表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/46

第四章:神滅の聖域と、金色の反逆者 第41話:鏡合わせの妹と、鋼鉄の誓い

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第40話)のあらすじ

カズ、エリス、サクラの三人は、三位一体の極大魔弾で融合魔獣を粉砕。ついに東京を支配していたオブシディアンの心臓部『マザーサーバー』を奪還しました。長く暗い地下迷宮を抜け、地上で彼らを待っていたのは、美しく輝く勝利の夜明けでした。

――そして今回の第41話。

物語はいよいよ新章『神滅の聖域と、金色の反逆者』へと突入します。

激闘を終えたカズたちに訪れた、束の間の安らぎ。しかしそこには、目覚めた「本物のミオ」と、彼女にそっくりな「アンドロイドのミオ」の衝撃的な出会いが待っていました。さらに、北米防衛軍のリーダーとの接触により、世界規模の戦いの火蓋が切って落とされます。

そして新たなる絶望の予感。


西暦2100年、2月


 東京の空を厚く覆っていた絶望の雲は消え去り、そこには突き抜けるような冬の青空が広がっていた。


 かつてオブシディアン・ミリテックが冷徹な支配の拠点としていた、超高層ビル『マザータワー』。その最上階にあるスカイラウンジは、今や奪還の象徴――【アーク・セクター00】へと姿を変えていた。


 ガラス張りの巨大な窓からは、朝日に照らされて黄金色に輝く東京の街並みが一望できる。かつてカズとエリスが命を懸けて駆け抜けたあの廃墟さえも、上空から見れば再生を待つ一つの生命体のように見えた。


「……あぁ、本当に帰ってきたんだな」


 カズはラウンジのソファに深く腰掛け、大きく息を吐き出した。

 オーダースーツはボロボロになり、身体中に激戦の痕跡が残っている。だが、その瞳には十九回の絶望を乗り越えた者だけが持つ、穏やかで強い光が宿っていた。


 カズの視線の先には、二人の女性の姿がある。

 一人は、消滅の世界線から奇跡の帰還を果たした最愛の姉、サクラ。


 そしてもう一人は――。


「……ん、……ぅ……お兄ちゃん?」


 ラウンジの医療用ベッドの上で、小さな身体が身じろぎをした。

 長い睫毛が震え、ゆっくりと開かれた瞳。


 その茶色の瞳がカズの姿を捉えた瞬間、少女の顔にパァッと花が咲いたような喜びが広がった。


「ミオッ!!」


 カズが駆け寄るよりも早く、ミオはベッドから飛び出し、カズの胸へと弾丸のように飛び込んできた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!! 怖かったよぉ、ずっと暗いところにいて、変な声が聞こえて……。でも、お兄ちゃんがミオを助けてくれるって信じてたんだから!」


