第三章:オブシディアン地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第35話:孤独のループと、消滅した世界線
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▼ 前話(第34話)のあらすじ
カズの決死の想いを乗せた『黄金の鎮魂歌』が、メカ・フローラの核を貫きました。
狂ったシステムから解放され、最期に本来の優しい笑顔を取り戻した姉・サクラ。彼女はカズとミオの未来をエリスに託し、光の粒子となって美しく散っていきました……。
――そして今回の第35話。
愛する姉を喪ったカズは、悲しみに暮れる暇もなく、すべてをやり直すために自らのこめかみに銃口を当てます。
しかし、それを引き止めるエリスの様子がいつもと違っていました。
「今回は、何かが根本的に違うんです」――エリスの悲痛な叫びを振り切り、死に戻り(タイムリープ)を決行したカズを待ち受けていたのは、予想だにしない『最悪の絶望』でした。
サクラの身体が光の粒子となって消え去り、地下空間には完全な静寂が訪れていた。
崩壊したメカ・フローラの残骸。焦げた鉄と、過熱したナノマシンの匂い。
その中央で、カズは両腕に虚空を抱きしめたまま、ただ一人、膝をついていた。
「……ッ、うああぁぁぁ!……」
どれだけ泣き叫んでも、最愛の姉はもう戻ってこない。
カズの網膜に投影されたステータスバーが、彼の激しい動揺に反応して赤く点滅している。
だが。
カズの瞳から、光は完全に消えてはいなかった。
悲しみに支配され、ここで心を折るようなヤワな生き方を、一ノ瀬 和は選ばない。
(……ミオは助けた。次は、絶対に姉さんを救う)
カズは床に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
その視線の先にあるのは、放り出された黄金の銃『アルファ・レオン』。
カズの意図を察したエリスが、ハッとして息を呑んだ。
「……先輩、まさか!」
「あぁ。やり直す。もう一度……姉さんが生きていた、あの時間まで」
カズはアルファ・レオンを拾い上げると、迷うことなく、その冷たい銃口を自らのこめかみへと突き当てた。
越えられない…十九回目の、『死に戻り(タイムリープ)』。
引き金を引けば、脳内の内部ストレージに刻まれたこの凄惨な記憶だけを持って、過去へと飛ぶことができる。
カズが引き金に指を掛けた、その瞬間。
「駄目ですッ!!」
シルバーのショートヘアをなびかせ、エリスが勢い良く飛び出し、カズの腕に力いっぱいしがみついた。
「エリス……?」
驚くカズを見上げるエリスの瞳からは、大粒の涙が溢れ出していた。
「ダメです! お願いですから、今は撃たないでください!」
カズは少し戸惑ったように眉を寄せた。
「どうしたんだエリス。今までも、俺はこうして時間を巻き戻して……」
「違います! 今回は、何かが根本的に違うんです!」
エリスは、すがるようにカズの服の袖を強く握りしめた。
彼女は感じていたのかもしれない。彼女だけにわかる直感の様なものが、カズに立っている『死のフラグ』が。このままループを強行すれば、取り返しのつかない事態に陥るという、本能的な警鐘が鳴り響いていたのだ。
「先輩に……この先、会え……会えない気がして……! とにかく、不穏な気配しかしないんです! お願いです、行かないで、一人にしないでください!!」
子供のように泣きじゃくり、必死に引き止めるエリス。
カズは、そんなエリスの頭に、空いたほうの手を優しくポンと乗せた。
「……泣かないでくれ、エリス」
カズは、銃を下ろすことはなかったが、底抜けに優しく、そして力強い笑みを浮かべた。
「俺が死に戻りした先でも……そこには『過去のお前』がいるだろ? だから、また俺に会えるじゃないか」
「それは……っ」
「お前は、ずっと俺を支え続けるって、さっき姉さんに約束してくれた。だから、戻った先の世界でも、また俺がエリスに会いに行く……だからまた一緒に手伝ってくれ」
カズのその言葉に、エリスは唇を強く噛み締めた。
先輩は、絶対に折れない。
家族を救うためなら、どんな地獄へでも躊躇なく飛び込んでいく。
それが一ノ瀬 カズという人間なのだと、誰よりも理解していたから。
「……絶対に、ですよ…?」
エリスは、震える手をゆっくりとカズの腕から離した。
「過去の私が……絶対に、先輩を見つけ出しますから」
「あぁ。俺もすぐに会いに行く!」
カズはエリスに最後の微笑みを向けると、目を閉じ、こめかみに当てたアルファ・レオンの引き金を――躊躇なく引いた。
ズガンッ!!
