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68話

「はぁ……はぁはぁ……クッソ、ヤベェな!」


 サーティーンの指定した目的地の途中。

 違うのは馬車等といった大層なものはどこにも無いという事だろうか。いいや、それだけだったら今程に心身を擦り減らしてなんていない。ここまで生死を賭ける程に追い詰められているのは他でも無い化け物が襲ってくる可能性があるからだ。


「……命までは取る気は無い、か」


 だとしても、魔物に殺される可能性はある。

 影信から与えられた最初の訓練は『声を知れ』だった。教えられたのはそれだけであって次いで来たのは斬撃、逃げるために門から出てきたというのに攻撃は止まない。いや、人がいなくなった分だけ苛烈になったと言うべきか。


 だが、今のように……そう、バレているはずだ。

 俺が隠れた場所なんて影信からすれば分かっているだろうに、これまで自身の剣で殺しにくるという事は一度もして来ない。それこそ、求めているのは『声を知る』なのだろうが……何に対してなのかは考える暇すら無かった。


「休め……ないよな!」


 どれだけポーションに金をかけたと思うんだ。

 今だって魔力切れを起こしていないのは黒魔法があっての事でしかない。それでも精神面は蝕まれているというのに対処を強いられるなんて……本当に頼んだ相手は最強の一角なんだろうな。今だって俺が隠れていた大樹のみを一振で切り落としていた。


「チッ……!」

「四度目……まだでしたか」

「うる、せぇよ!」


 鍔迫り合いから大きく後ろへ下がった。

 途端に隠れるのは……求めている基準に満たしていないからなのだろう。少なくとも殺しに来ていたのならば四回は死んでいる、と捉えた方がいいんだろうな。先読みがどうこう以前に相手の動きが少しも読めやしない。


「は、はぁ……ようやく、休める……」


 今日で四日目、最後は今みたいに終わる。

 自分の命を狙う程の一撃……恐れるべき点は全てが手刀で行われている事だ。最初の二日間程度は戦う事を意識してみたがどれも失敗、当たり前の事ではあるけど間違った選択という訳でも無い。確実に勝てないという事実と求めている事がそこでは無い事は理解出来たんだ。


 休める……とはいえ、感覚として五時間程度か。

 それも魔物の襲撃を含めた上で休むとなれば心の底からの休息とは言えないな。こんな状況でも誰かが助けてくれるという確証はどこにも無い。護衛として連れてきた影信が何処にいるのか分からない時点で察するべき案件だ。


「ギィァァァ!」

「黙れよ!」


 はぁ……寝ている間もこうして襲われる。

 休みたいな……本音を言えばエルの膝上で眠りにつきたいけど、血溜まりの中で眠るしかないのが現状だ。本音を言えば分かっているつもりなんだけどな。いいや、恐怖の権化のような威圧を向けられながら数百は襲われているんだ。嫌という程に察してしまう。


「……お前はどうしたいんだ」


 俺が求めたのは剣の技術を高める術だ。

 となれば、知るべきなのは……剣の声だろう。他に俺に足りないとすれば俺自身の声だが、そんなものはシンの訓練の手前、口にするとは思えないからな。剣だと仮定して声が聞こえないのは……やはり、俺の実力が不足しているからか。


「……はぁ、疲れたな」


 黒魔法で簡易的な結界は張ってやった。

 それでも……一定以上の魔物が現れれば壊されてしまうのがオチだ。熟睡でもしようものなら影信が壊してくるだろう。分かっているからこそ、右手から得物を離すなんて愚かな真似は出来やしない。


「ごめん、ちょっとだけ寝るよ」


 少しだけ、黒く光った気がしてしまった。

 確かに白魔法も黒魔法も持ってはいるが……属性で言えば黒いよな。正義に価値なんて感じていないような男に光は似合わないってか。まぁ、そんな事はどうでもいい話だ。ただ、こんな幻覚を忘れられるだけの夢を見たい。








 ◇◇◇








「ねぇ! 手加減してよー!」

「弱いのが悪ぃだろ!」


 床に腰を着く幼い少女を馬鹿にした。

 いいや、知っている。中学に上がり立ての時に打ち合った模擬戦、剣道を学ぶ彼女相手に本気で打ち合って勝利したのは俺だった。素人が経験者に勝ったとなれば聞こえは良いかもしれない。でも、実態は男女の力量差を行使したに過ぎない。


「ぶー! ───の馬鹿!」

「馬鹿はアイの方だろ!」

「馬鹿は馬鹿だもん!」


 これは……夢、そう、美しい夢だ。

 それなのに、どうして……今の俺に美しい夢を見せてくると言うんだ。俺が求めている、というには、死ねるような状況ではない。ああ、そうか、俺は何度も何度も悔やんでいたんだろうな。