「……あぁ、怖かったな。ごめんな、ミオ。もう大丈夫だ。俺が、俺たちが、お前を絶対に離さない」


 カズは震えるミオの小さな背中を、愛おしそうに何度も撫でた。

 洗脳が解け、命の輝きを取り戻した本物の妹。その温もりを肌で感じ、カズの目からも熱いものがこぼれ落ちる。


「……ふふ、よかったね、カズ様」

 傍らでその光景を優しく見守っていたのは、銀髪の麗人――アリスだった。


 だが、その平和な再会の空気は、背後から響いた「無機質な足音」によって一変した。


「――マスター・カズ。本個体ミオのバイタルサインの安定を確認。覚醒に伴う脳波の乱れも許容範囲内です」


「……えっ?」


 カズの胸に顔を埋めていたミオが、ビクッと肩を揺らして振り返った。


 そこに立っていたのは、自分と全く同じ顔、同じ髪型、同じ声をした――だが、決定的に温度の低い瞳を持つ、機械の少女だった。


「……な、なになになに!? 誰、この子! ミオなの!? なんでミオがもう一人いるの!?」


 ミオは驚愕のあまりカズの影に隠れ、ミオドロイドを指差して叫んだ。


「落ち着けミオ。この子はミオドロイド。親父が遺した、お前をモデルにしたアンドロイドなんだ。俺たちと一緒にマザーサーバーを戦い抜いた、大切な仲間なんだよ」


「……仲間?」


 本物のミオが、不機嫌そうに頬を膨らませ、カズの後ろからミオドロイドをジロジロと観察し始めた。


「……ふんっ。お兄ちゃん、こんなニセモノに騙されちゃダメだよ! ミオの方が、絶対にお兄ちゃんのこと大好きだし、家事だって……えっと、これから練習するもん!」


 対するミオドロイドは、一切表情を変えずに淡々と告げる。


「論理的矛盾。私は一ノ瀬和マスターを守護する防衛システムです。戦闘能力における貢献度、および家事効率、計算速度、すべてにおいてオリジナルのあなたを200%上回っています。お兄様の隣に立つ『妹』としてのスペックは、私の方が適任であると推測されます」


「な、なによその可愛くない顔は! スペックってなによ! ミオは……ミオはお兄ちゃんに頭を撫でてもらうのが世界一上手なんだからねっ!」


「……情報の有用性を検証中。撫でられる技術……それは生存戦略において非合理的です」


「もぉぉぉーっ!! お兄ちゃん! この子、今すぐ分解して! ミオは二人もいらないっ!」


「二人とも、やめろ……っ」


 二人の妹(片方はメカだが)に挟まれ、カズは左右から引っ張られながら「どっちも俺の自慢の妹だよ……」と情けない声を上げてタジタジになっていた。


「ふふ、先輩も大変ですね。……鼻の下が伸びてますよ?」

 そこへ、優雅な動作でティーカップを差し出したのは、エリスだった。


 彼女の銀髪は美しく整えられ、新調されたばかりの黒いメイド服姿。そのサファイア色の瞳は、心なしか据わっており、カズをジト目で見つめている。


「……あ、いや、そんなことは……」


「約束の紅茶です。……『生きるための温かい約束』。召し上がってください」


 エリスが淹れたアールグレイの香りが、ラウンジにふわりと広がった。


 十八回のループで、常に死の象徴だったその香りが、今は驚くほど優しくカズの五感に染み渡っていく。

 一口啜ると、喉を通る熱が、生きているという実感に変わった。


「……美味しいよ、エリス。世界で一番だ」


 カズの言葉に、エリスは頬を微かに赤らめ、ようやくいつもの献身的な笑顔を見せた。


 家族が揃い、仲間が笑い合う。地獄のループを越えた先にあった、夢にまで見た休息。

 だが、その平穏を切り裂くように、ラウンジの中央に設置された巨大なメインコンソールが、突如として真っ赤な警告音を鳴らし始めた。


『――緊急入電。暗号化回線、海外プロトコルを確認』


 ソファでミオをあやしていたアダムが、鋭い目つきでコンソールへ飛びついた。


「チッ、いい所だったんだがな。……カズ、世界から『招待状』が届いたぜ」


 アダムがキーを叩くと、空中に巨大なホログラム映像が投影された。


 そこに映し出されたのは、燃え盛る荒野をバックにした一人の男の姿だった。


 星条旗のワッペンが付いた、砂埃にまみれた軍服。筋骨隆々の巨躯。

 だが、何よりも目を引いたのは、彼の欠損した部位を補う、無骨な「鋼鉄のパーツ」だった。

 右腕は、肩から指先まで剥き出しの油圧シリンダーと人工筋肉で構成された、軍事用義手。

 左脚もまた、膝から下がチタン合金のプロセティクス(義足)に換装されている。


『――聞こえるか、東京を奪還したという生意気な小僧共』


 男の声は、何千回もの戦場を潜り抜けた者だけが持つ、重厚で威圧的な響きを持っていた。


「……あんたは?」


『北米防衛軍、自由のリバティ・ウィングを指揮する、ジャック・ヘンダーソン大佐だ。……一ノ瀬の小僧、貴様の成した功績は、この海の向こうで泥水を啜りながら戦う兵士たちの、唯一の希望になっている』


