二章 お昼の出来事
「な~んで! メグチンは今日も学食にいるの!」
時は昼休み。
昼食をとるために学食へとやってきた愛理は、今日のお勧めとしてメニューに書かれていた親子丼を注文し、それを受け取って空いている席に腰掛けた。
手を合わせて、心の中でいただきます、と呟き、さぁ、卵がたっぷり絡めつけられた鶏肉と白米をいただこうかとおもっていたところに、嵐のように人の波を掻き分け、購買の人気商品である焼きソバパンとクリームコロッケパンとカレーパンを購入してきた馬鹿娘が、疾風のごとく、愛理の隣の席に着いた。
そして、ハイエナのように焼きソバパンを貪り食った後に放った一言が、先程の台詞である。
愛理は、軽く頭痛を感じたので、無視してやり過ごそうかと考えたが、この後、間違いなくこの馬鹿は、さらに頭痛が酷くなるようなことをしてくるだろう、と思ったので、仕方無しに相手をしてやることにした。
「昼ご飯を食べにきたから、学食にいるに決まってるでしょう」
「じゃなくて! なんで、お弁当、作ってこないのさぁ! メグチンのお弁当、むちゃくちゃ美味いのに!」
カレーパンの袋を開けながら、そう主張する小春。そして、そのパンを頬張りながら、なおも文句を言う。
「はんはにほいひいおふぇんほお、ははひ、はふぇはほほなはっはんはよ」
「飲み込んでから日本語で喋りなさい」
言われた小春は、むっしゃむっしゃと豪快に咀嚼して、カレーパンを飲み込み、再度、文句を言った。
「あんなに美味しいお弁当、アタシ、食べたことなかったんだよ! 何で最近作ってこないのさ!」
「朝錬に参加しながら、お弁当を作ることが面倒くさくなったからよ」
愛理は、中学の頃から料理が得意で、以前は自分で昼食を作っていたが、最近は今述べたような理由で作っていない。そして、もう一つ理由があった。
「あと、私のお弁当なのに、全部勝手に食べる人がいるからね……」
ジロッと小春を睨み付けるが、当の小春は、最後のパンであるクリームコロッケパンの味を楽しんでいた。
愛理は以前、お弁当を全て小春に食べられてしまい、空腹のまま、部活に参加しなくてはいけない状況に追いやられたことがあった。原因の二つ目はこのことである。
「あ、そういえばさ、《トラブルバスター》って知ってるかい、メグチン?」
自分の都合の悪い方向に話が流れそうだと、話題を変えるのが小春クオリティ。
愛理自身も、追及しても無駄だと悟り、親子丼を食べながら、適当に相槌を打つことにした。
「知らないわね」
「最近だね、天山商店街を抜けた先の雑居ビルの一つに、その《トラブルバスター》っていう仕事をする人たちの事務所が出来たそうだよ」
小春は、何故かこういった新着の情報をいつも持っている。そして、彼女の情報が当てにならないことはない。朝のホームルームの際の、担任のお見合い失敗情報も、彼女の情報網に引っかかったものだったのだろう。
いずれにせよ、愛理にとっては、全くどうでもいい話だった。
(――そうだ、今日は商店街で買い物してから帰ろう)
そんなことを考え、親子丼を食べながら、やはり適当に相槌を打つことにする愛理。
「へぇ~……」
「なんかね、『厄介ごと、解決します』っていうのがキャッチコピーらしくてね、法に触れないことなら何でも低価格でやってくれるらしいよ」
「ふ~ん……」
「今までは隣町で営業してたらしいけど、最近、こっちに移転してきたらしいよ」
「そうなんだ……」
「……新装開店みたいな感じで、今日からビラ配りとか始めるらしいよ」
「それはすごいね~……」
「……アタシのおっぱい、最近急成長して、ブラのカップがPになったんだ~」
「すごいわね~……」
「人の話はちゃんと聞けぇぇぇっ! 生返事で返すなぁぁぁっ!!」
突如、ブチギレた小春は、愛理の親子丼を横からひったくった。
「ちょっと! なにすんのよ!」
愛理の抗議の声も聞かず、小春は半分ほど余っていた親子丼を、自身の口にかき入れた。そして、一瞬で飲み込み、また叫ぶ。
「アタシのどこがPカップだぁぁぁっ! Aすら怪しいんだぞチクショォォォォッ!! Cのメグチンには分からないだろっ! このむなしさっ!!」
普通に個人情報を漏洩させる小春。結局、愛理の頭痛は酷くなってしまった。
「――あなたは、ちゃんと人の話を聞くの?」
これ以上、小春に喋らせると、あることないこと叫ばれそうなので、気を逸らすことにした。
「勿論さ! 人として当然さね!」
「三日前に貸した千円、返してほしいんだけど」
「そういえばさ~、メグチン、髪切らないの? ロングが似合わないとかじゃなくて、走るとき、邪魔になんない? まぁ、それでもインハイ二位だから凄いよねぇ~」
自分の都合の悪い方向に話が流れそうだと、話題を変えるのが小春クオリティ(本日二回目)。
お腹を満たせない昼休みライフを送ってしまった愛理は、食堂の天井を見上げ、
(青井原、こいつのどこに惚れたんだ……)
永遠の疑問について、答えのない考察を始めるのだった。




