あのな、あんた、いま戦闘中でっせ? 敵さんを目の前に置いて自分史の朗読会。あれで負けたら世話ない。『敗因:講演』て軍記に書かれまっせ」


 茶の間が笑い、それから、少しだけ静かになった。全員が、あの夕暮れの庭を思い出したからだ。


「……せやけどな」師匠の声が、半音、落ちた。「うちのヴォルフはんの長話は、切らんと全部書きました(第79話、第91話)。なんでか。あの人の長話はな、**自慢話やのうて、傷の話**やったからや。ええか、ここが分かれ目や。ラスボスの長話がしらけるんは、長いからやない。**戦いの外側にあるから**や。倒すのに要らん情報やから、客は『早よ終われ』と思う。ほな、長話そのものを戦場にしたらええ。うちの最終決戦、あれ、半分は**説得**です。『あんたは法に奪われた。俺は法に守られた。どちらも本当だ』(第91話)――あの長話は、正拳と同じ重さの攻撃やった。……長話をさせるなら、**言葉で決着の半分をつける覚悟**で書くこと。それが礼儀や」


---


## 其の四 「必殺技を叫ぶ」


**「技名を教えてくれる敵に優しい世界。」**


「――『喰らえ! 秘剣・燕返しィ!』……言うてもうたら秘剣とちゃうやろ、それ。手の内を音声でお知らせする剣士。親切がすぎる。次は技の説明書も配ったらどうや」


「うちの主人公も叫んでましたよ」とあかりがスマホを掲げた。「ほら、二億再生の『刑法三十七条、緊急避難!』(第41話)」


「せや! ほんであれが、うちの答えや」師匠は膝を打った。「技名を叫ぶんが滑稽なんは、**敵に塩を送っとるから**や。ほな、叫んで得する言葉を叫ばせたらええ。条文はな、叫ぶだけで意味がある。周りの民衆に『これは合法な行為です』と宣言し、あとの裁判の証拠になり、ほんで何より――**自分自身への縛り**になる。『俺は今、緊急避難の範囲でやる』と、己の拳に言い聞かせとるんや。……必殺技の叫びはな、敵に聞かせるもんやのうて、**己と世間に聞かせるもん**にしたら、いっぺんで筋が通る。氷雨先生、あれ法的にはどないです?」


「戦闘中の適法性の宣言、実務上は有効です。ただし法学者が論文を三本書きました。タイトルは全部『叫ぶ緊急避難』」


「学会まで動かすな、うちの弟子」


---


## 其の五 「回想シーン」


**「お前の記憶を待つ義務はない。」**


「――戦いの真っ最中、敵の拳が主人公の鼻先五センチ。そこで画面がセピア色になりまして、『思えば十年前――』。……おい。拳、五センチで待っとるんかい。敵さんの肘、攣るで」


 理央が身を乗り出した。「本作の回想処理、工学的に美しかったですよ。ヴォルフの五十年、**腕輪に触れた接触共鳴の0.5秒**に全部流し込んだ(第90話)」


「せや。回想はな、**時間泥棒**やと思われとる。せやから泥棒に見えん場所に置くんや。コツは三つ。一つ、**回想に入る物理的な理由を作る**(腕輪の共鳴)。二つ、**回想の中身が今の戦いの勝敗に直結する**(あの五十年を見たから『説得』いう戦法が生まれた)。三つ、これが一番大事や。**回想が終わった時、主人公の目つきが変わっとること**。うちの阿呆は敵の過去を見て、なんて言うた? 『あんたには、迎えに来る師匠がいなかったんだな』。……あの一言のための五十年や。回想はな、過去の説明やのうて、**今の一言の仕込み**なんや」


---


## 其の六 「覚醒」


**「ピンチになるまで本気を出さない縛り?」**


「――主人公いうもんは、追い詰められると光ります。髪の色が変わる。目の色が変わる。戦闘力が桁上がる。……あのな、その力、**朝から出しとけば**誰も苦労せんかったんとちゃうか。『ピンチ限定・本気解放キャンペーン』。平時は営業しとらんのかい」


「うちの覚醒、工程表がありましたからね」と理央。「七段階の封印解除計画。進捗管理は私」


「そこや。覚醒が嘘くさいんは、**タダで手に入るから**や。ピンチいう『感情の高ぶり』だけで力が湧くなら、そら道場は要らんわ。うちはな、覚醒の前に**三ヶ月の修行編**を置いた(第75話)。感情の稽古、眠りの稽古、対話の稽古。ほんで本番の解放(第83話)は、修行の**答え合わせ**として書いた。……ええか、覚醒シーンで客が泣くんは、力が上がった瞬間やない。**積んできたもんが繋がった瞬間**や。『思考は、乱れない。武道が心を鍛えた』(第84話)――あの一言は、覚醒やのうて、**卒業証書**や」


---


## 其の七 「修行」


**「今まで何してた?」**


「――物語の中盤、急に始まる修行編。滝に打たれ、岩を割り、師匠っぽい老人が現れる。……ちょい待ち。あんた、これまで何十戦もしてきたやろ。**今まで何しとってん**。定期テスト前だけ勉強する学生か」