 ジャック大佐は、自らの鋼鉄の義手をギチ、と鳴らしながら、鋭い眼光をカズに向けた。


『だが、俺はクローンを信用しちゃいない。その隣にいるアンドロイドも、お前の後ろに立つ姉という女もな。……俺はこの鋼鉄の腕を撫でるたび、アイツらが攻めてきたあの日、クローン共に食い千切られた部下たちの絶叫を思い出すんだ。血の通わない連中に、世界を救えるなどと俺は思わん』


 彼の言葉には、単なる差別ではない、肉体を欠損させられた者特有の、深く、拭い去れない「憎悪」が滲んでいた。


「大佐。俺たちの家族や仲間を、一緒くたにしないでくれ。

俺たちは――」


『言葉は不要だ。……奴らが動き出した。オブシディアンを裏で操る『魔術教団』の真の拠点……奴らが「聖域サンクチュアリ」と呼ぶ異空間の座標を、我々は特定した』


 カズの心臓が、ドクンと不気味なリズムで跳ねた。


『ヨーロッパの防衛リーダー、カトリーヌとも連絡はついている。全人類の総力を結集し、この狂った世界の「根源」を断つ時だ。……小僧。お前たちが本気で世界を救いたいというなら、その身の潔白と強さを、戦場で証明してみせろ』


 通信が途切れる直前、映像の端に不気味なノイズが走った。

 教団のネットワークから強引に割り込んできた、極秘の隠し映像。

 そこには、どこまでも続く真っ白な空間の中で、漆黒の玉座に腰掛ける「一人の男」の姿があった。


「…………っ!!」


 カズは、持っていたティーカップを床に落とした。

 カチャン、という音と共に、紅茶が絨毯に染みていく。

 モニターの中の男が、ゆっくりと顔を上げた。


 その顔は――カズと寸分違わぬ、一ノ瀬 和そのもの。

 だが、髪の色は太陽のように眩い『金色』に染まり、その瞳には神を気取るような傲慢な笑みが宿っていた。


『――素晴らしい共鳴レゾナンスだったよ、(カズ)。東京の地下を壊したくらいで、勝ったつもりか?』


 金髪のカズ――魔術教団の真の総帥が、画面越しにカズを指差す。


『聖域への招待状はすでに送った。……十九回目のループの終着点。そこで待っているよ、僕の「器」の一部。君の絶望が、この世界を神の国へと変える『最後のピース』になるんだから』


 不敵な笑い声を残し、モニターの映像は砂嵐に消えた。

 静まり返るスカイラウンジ。

 二人の妹の喧嘩も、エリスの嫉妬も、夜明けの安らぎも。

 そのすべてが、一瞬にして冷酷な「戦争」の気配に塗りつぶされていく。


「……あいつが、俺たちの本当の『敵』」


 カズは震える手を強く握りしめ、消えた画面を睨みつけた。


「エリス。……もう一杯、紅茶を淹れてくれるか」


「……はい、先輩。最高に熱いのを、お淹れします」


 エリスは静かに一礼し、再びポットを手に取った。

 束の間の休息は終わった。


 東京奪還の暁から、彼らの戦いは、ついに世界を賭けた最終決戦――「神滅の聖域」へと、その舞台を移していく。

 カズの瞳に、極寒の殺意と、すべてを終わらせるための黄金の光が宿った。


(待ってろ、ニセモノ。お前の描いた筋書き、全部この手で書き換えてやる)


 新たなる死闘の幕開けを告げるように、窓の外では、2100年の太陽が容赦なく東京を照らし続けていた。


第四章 第42話へとつづく

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

新章・第四章『神滅の聖域と、金色の反逆者』、ついに開幕しました!!

今回は、激闘を終えたカズたちの「新しい日常」を描きました。

本物のミオとミオドロイドの、まさに「鏡合わせの妹」同士のギスギス(?)した掛け合い、楽しんでいただけたでしょうか。

そして、ついに明かされた北米のリーダー、ジャック大佐。彼のようにクローンを憎む人間との同盟がどう転んでいくのか。

何より、ラストに登場した「金髪の総帥」。カズと全く同じ顔を持つ彼の目的とは……?

▼ 次回予告:第42話

動き出した魔術教団と、世界各国の防衛軍。

カズたちは「聖域」への手がかりを求め、次なる目的地へと向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