「でも! アイはね!」

「……え?」

「好きだよ! ───の剣が好き!」


 その顔を守りたいと思っていたはずなのに……。

 逃げるな、そうだ、自分で決めた事から逃げてはいけないんだ。進むと決めたからには戦わなければいけないはず。どうして零れたものだけを見ているんだ。この両手の中には多くの大切なものが残っている。








 ◇◇◇








「ふむ……受けられるとは」

「ああ……そうか」


 気が付いていなかっただけなんだな。

 ずっと、俺の得物は守ってくれていた。俺の身に迫る刃から助けるために右腕を動かして弾き続けていたんだ。寝ていないつもりだったというのに本当に俺は愚かなままだな。でも……どうせなら愚者として生きたい。


「残った魔力くらいはやるよ!」

「ほぅ……ようやく、気が付けましたか」


 その刃が漆黒に染まっていく。

 同時に剣であった姿は槍へと変化した。ただ魔力を流しただけの俺でも驚くんだ。目の前の敵だって少しは驚いているのだろう。……これはアイが好んだ剣では無いが勝てるなら気にする方が無駄な話だ。俺はただ勝利に貪欲なままで生きていたい。


「形状変化……流動」

「……これでも聞けていないか」

「レッスンI、達成ですね」


 初めて見た影信の本来の得物。

 通常の剣にスモールシールドがあるだけ、とはいえ、一目見ただけで手に持つ得物の異常性は誰にだって分かるものだ。何故なら魔槍化も施していない俺の得物を軽く流して見せたんだからな。だが、それで終えられる程の優しさは既に無い。


 それは影信だって、そうなのだろう。

 その目には確かな高揚が見られた。今の俺では勝てないかもしれないが……それでも本気で殺しに行きたいと思ってしまうのは戦う者の心得だろう。だから、自身の得物を剣へと戻して構え直してやる。


「少しだけ語り合おうか!」

「御意に……ッ!」


 本当の得物、いいや、その姿を与えただけか。

 元からコイツは何も変わっていない。俺が気が付かないままでいたのが悪いんだ。だけど、本当の意味で俺の得物となった今、無視していたものが確かに聞こえてきた。何をするべきなのか、どのように扱うべきなのかを俺に指示してくる。


 相手が盾を持っている時点で剣の俺は不利。

 剣の強みは力を込めて斬る事、つまりは叩き切る事こそが強みだ。だが、現状として速度と技術のどちらを取っても負けている。そんな今の俺が影信に一太刀入れるためには……ああ、俺も同じ事を考えていたよ。


 魔法なんてものでは確実に弾かれてしまって終わるのが目に見えている。もっと言えば魔力なんて空っ穴に近いし、体力だって追われ続けていたせいで微かに残っている程度だ。だからこそ、様子見をしてくれているのだろうが……それも残り数秒、考えていられる余裕すら無いのならば賭けるしかない!




「参る……!」

「来なさい!」


 魔法の発動なんてするつもりはない。

 だが……既に罠は仕掛けている。分かっているからこそ、影信も呼吸を止めたのだろう。いいや、五感の全てを鋭敏にするためなのかもしれない。手を抜いているとしても隙はコンマ一秒とすら有りはしないんだ。狙うべきは……!




「それは!」

「今!」


 空中に漂わせた得物の欠片達、それらを吸えば内部から殺しに行った。だが、それをしないという選択を取るのであれば固めてナイフとして飛ばすだけだ。無理やり盾で弾いたようだけど……少しだけ隙を見せたよな!


 そこを得物で本気で突く。斬るでは駄目だ。

 そんな構え直す余裕は無い……それに盾で流されてしまえば終わりなんだ。突きならば剣で弾きにかかるか……そう、躱してカウンターに入るだろう。そこまで読めれば俺の勝ちは明確に決まっているんだよ。


「形状変化ッ!」

「……なるほど、これが狙いでしたか」


 槍へと変えて反対の柄で剣を絡め取った。

 絡め取ろうとしたのだろうが槍へと変化させてしまえば持ち手が後退するだけ。ましてや、勢いを付けて貰える分だけ流れから弾く事が出来た。そのまま首元へと刃を向ければ終わりだ。とはいえ、首に刃をかけただけで殺せる程の存在だとも思ってはいないからな。


「まぁ、な……とはいえ、殺す術が無い時点で勝利とは言えやしないけど。それでも、お前の主である証明としては十分だろ」

「ええ、十分過ぎますよ」


 そう言って、影信は静かに笑った。

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