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第三章:オブシディアン地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第36話:残された者の祈りと、禁忌の転送(イデアの遺産)

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第35話)のあらすじ

サクラを救うため、自らの命を絶って「死に戻り」を決行したカズ。しかし、彼が目覚めたのはエリスもアダムも存在しない「空白の世界線」でした。

――そして今回の第36話。

視点は変わり、カズが旅立った後に残された「元の世界線のエリス」のお話です。

魂の抜けたカズの抜け殻を前に、絶望するエリス。しかし、カズが向かった先が「自分たちが存在しない世界」だと気づいた時、彼女はとんでもない決断を下します。

死に戻りの力を持たない銀髪のメイドが、愛する人を追いかけるために選んだ『禁忌の手段』とは……!?


 黄金の銃声が地下空間に反響し、ゆっくりと、最後の一閃が静寂に吸い込まれていった。


 カズの身体がストンっと膝から落ちるように崩れ落ち、漆黒の床に横たわる。


 網膜に投影されたログは、マスターID『一ノ瀬 和』のバイタル停止を冷酷に告げていた。


 それは本来、この世界における「永遠の別れ」を意味するはずだった。


「……うっ、あ……あぁ……っ!!」


 エリスは、血だまりの中に崩れ落ちたカズの身体を、そっと優しく抱きしめた。


「ごめんなさい、先輩ばかりこんな辛い思いさせてばかりで…」


 まだ温かい。つい数秒前まで、自分の頭に優しく手を乗せて、「また会える」と笑いかけてくれた人の温もりが、指先から残酷に逃げていく。


 カズが向かったのは、過去だ。


 死をトリガーにした強制的な時空跳躍。だが、見送った側の世界には、魂の抜けた「抜け殻」だけが遺される。


 エリスはカズの胸元に顔を埋め、声を上げて泣いた。


 だが、その涙はすぐに、凍てつくような焦燥へと変わる。

(だけど、今回だけはほんと何かがおかしいんです先輩!)


