二十章 過去との出会い
「なっ!?」
「だ、誰!?」
驚いて、声のしたほうを見る愛理と千風。
千風の蹴り破った教会の入り口に、誰かが立っていた。
教会の牧師のような格好をし、長めの金色の髪を後ろで束ねた男だった。その顔には、貼りつけられたような無機質な笑顔が浮かんでいた。
「きょ、教師様!? 高峰教師様!!」
手錠をかけられた男が、やってきた男の名を呼ぶ。
「お待たせしましたね、臼井さん」
高峰と呼ばれた男は、手錠をかけられた人物の名を呼び返す。
「なにやら招かれざる人々がいらっしゃるようですが」
高峰は、愛理と千風を舐めるように見回す。
その視線に、強烈な悪意を感じた愛理と千風は距離を取る。
「あ、あんた! 何なの!? 何をしにこんなところに……」
愛理は、何故か恐れを抱きながら、高峰に問いかける。
高峰は、千風を見た後に、愛理の質問に答える。
「君のお友達は、私のことを知っているみたいだよ?」
「えっ?」
言われて、千風のほうを見ると、千風は顔面蒼白になって震えていた。
「ち、千風!?」
愛理は千風に駆け寄り、千風の体を揺すり、呼びかける。
「どうしたの!? 千風!?」
「あ、あ……」
しかし、千風は、高峰から目線を外さず、何かを呟いている。
そんな二人を無視して、高峰は、臼井と呼んだ男に話しかける。
「臼井さん、あのスーツの娘は、どうやら私のことを知っているようだ。このまま、警察なんかに通報されてしまうと、少し厄介なことが起きるなぁ……」
「ま、まさか! や、やめてくれ、教師様!」
何かを懇願する臼井。
「あの娘たちには、俺が迷惑をかけてしまった……ここにいるのは俺の責任なんだ! そして、俺を正しい道に戻そうとして叱ってくれた恩人なんだ! だから、頼む! 見逃してやってくれ!」
臼井の懇願に、高峰は困った顔をする。
「ふむ、あなたは、隠れ教団員として、今日までの逃亡生活をサポートしてくれた、素晴らしい団員です。そんなあなたの頼みを無碍に断ることは出来ません……」
「じゃ、じゃあ!」
臼井は、自分の願いが聞き入れられた、と思い、笑顔になる。
しかし、
「でも、あなたは『天恵は己のためにある』という我が教団の大原則を破り、鞍替えしようとしていますね……」
と、高峰は臼井に返す。どうやら、先程の千風との話を聞いていたようだ。
「な、ち、違う!天恵の使い道を考えるだけで、決して教団の原則を破るわけでは……!」
そんな臼井の言葉を聞かず、
「信仰が足りない異端者は、我らが教団には、必要ないなぁ」
にぃっ、と邪悪な笑みを浮かべて、高峰は臼井に向けて、手をかざす。
「なっ!? や、やめてくれ、殺さないでくれ、教師様ぁぁぁっ!」
バチィッ!
高峰の手から、雷光が迸り、放たれた稲妻が臼井を直撃した。
臼井は、悲鳴を上げることも出来ず、動かなくなった。
目の前で行われた惨劇に、愛理は言葉が出ない。
高峰は、くすくすと笑いながら、愛理たちを見つめる。
「次は、君たちだ」
そう宣言して、手をかざす。
愛理は、体が竦んでしまって動けない。
(な、何なのよ、こいつ!?)
正体不明な目の前の人物の、明確な殺意に震える愛理。
しかし、そんな愛理の前に、先程まで顔面蒼白だった千風が立つ。
「ち、千風?」
千風の表情は、見えなかった。高峰と対峙しつつ、千風は、なにやら呟きだした。
「――高峰、透、《天恵教団》の教師の一人で、幹部の一人……」
(えっ?)
千風の呟きに、愛理は驚きを隠せない。
「おや、やっぱり知っていたようですね」
高峰は、笑顔を浮かべ、答える。
「いかにも、私は《天恵教団》の幹部の一人、絶賛指名手配中の高峰透と申します。あなたたちを殺すものの名ですから、短い間ではありますが、覚えておいてください」
イカれた自己紹介をする高峰に構わず、千風は叫ぶ。
「十年前! 国立体育館の前で! テロ行為を行ったのはお前だな!」
すさまじい怒りを言葉に乗せて、千風は問う。
(国立体育館前でのテロって、まさか……!)
愛理は、思い出した。
その事件こそ、千風が天恵受者として覚醒した事件であることを。
「よくご存知ですね、ひょっとして近くに住んでたんですか?」
笑顔のままで、からかうような口調で、千風に答えを返す。
「お前に殺された、お父さんとお母さんの仇! とらせてもらうぞ!」
千風は勢いよく、高峰に向かって飛びかかる。
「仇討ちですか、なんとも泣かせる話だ……」
高峰は、片手で涙をぬぐう仕草をしながら、千風たちに向けていた手から《雷撃》を繰り出す。
バチィィィッ!
「ぎゃん!」
千風は、まともに《雷撃》をくらい、空中でビクンッと跳ねて、床に落ちた。
「実力が伴わない仇討ちほど、悲しいものはないなぁ」
またも、涙をぬぐう仕草をするが、その顔は邪悪な笑顔を抑え切れていない。
「千、風……! 千風ぇぇっ!」
愛理は、倒れた千風に必死に呼びかけるが、全く反応は無い。
「くくく」
笑い声を漏らしながら、高峰は愛理に近づいてくる。
愛理は、いまだに体がすくんで動けない。自身の思う通りに動かない体に、歯がゆい思いをする。そして、動かない足を殴って、動くように必死に願う。
(動け! 動け! 動いてよぉっ!)
しかし、足は言うことをきかない。
そうしている間に、ゆっくり一歩ずつ、高峰は近寄ってくる。まるで、愛理を嬲るように、ゆっくり、ゆっくりと。
「ふふ、足が動かないのかい? 大丈夫、今から、全身動かなくなるから」
やがて、動かない千風を越えたところで、また手を愛理の方に向ける。




