7章1話 Baldri 輝けるもの
ある日、バルドルはひどく奇妙な夢から目覚めた。それは「死」についての悪夢で、彼はその衝撃に床から起き上がれず、唇ひとつ動かすにも重大な決意が必要だった程である。バルドルの母フリッグは息子の様子をひどく案じた。そして何とか夢について聞きだした。
「とても信じがたいことなのです、母上」バルドルは震える唇でそう言った。
女神フリッグは予言にて知り得た事が山のようにある。だからこそ彼の夢は予言であり、遠くない未来に起ころうとしていることを眠りを通じてみたのだろう。嗚呼!この才能が継がれるのは彼でなくてよかったはずだ。
フリッグは直ちに、名だたるアース神を一堂に会させ、バルドルの夢の内容を告げた。そして、回避のための助言を求めた。まずは、バルドルの父たる夫、オージンに。
「あなた、私たちのバルドルのために何が出来るかしら?」
「そのことについて皆の知恵を借りようとすることができる」
その言葉はフリッグが欲しがった明確な手段ではなかった。だが、オージンがその何かをしでかそうという明確な意思を表明しなくなってからかなりの年月が経っているため、誰も何も気にしようとはしなかった。
「誰かに殺されるのなら、そいつを縛してしまえばいい」そう言ったのはヘイムダッル。バルドルの腹違いの弟にあたる虹の橋の守護神である。
「それが、誰が下手人なのかはわからなくて」バルドルは、それが誰か言えなかったのだ。
「なら駄目ですね、取り下げます」
「それらしきもの皆捉捕らえるという訳にはいかない……わよね」
「現実的でないな」
「ひとつ」そう言って場の端で手を挙げたのはテュール。ヒュミルの息子の裁きの神にして軍神のテュールであった。
「傷害によって彼が死ぬのなら、傷つかぬようにすればよい」
「彼の肉体を頑健にするということか?」そう問うたのはオージンの長男、ソールである。それに対しテュールは首を横に振った。
「いいや、すべてのものが彼を傷つける行いをしないと誓えばよい」
女神フリッグは息子を傷つけさせぬと誓った。そしてその誓いを皆に強いた。俄かには信じがたいことだが、彼女は物体にすら強いたのだ。つまり、長短の剣、弓と矢、大槌、盾、棍棒などの武器に、彼を傷つけぬよう誓わせたのである。それは危険物のみならず、病気という現象すらにおよび、小さな石ころや花鳥風月に至る弱きものにすら適用された。
「これで何も私たちの光バルドルを傷つけるものはなくなったわ!」フリッグはそう言った。その斜め後ろでヤドリギが、誓わせるには若すぎる宿り木だけが、見過ごされていた。




