アルカ・ラヴィアンジュの日記 1
──────愛しい貴方へ。
君がいなくなってもう何度季節が廻ったことだろう。
君一人、いや─────君たちを寒く暗い場所に連れていくことになってしまい、本当にすまない。
けれど帝国は。
君に私との子供がいると知られれば、母子共々容赦なく命を奪おうとするだろう。
…………それが、私には何よりも恐ろしい。
必ず迎えに行く。
この『特区』という悍ましい鳥籠を焼き払い、まだ見ぬ我が子と、君と、太陽の下で手を繋いで笑い合える日が必ず来るから。
どうか、もう少しだけ耐えていてほしい。
君に直接言葉を届ける術すらない今、私はただ、この手帳に想いを書き殴ることしかできない。
いつかこの日記を傍らに置き、顔を見合わせて「あんな事があったね」と笑い話にできる日が来る。
そう信じて。
それにしても、日記なんて初めて書く。
少し照れくさい気もするけれど、日々あったことを綴っていくことにするよ。
半年前の夏、王家の命によりクレミア公爵家へ足を運んだ。
曰く、公爵令嬢と第二王子の間に生まれた子が「魔術師」として覚醒し、手に負えないので処分したい───という、身勝手な相談だった。
社交界ではひた隠しにされている醜聞。
案内された先は、陽の光すら届かぬ座敷牢だった。
そこにいたのは、まだ七つの小さな子供。
彼は感情の欠片も宿さぬ虚ろな瞳で、ただ呆然と座り込んでいた。
問いかけても返事はない。
ただ、彼自身が溢れ出る魔力に蝕まれるように、周囲の壁をじりじりと焼き焦がし続けていた。
クレミア公爵は迷うことなく、自らの孫であるヴェリアル・クレミア・ルーファスを魔術師団へ「廃棄物」として引き渡すことを決めた。
否───正確に言うと、その膨大な魔力のせいで殺せなかったから、引き渡すしかなかったのだ。
腐っている。
魔術師に生まれたというだけで、人を人とも思わぬその根性に、理性が焼き切れた。
気づけば、座敷牢を半壊させていた。
救い出したヴェリアルは、最初は何も話さず、笑いもせず、ただ死を待つかのように呼吸をしていた。
だが、共に過ごすうちに、その凍りついた感情の端端が動き出す瞬間がわかるようになった。
先日、私の不注意で実験に失敗し、右腕が吹き飛びかけた時のことだ。
私は些細な傷だと笑い飛ばしたが、ヴェリアルは違った。彼は焦燥に目を丸くし、必死に治癒の詠唱を紡いでいた。
……なんて、優しい子なのだろうか。
その瞬間から、私と彼の間には確かな絆が生まれた気がする。
今では二人で食卓を囲み、ぎこちなく料理をする時間さえある。
いつか君と我が子に出会えたら、ヴェリアルもきっと、君たちの良き家族になってくれるはずだ。
この日記を書き始めたのは、彼に「記録を残すこと」を勧めたのがきっかけだった。
彼が自分の人生を大切に思えるように。ならば私も、君への────君たちへの想いをここに刻んでいこうと思う。