 茶の間の視線が、一斉に師匠に集まった。「……師匠っぽい老人、ここにいますけど」「現れましたよね、公園に(第5話)」


「やかましわ。ワシは**第5話から**おる! ここが答えや。修行編が『今さら感』を出すんはな、修行と本編が**別料金**になっとるからや。急に山にこもって、急に新技を覚えて帰ってくる。ほな普段の生活はなんやったんや、となる。うちはどないした? ――**毎朝や**。第6話から最終話まで、朝稽古を休んだ描写は家出の回(第72話)だけ。畳の縁を踏まん礼儀も、くしゃみの呼吸も、寿限無の間も、全部、日常の中の稽古や。ほんで最終決戦で効いたんは、山ごもりの秘技やのうて、**その毎朝の方**やった(第89話)。……修行はイベントやのうて、**生活**にせえ。それが答えや」


---


## 其の八 「仲間がギリギリ到着」


**「全員、時間を合わせて遅刻してる。」**


「――主人公、絶体絶命。敵の刃が振り上がる。その時! 『待たせたな!』……待たせたな、やあらへん。**なんで全員、毎回、댁ちょうど間に合うんや**。あんたら裏で時計合わせとるやろ。『よし、主人公が三回殴られたら入場な』て」


 真琴が手を挙げた。「本作の到着記録を報告します。大阪、正規部隊の到着まで二十二分(第64話)。豊洲、応援は間に合わず、その場の警察官九名と警棒一本で防衛(第82話)。……ギリギリの到着は、ありません」


「せや。うちはな、**間に合わん時は、間に合わんまま書く**と決めとった。ほな物語はどうなるか。――**そこに居った者が、戦うしかなくなる**。大阪はワシが居った。豊洲は美咲ちゃんが立った。ええか、お客さん。『ギリギリ到着』が興ざめなんは、緊張感が嘘になるからやない。**その場に最初から居った者の勇気が、安売りされるから**や。駆けつける英雄より、逃げんと立っとった巡査の方が、ほんまは上等なんや。……うちの物語で一番の武勇はな、ワシに言わせりゃ、警棒一本で三メートルのオーガの前から一歩も引かんかった、あの一年目の路地の九条美咲や(第46話)」


「……鍋、おかわり要ります?」と美咲が明後日を向いて言った。照れると配膳に逃げるのは、彼女の癖である。


---


## 其の九 「偶然の連続」


**「偶然じゃなくて脚本だろ。」**


「――主人公が街角を曲がると、ちょうど事件。ちょうど恩人。ちょうど拾い物。……偶然が三つ続いたら、それはもう偶然やのうて**日程表**や。誰や、この阿呆の一日をブッキングしとるんは」


「本作、その犯人が実在しましたからね」とリリスが麦茶を傾けた。「偶然の九割が、ヴォルフの脚本だったと判明する(第69話)。転移も、才能も、『送られた』ものだった」


「せや。これがうちの、いっちゃん性根の悪い仕掛けや」師匠はにやりと笑った。「お客さんがな、『展開が都合ようないか?』と眉に唾つけた、**その違和感ごと伏線にした**んや。都合のええ偶然が続く→読者が疑う→作中の人物も疑う(理央の『慣らし運転のカーブ』第16話)→ほんまに黒幕の設計やった、と落とす。……ええか、偶然を書く時の掟は一つ。**作者が偶然に頼った時、それに一番最初に気付くんは読者や**。読者に気付かれる前に、作中の誰かに気付かせえ。そしたら偶然は、ご都合やのうて、**謎**になる」


---


## 其の十 「ご都合主義」


**「便利な設定が毎回生えてくる。」**


「――ピンチのたびに、都合よう新しい力、新しい道具、新しい抜け道が生えてくる。あれはもう物語やのうて、**家庭菜園**です。作者の裏庭で便利設定がすくすく育っとる。水やっとるんは締切や」


「本作の便利設定、全部に出典がありましたね」と氷雨が指を折った。「就籍許可の申立て(実在の制度)。緊急避難(刑法37条)。刀剣登録(銃砲刀剣類所持等取締法)。特措法のモデルは現実の特別措置法。……創作したのは運用だけです」


「そこや。ご都合主義の正体はな、**根拠の後出し**や。困ってから理由を生やすから、菜園に見える。ほな逆にしたらええ。**先に世界の理屈を植えとく**んや。うちの世界の理屈は単純やった。『この国には法律がある。法律には手続きがある。手続きは、誰にでも使える』。――たったこれだけの畑から、百話分の解決が採れた。腕輪の謎も、逮捕も、特措法も、最後の『世界同時記憶』(第93話)も、全部この畑の作物や。……ええか、お客さん。**便利な設定を生やすな。不便な世界を先に建てえ**。不便の中で人物が工夫したら、それは都合やのうて、**知恵**と呼ばれるんや」


 師匠は扇子を取り、ぱちりと鳴らした。


「――と、いうところで第一席はお開き。続きは『異世界・設定編』、死んだはずの魔王はんが生きとった理由から。……リリスはん、覚悟しときや。あんたの退位、たっぷりいじるで」


「ふん。三百年もののネタだ。半端な扱いをしたら承知せんぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