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69話

「……レッスンIIは今度と致しましょう。次からは今程の短期間で与えるべき試練ではありませんからね」

「……え!? こんなに過酷だった理由はそれ!?」

「当然の事でしょう……?」


 数人しか合格出来なかったと聞いたんですけど?

 いいや……影信が認めた上で数人しか合格出来なかったという時点でおかしな話か。既に普通のダイヤモンドの剣に戻ってしまったけど、声を知ってしまったからには前以上の愛着を抱いてしまうよ。


「……あのさ、甘えてもいいかな」

「ええ……ようやく、執事らしくいられます」

「うん、ありがと」


 さすがに……疲れ切ってしまった。

 無理な魔力消費、四日間だけとはいえ、少しも休めない空間は応えてしまったよ。何も言わずに背中を貸してくれるのを見ると本当に面倒見の良い爺ちゃんだ。もしかしたら俺の祖父も似たような人だったのかもしれない。厳しいながらも優しいような頑固な人、ちょっとだけ、ノスタルジーを感じるのは今更なのかな。


 とはいえ……本当に使用者に似過ぎだな。

 俺みたいに扱うためには馬鹿みたいに魔力を求めて来やがる。ってか、当たり前の話かもしれないけど俺と考えが合わなければ動いてくれないとか面倒臭すぎるな。俺みたいな女とか……ウゲェ、想像しただけで売れ残りそうで嫌だ。


 だって、気に食わなければ口を出すんだぜ。

 それに自分の考えと違えば正当な理由を永遠と求めるとか、言語化が苦手な人からすれば苦痛以外の何物でもない。会社でも説明責任を求められた上で、家でも求められるとか……想像したくない話だなぁ。


「……貴方が初めてですよ」

「え、数人が達成したって」

「六人です。でも、無傷で居られたものは誰もいませんでした。もっと言えば、ここまで過酷な鍛錬を達成出来るとは私すらも考えておりませんでした」

「だから、咄嗟にアレを出したのかな」


 思えば俺も無理やりな頼みをしたものだ。

 旅の中で鍛えてくれなんて……これから誰かを救うという目的があるのにも関わらず、鍛錬を共に行うなんて馬鹿げた話だ。あの時の力を封印されたからこその焦りはあったが……死ぬかもしれない事を頼むなんて本当に馬鹿だな。でも、そのおかげで知れた事も多い。


「……流動、使わないと決めた得物です」

「なら、それを出させた俺の力はすごいね」

「ふっ……大人のような子供のような、本当に分からない方ですね。孫として見るべきか、息子として見るべきか悩んでしまいますよ」


 その割には抱え方が孫を抱く爺ちゃんだけど。

 まぁ、そういった冗談は影信なりの優しさなのだろう。分かっているから共に進んでいるという忠誠心の現れだ。俺も分かっているから影信には甘え切ってしまっている。無理も無茶も、生き残るためには必要な事だ。そのための代償を誰かが払わなければ成り立たせる事は出来ない。


 ただ、確実に言える事が一つだけある。




「どっちにしても、影信は俺の大切な人だよ」

「……ええ、そうですね。今度は盾の使い方も少しばかり教えますよ。シオン様の場合は盾を自由に出し入れ出来そうですから、覚えておいて損は無いでしょう」

「本当に……影信からは学ばされる事が多いなぁ」


 確かに剣を使うにしても、槍を使うにしても片手は空けられる。防御面ではかなり劣るかもしれないが無いよりはマシだ。それに魔法の付与や質によってカバーする事だって出来るはず……まぁ、個人的には他にも使えそうな得物はあるんだけどね。でも、技術や知識は間違いなく宝だ。


「俺、もっと強くなるよ」

「無茶はせず、そのために私達は近くにいるのです。貴方様だからこそ、その隣を、背中を歩く者達がいるのです。他者では代わりにならない者がいるという事はご理解下さい」

「分かっている。だが、俺の無茶なんて、当たり前の事だろ」

「ええ……そうでしたね」


 悲しいかもしれない、寂しいかもしれない。

 それでも俺の中にある考えでは、俺自身も駒にしなければいけないんだ。俺以外では成り立たない事があるから皆の前に立っている。人望や欲望だけでは物足りないモノがあるから死ぬ覚悟だってしているんだ。だって、どうせ、俺は死んだ身なんだからな。


