表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

十九章 一つの終わり 別の始まり


「うぅぅぅっ……いてぇ、ちくしょう……」

 男は、左腕を抱え込むようにして歩いていた。

 男の左手には、親指がなかった。

「くそ! くそ! あのビッチめ……!」

 悪態をつきながら、人目につかない路地裏を歩く。

 目の前は、ビルで行き止まりだ。

「殺す……! 殺してやる……!」

 しかし、男は意に介さず、そのまま前進する。

 そして、ビルにぶつかった。

「殺す、殺す、殺す……」

 だが、男の体はビルの壁に吸い込まれ、いつの間にかビルの内部に侵入していた。

 男は、その後も前進を続け、ビル内部の壁も何事もなく通り抜け、行き止まりだった道をまっすぐに通過する。

 この眼鏡の痩せた男は、天恵受者だった。天恵の名は《通過》。彼は、生きているもの以外なら、どんなものでも通り抜けることが出来る。今のような《壁抜け》などが、その例である。

「いてぇ……いてぇよぉ……」

 男は、指を根元から千切られた激痛から、声を漏らす。

 病院に行くべきではあったが、自身のしたこと(殺人未遂や不法侵入)がばれるのを恐れて、行くに行けない男は、ある人物を頼って、ある場所へと向かっている。

 やがて、男は、とある古びた教会に辿り着いた。

 解体作業をしているのか、教会の入り口近くには、立ち入り禁止の看板が立てられ、敷地内には解体されたと思われる資材にブルーシートがかけられているものが幾つかあった。

 人気は全く無く、周囲には誰も住んでいないことが伺える。

 男は、看板に構わず教会の敷地に入り、ドアを使わず、《壁抜け》で教会内部に入る。

 そして、いまだ設置されたままの長椅子に腰をかけ、携帯電話を取り出し、誰かに電話をかける。

「いてぇよ……早く、出てくれ……」

 数回のコール音の後、電話はつながる。

 途端に、男はすがるような声を出し、話し出す。

「も、もしもし! 教師様! 今、所定の場所に着きました!」

 男に教師様といわれた、電話の相手は男に優しく話しかける。

『そうですか。私もそちらへ向かっているところなので、少々お待ちください。約束どおり、教団の治療系の天恵受者を紹介しますよ』

「あ、ありがとうございます!」

 男が礼を言うと、電話は切れてしまった。

 男は、言われたとおり、待つことにする。しかし、痛みのせいで時間が流れるのが、大変遅く感じる。

「いてぇ! いてぇぇっ!」

 何故、こんな目に俺が遭っているんだ?

 みんな、あのビッチのせいだ!

 男を連れ込むような淫乱の分際で、よくも俺の指を……!

 復讐してやる! 殺してやる!絶対に!

「殺す……!」

 自分のことは棚に上げて、愛理に対する怒りをぶつぶつと繰り返す男。

 狂気にその顔は歪んでいた。

 あの女をどうやって殺してやろうか?

 そんなことを考えていると、気が紛れた。

 男は、妄想の世界に、意識を没却させた。

 結果、次の瞬間、致命的な遅れをとることになった。


 ダァンッ!

 突如、教会のドアが蹴り破られる。

「っ!?」

 男が、はっとしたときには、もう遅かった。

 スーツを着た小柄な人物に、間合いを詰められていた。

 そして、強烈なボディブローを叩き込まれる男。

「げはぁっ!」

 その場に崩れ落ちた男の両手をとり、背中のほうに回して、押さえつけるスーツの人物。

 さらに、男の両手には手錠がかけられる。

「これは特殊警察でも使われている、天恵受者の天恵を封じる手錠です。もう、あなたは逃げることも出来ませんよ」

 スーツの人物―神城千風は、男を床に組み伏したまま告げる。

「て、てめぇ、さっきの……!? お、女だったのか!?」

 男は、自分を押さえつけている人物が、愛理が部屋に入れたスーツの人物であることを理解し、その人物が男ではなかったことも理解した。

「えぇ、どこから見ていたか知りませんが、私は女です。あなたは勘違いで愛理さんを殺そうとしたんですよ」

 千風は、無表情に事実を突きつける。

「そ、そんな……勘違い……?」

 男は、途端に呆然とする。

 愛理が、遅れて教会内に入ってくる。

「あなたは、自身の身勝手な愛情のために、本人の承諾なしに部屋に勝手に侵入し、愛理を不安がらせただけではなく、勘違いで殺そうとまでしました。あなたは、罪を償わないといけません」

 千風は、呆然とする男に、告げる。

 愛理は、その様子を無言で見守っている。

「な、なんで、ここが……」

 分かったのか、と問う男に、千風が答える。

「あなたに言う義務はありません」

 言いつつ、千風は愛理に合図を出す。

 愛理は、気分悪そうに千風にあるものを渡す。

 それは、男の指をティッシュでくるんで(愛理の強い要望により、捜索前にくるむことにした)、糸で縛ったものだった。

 糸をはずすと、指は男の手の本来あるべき場所に戻り、くっついた。

「なっ!?」

 驚愕して、男はくっついた指を動かす。痛みも消えている上に、ちゃんと動いた。

 そんな男に、千風は厳しい口調で言う。

「愛理に何か言うことがあるでしょう! あなたの身勝手な感情で、愛理は酷い目に遭ってるんですよ!」

 男は、呆然としながらも、愛理を見る。しかし、愛理は、男の顔を見ようともしない。愛理の首には、生々しい縄の跡が残っている。

「す、すみません、でした……」

 男は、今更ながらになって、涙ながらに愛理に詫びた。

 千風は、男の謝罪を聞いた後に、

「謝罪だけですむ問題ではありません。刑務所で、罪を償うことが必要です。天恵は悪用するために存在しているのではありません。これからは、その力の使い道を考えて、生きてください」

 と、断じる。

 男は泣きながら、頷いた。

 その反応を見た後、千風は男から離れ、愛理の傍に寄る。

「後は、警察に連絡して、任せましょう」

 千風の言葉に、愛理は頷く。

「そうね……ということは、これで私の依頼も完了した、ってことになるわね」

 少し、寂しそうに愛理が言う。

「まだ、事後処理が少しありますけどね」

 同じく、千風も少し寂しそうだ。

「まぁ、まずは警察に連絡をしましょう。私はおにいちゃ……所長に連絡するので、愛理は警察に……」

「分かったわ」

 と言って、二人が携帯電話を取り出した。

「それは困りますね」

誰かの声がかかった、その瞬間、

 ドンッ!

 と、愛理と千風の携帯は爆発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