黄金の閃光が視界を白く塗りつぶし、カズの意識は、深い、深い時間の渦の中へと落ちていった。
* * *
「……っ、はぁっ!!」
カズは、大きく息を吸い込み、跳ね起きるように目を開けた。
網膜に投影されたシステムログが、静かに再起動を完了させる。
カズがいたのは、見慣れた一ノ瀬家のリビングのソファの上だった。
「戻って……きた」
カズは荒い呼吸を整えながら、自身の手元を見下ろした。
彼の手には、一冊の真新しい『花のアルバム』が握りしめられていた。
サクラへの誕生日プレゼント。
これだけが、デジタル化されたこの世界で唯一の、温かな「本物」だった。
「……今度こそ。絶対に姉さんを助けて、このアルバムを贈るんだ」
カズはアルバムを胸に抱きしめ、固く誓った。
サクラのあの悲しい最期は、もう二度と繰り返させない。
「まずは、エリスに連絡を……。それにアリスやアダムとも合流しないと」
カズは脳内で思考を走らせ、網膜に投影された通信システムを起動した。
ナノマシンを介した脳直結のコンタクトリスト。
カズは意識の中で、共に死線を潜り抜けてきた仲間たちの姿を思い浮かべた。
「……え?」
カズの思考が、凍りついた。
脳内に浮かび上がったのは、親しみのあるエリスやアダムの顔写真ではない。
そこに並んでいたのは、目鼻立ちのない、真っ白な『人型のシルエット』だけだった。
未登録。あるいは、ネットワーク上にそのIDが存在しないことを意味する、無機質な空洞。
「なんだこれ……バグか? システム、検索しろ! エリス、アリス、アダム……一人ずつ、個別にTELだ!!」
カズは脳内で必死にコマンドを選択する。だが、網膜には残酷なエラーメッセージが淡々と流れ続けた。
『対象がネットワーク内に見つかりません』
『ID:エリス……存在しません』
『ID:アダム……存在しません』
無機質な電子音声が、脳内に空しく響く。
カズの心臓が、バクバクと打ち始めた。
死に戻りをする直前の、エリスの泣き顔がフラッシュバックする。
『先輩に……この先、会え……会えない気がして……!』
「まさか……そんなはずない。エリスは、すぐ隣に住んでるんだ!」
カズはソファから飛び起き、玄関のドアを勢いよく開け放った。
2100年の冬の冷たい風が、カズの頬を殴りつける。
カズは、一ノ瀬家のすぐ隣――エリスが住んでいたはずの『フィッツジェラルド家』の豪邸がある方向へと視線を向けた。
「嘘……だろ……」
カズの口から、絶望の呟きが漏れた。
そこには、近未来的な意匠を凝らした豪邸など存在しなかった。
あるのは、錆びたフェンスで囲まれ、雑草が背丈ほどまで生い茂った、ただの『空き地』だったのだ。
まるで、何十年も前から、そこに誰も住んでいなかったかのように。
「エリスッ!! 誰かいないのか!!」
カズは狂ったように叫びながら、裏庭へと走り出した。
エリスと共に午後のティータイムを過ごした、離れの書庫。
バタンッ!!
ドアを力任せに開け放ったが、そこにあったのは、最新のアーカイブ端末も、エリスが用意してくれたティーセットもなかった。
あるのは、カビの生えた段ボール箱や錆びた自転車が乱雑に詰め込まれた、ただの『物置』。
床には分厚い埃が積もり、何十年もの間、誰も足を踏み入れた形跡すらない。
「あ、あああ……っ」
脳内の連絡先に浮かび続ける、真っ白な人型のシルエット。
カズは悟った。
ここは、エリスも、仲間も、フィッツジェラルド家という存在そのものも――最初からこの歴史に刻まれていない、絶望的に孤独な世界線なのだと。
第三章 第36話へとつづく
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。
皆様、第35話はいかがだったでしょうか……!
姉を救うために迷わず死に戻りを選ぶカズと、未来の嫌な予感を感じ取って「一人にしないで」と泣きすがるエリス。
「また俺がエリスに会いに行く」――そう約束して過去に戻ったカズですが、辿り着いた先は、エリスも、仲間たちも、思い出の書庫すらも『最初から存在しない世界』でした。
2100年の近未来設定ならではの、脳内コンタクトの「白紙のシルエット」が、静かな恐怖と孤独を際立たせています。
▼ 次回予告:第36話
誰もいない世界。仲間との絆がすべて消滅した世界線で、カズはどう動くのか?
そして、この世界での「ミオ」や「サクラ」はどうなっているのか……!?
物語は、誰も予想できない新たなフェーズへと突入します!
※「エリスの叫びが切なすぎる……」「嘘だろ、エリスたち存在しないの!?」「カズ、ここからどうするんだ!」と驚き、ハラハラしていただけましたら、ぜひページ下部の**【★で称える】や【ブックマーク】**での熱い応援をよろしくお願いいたします!
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