「貴方様の無茶に振り回される、何とも幸せな毎日を過ごさせて頂いております。本当の意味での幸福は気が付こうと思わなければ気が付けませんから」

「……本気で言っているの」

「配下を振り回さない主に魅力はありませんよ。とはいえ、それ以外にも惹き付ける何かが無ければ命までは懸けません」

「俺のために命は賭けるなよ」


 誰がそんな馬鹿な事を言っているのだろうか。

 俺にだって分かっている。確実に俺が言うべき事では無い話だ。婚約者が、仲間達が、そして得物すらも俺を想って動いている。なのに、俺は自由に、まるで死ぬために戦っているような死に急ぎ振りを見せていた。呆れるならそれでいい。でも、少しでも俺の想いが届くのなら───




「誇り、のために賭けるのは自由でしょう」

「……口が上手いね」

「お互い様です」


 俺の……心を癒す返答をして欲しい。

 何ともワガママで傲慢な考えだよ。他人に自分の感情を押し付けるなんて、自分で自分の機嫌を取れずに泣き喚く幼子と何も変わりない。でも、その言葉で救われる自分がいる。救われたいと泣き喚いていた過去の俺がいるんだ。


「私は死にませんよ。貴方を残して、貴方の目指す覇道を見ずして死ぬなど……そんな主泣かせな騎士などは存在しないでしょう」

「……その時には俺の騎士としていてくれよ」

「は、それが我が宿命故に」


 俺を背負っているから構えはしてくれないか。

 でも、胸元に刻んだ十字は確かな忠誠だ。それでいて彼自身が捨て去ったはずの過去でもある。本当なら主にすら見せたくはないものだろうに……そこまで俺に対して期待しているのかね。一国の王足り得るとでも思っているのだろうか。


「絶対に……生きてもらうからな」

「……どうやら、雨が……降ってきたようですね」

「ああ、お互いに……濡れてしまうな」


 静かに影信の事を抱き締めてやる。

 同時に帰ってきたのは背負う手の力が強まる感覚だった。歩む速度が変わったのも雨の泥濘に嵌りかねないからだろう。きっと、そうだ……こんな幸福を守るために俺達は前を向いている。大きくて優しい背中が少しだけ小さく感じたのは黒雲が太陽を隠したからに違いない。








 ◇◇◇








「おや……起きましたか」

「ここ、は……そっか、それなりに近づいたんだね」

「ええ、到着した時間からして門は開きませんから。ですので、今夜だけはこのような空間で野営を行おうと考えたまでです」


 洞窟、でも、外の雨音を聞けば良い場だ。

 何故だろう……少しだけ懐かしく思えてしまうのは勘違いなのかな。焚き火に並べられた魚も、漂う香りすらも過去に味わったような感覚だ。……いいや、きっと、俺が忘れてしまった過去の一つなんだろうな。


「……ごめん、本当に無理をさせているね」

「孫のワガママに付き合わない爺はいません。シオンから言われた設定ですよ。それ以上の何かなんて今は不必要ですから」

「はぁ……本当に頑固な爺ちゃんだなぁ」


 並べられた魚を一つ、差し出されてしまう。

 一口、噛み付いてみたが……塩すらも味付けされていない素材本来の味が広がるだけだった。それでも驚く程に美味しく感じてしまったのは疲れからなのだろう。分からなくて、辛くて、逃げてきた過去を少しでも肯定したかったから死ぬ事を前提にして生きてきた自分への罰だ。


「影信はさ、俺が……転生者だって言ったらどうする」

「何も思いませんな。シオン様はシオン様です」

「……そうかい。はは……そうだよなぁ……!」


 ああ、この洞窟は雨漏りが本当に酷いな。

 ただただ、手の中にある魚を貪るだけ。一口目よりも二口目が、二口目よりも三口目が塩辛く感じてしまうのはノスタルジーのせいだ。既に捨てると決めた忌まわしき過去を思ってしまう俺の弱さが来ているだけだ。


「私達は、貴方だから着いていくのですよ」

「……なら、全員を幸せにしないと、ね」

「ええ、その助力をするのが爺の役目です」


 良い笑顔だ。出会った時とは違うな。

 きっと、影信だって無意識なのだろう。人は無意識の中で成長していく。それを観測出来るのは自分ではなく周囲の人達だ。願わくば俺も同じような笑みを見せられるようになりたいな。……そうだよ。そのためには不幸なんて神の悪戯は無くていい。


『嫌だ! 嫌だ! 死なないで! ───!』




 もう、地獄は見たくない。

 俺はただ、前を見ていたいんだ。

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