 エリスは顔を上げ、脳内のネットワークへ強制的にアクセスを試みた。


 カズが向かったはずの時間軸。そこには、過去の自分が存在するはずだ。自分たちの絆が、ネットワークを越えて微かな共鳴レゾナンスを返してくるはずだった。


 だが、網膜に映し出されるサーチ結果は、虚無そのものだった。


『接続先……不明。対象プロトコルが存在しません』

「……嘘。そんなはずは……」

 エリスの背中に、冷たい汗が流れる。


 カズが言った「俺もすぐに会いに行く」という約束。それが果たされるためには、戻った先に「エリス」という存在が定義されていなければならない。


 しかし、今の時空干渉の残滓を辿る限り、カズの意識が吸い込まれていった先は、自分たちの知る「過去」ではなかった。


 それは、エリスという存在が…いや、フィッツジェラルド家という歴史が、初めから一行も書き込まれていない――真っ白な『空白の世界線』。


「先輩……私は、あんな場所に、一人で行かせてしまった……」


 エリスはカズを引き留められなかった悔しさと後悔で無意識に唇を噛み切り、血を滲ませた。


 カズは今頃、誰もいない世界で、白紙の連絡先を見つめて立ち尽くしているはずだ。


 エリスを探し、アリスを探し、誰もいない世界で慟哭しているに違いない。


「……いいえ。まだ、方法はあるはずです」


 エリスは消えかけているカズの遺体を静かに床に横たえると、ふらつく足取りで立ち上がった。


 死に戻り(タイムリープ)という特権を持たない彼女が、世界線を越える方法。


 エリスの脳裏に、あの時の光景がフラッシュバックするあの時イデアの研究所に潜入した際に見かけた、ある『禁忌の遺産』の記憶が蘇った。


『旧イデアの研究所』。

 2100年の技術革新の裏側で、人類が踏み込んではならない神の領域に手を出し、歴史から抹消された場所。


 そこで見た、巨大な円環。そう彼女達はあの装置で…

 ――時空転送装置クロノス・ゲート


「死に戻りだけが、世界を超える手段じゃないです、先輩」

 エリスは傍らに転がっていた【光の聖剣】を拾い上げ、鞘に納めた。


 彼女の瞳には、もはや迷いはなかった。たとえ自分の存在が情報の藻屑と化して消え去ろうとも、あの孤独な世界で震えているであろうカズの元へ行かなければならない。


エリスは姉へと通信を繋ぎながら走り出していた。

「お姉ちゃん、あまり時間がないから、手短に話すね、私、これから過去に行って先輩を助けに行ってくるから、澪ちゃんをお願いね!」


 崩壊し、有毒ガスとナノマシンの霧が立ち込めるマザーサーバーを脱出し、エリスは夜の街へと駆け出した。


 2100年のネオンが虚しく光る、静まり返った東京の廃墟。

 数時間後、彼女が辿り着いたのは、地図からも抹消された山岳地帯の奥深くにある、旧イデアの地下研究所だった。


 分厚い鉛の扉を聖剣で切り裂き、地下深くへと降りていく。


 埃にまみれ、蜘蛛の巣のように張り巡らされたケーブルの奥の最下層。


 そこに、それはあった。


 重力制御ユニットを内蔵し、鈍い銀光を放つ、巨大な金属の円環。


「……動いて。お願い」


 エリスはナノマシンを媒介に、研究所のメインコンピュータへと脳を直結させた。


 ドクンッ!! と、脳を直接殴られたような衝撃が走る。

 数十年分のエラーログが網膜を埋め尽くすが、エリスはそれを強引に上書き(オーバーライド)していく。


『警告。動力源が不足しています。起動には、高出力の魔力触媒が必要です』


「魔力なら……ここにあります!」


 エリスは、自らの『光の聖剣』を転送装置のコアへと突き立てた。


 聖剣に宿る、神々しいまでの黄金の光。それはエリスの生命力そのものだ。


 ギィィィィィィン!! という、空間を裂くような高周波音が響き渡り、巨大な円環がゆっくりと回転を始める。


 青白いスパークが四方に飛び散り、円環の中央に、どろりとした銀色の『時空の裂け目』が形成されていった。


「先輩……待っていてください」


 エリスの身体が、転送装置の凄まじい引力に引き寄せられ、末端から光の粒子となって剥がれ落ちていく。


 この転送は、通常の移動ではない。

 「エリスが存在しないはずの世界」に、無理やり自分のデータを書き込む、宇宙の摂理への反逆だ。


 成功の保証はない。辿り着いた時、自分が「エリス」としての記憶を保っているかすら分からない。


 それでも、エリスは笑った。

 カズが最後に自分に見せてくれた、あの優しい笑顔と同じように。

「約束しましたから。……私が、先輩を見つけ出すって」


 エリスの姿が、黄金の閃光と共に次元の裂け目へと吸い込まれていった。


 後に残されたのは、役目を終えて沈黙した研究所の静けさと、床に落ちた一本の青いリボンだけだった。


第三章 第37話へとつづく


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

皆様、第36話はいかがだったでしょうか。

カズの遺体を前に泣き崩れるエリス……からの、次元を超えるという壮絶な決意。アリスにミオを託し、自分の存在が消滅するかもしれないリスクを背負ってでも「時空転送装置クロノス・ゲート」に身を投じるエリス。そして残された一本の青いリボン。

エリスは無事に次元の壁をこじ開け、孤独な世界にいるカズの元へ辿り着くことができるのでしょうか……!?

▼ 次回予告:第37話

舞台は再び、カズのいる「空白の世界線」へ!

誰もいない一ノ瀬家、消滅したフィッツジェラルド家。一人ぼっちのカズの前に現れるのは、希望か、それとも新たな絶望か……!

※「面白い」「続きが気になる」と、思って下さいましたたらぜひページ下部の**【★】での評価や【ブックマーク】**での熱い応援をよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、時空を彷徨うエリスを導く「光」になります!!

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