短編一 『リリスのネット通販無双編 〜元魔王、レビューを書く〜』
私の名はリリス。三百年、魔界に君臨した元魔王である。
現在の肩書きは、UNIT-X異界性文化担当官(月の半分)、魔界選挙管理委員会・相談役(月の半分)、そして――残りの全てを注ぎ込む本業が、これだ。
【認証バッジ付きレビュアー:Lilith】
【参考になった:延べ二百八十万件】
ネット通販レビュアーである。
――事の起こりは、終戦の三ヶ月後だった。
私が何気なく書いた電気毛布のレビューが、通販サイトの運営に「殿堂入り」させられたのだ。全文を引用しよう。
『★★★★★ 三百年の寒がりが断言する。これは文明の到達点である。
魔界の冬を知っているか。氷雪の牢獄である。私は三百年、毛皮と焚き火と配下の献身で冬を凌いできた。この毛布は、その全てを電気代一晩数円で置き換えた。触れた瞬間、私は玉座を追われた日より驚いた。
難点を一つだけ言えば、朝、出られない。会議に遅れた。魔界の長老会は「陛下が毛布から出られないため開会が遅れる」という議事録を史上初めて残した。責任は取らない。毛布が悪い。』
――参考になった:百四十万件。
以来、私のレビューは「読み物」として扱われるようになった。心外である。私はただ、三百年の実感を、正確に書いているだけだ。
いくつか、代表作とされているものを載せておく。
『【加湿器】★★★★☆ 湿度という概念に敬意を表する。魔界の空気は乾燥か瘴気の二択だった。第三の選択肢「うるおい」に星四つ。星を一つ引いたのは、タンクの給水口が狭いからだ。設計者は爪の長い者の存在を忘れている。魔族への配慮を求む。』
『【サーキュレーター】★★★★★ 気流制御は戦術の基本である。本品三台で私の六畳の城は、夏、全域が均一に涼しい。かつて私は風の上位魔族を三体従えていたが、維持費(忠誠心の管理、定期的な謁見、反乱の芽の監視)を考えれば本品が圧倒的に安い。臣下より家電。三百年の結論だ。』
『【段ボール開梱用カッター】★★★★★ 認めよう。私は爪で開けていた。この小さな刃は、爪より速く、正確で、開けた後の断面が美しい。道具とは魔力の代替ではない。文明の礼儀である。』
『【スマート電球(声で操作)】★★★☆☆ 「暗くなれ」と命じたら点灯した。逆である。三日調べた結果、私の発音の問題と判明した。「くらく」が「あかるく」に聞こえるらしい。魔王の威厳を返してほしい。機能自体は素晴らしい。私は今、寝たまま照明を支配している。玉座では叶わなかった全能感である。』
――そんなある日、事件が起きた。
私のレビューを装った、偽アカウントが現れたのだ。
【Lilith_公式】を名乗るその者は、粗悪な魔除けグッズに星五つを付けて回っていた。「元魔王が認めた本物の結界!」なる宣伝文句で、法外な値段の壺やら札やらを売る業者の仕込みだった。
私は、静かに、キレた。
三百年の魔力知覚で発信元を辿り(理央に「それ、私がやるから! 越権! 越権!」と止められ、正規の手続きに切り替え)、消費者庁への通報と、運営への申し立てと、そして――本物のレビューで、応戦した。
『【当該魔除け壺】★☆☆☆☆ 元魔王本人である。断言する。この壺に結界の術式はない。ただの壺である。しかも底の釉薬が雑だ。魔を除けたいなら、この壺を買う金で玄関の電球を明るいものに替え、掃除をし、近所と挨拶をすることだ。魔というものは、暗く、汚れ、孤立した場所を好む。三百年、魔の側にいた私が言うのだから間違いない。……なお、この壺は魔を除けないが、梅干しを漬けるには良い形をしている。星一つは、その分だ。』
――参考になった:二百八十万件(歴代一位)。
業者は摘発され、偽アカウントは消え、なぜか壺は「元魔王が梅干し用に認定した壺」として完売した(世の中は、わからん)。後日、消費者庁から感謝状が届いた。魔王が人間の役所から感謝状をもらった、史上初の事例だそうだ。
感謝状は、エアコンの上に、飾ってある。
……三百年、玉座の間に飾ってきたどの戦利品より、悪くない眺めである。
(『リリスのネット通販無双編』・了)




