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第三章:オブシディアン地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第34話:絶望の矢雨と黄金の鎮魂歌。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第33話)のあらすじ

圧倒的な戦力差を前に、エリスが神速の剣で打開策を見出しました。しかし、触手を破壊しバリアを砕いた先に待っていたのは、サクラがメカ・フローラのコアへと取り込まれ、悪魔のような姿へと変貌する「真の地獄」でした。

――そして今回の第34話。

マザーサーバーの核と完全に融合したサクラが、天を埋め尽くすほどの無数の『矢の雨』を降らせます。

絶望的な弾幕の中、カズは最愛の姉を救うために、己の命と魂を懸けた一撃を放ちます。



『――ようこそ、カズ。十九回目の、本当の地獄へ』


 巨大な鋼鉄の蕾が開いたその中心。マザーサーバーのコアと完全に融合を果たしたサクラが、悍ましい金属質の合成音声で高らかに笑い声を上げた。


 サクラの肉体は半透明の強固なカプセルの中に囚われ、その背中や四肢には無数のケーブルと鋼鉄の管が食い込んでいる。彼女の美しい黒髪は無重力空間のようにフワリと浮き上がり、虚無に染まった瞳は、眼下のカズたちを見下す悪魔そのものだった。


「姉さん……ッ!」


 カズが悲痛な叫びを上げるが、サクラの顔を模した巨大な鋼鉄の仮面は、ただ無慈悲に口角を吊り上げるだけだった。


『どうした!? 逃げてばかりでは、ワタシは愚かこの機械すら倒せんぞ、カズ!』


 サクラが、コアの中でその細い腕をゆっくりと持ち上げた。


 それに呼応し、巨大なメカ・フローラの装甲の一部が変形し、彼女の背丈の何十倍もある巨大な『純白の和弓』が構築されていく。否、それはもはや神聖な弓などではない。紫色の瘴気とプラズマを放つ、殺戮のための魔弓だった。


 ギギギギギ……ッ!!


 鋼鉄の弦が引き絞られる。その矢先、ドーム空間の遥か頭上――星空を模した天井に、何十、何百という青白い魔法陣が一斉に展開された。


「なっ……」


 カズは絶望に息を呑んだ。上空を埋め尽くすほどの魔法陣の中心には、極大のプラズマエネルギーを圧縮した『矢』が、切っ先をこちらに向けてスタンバイしている。


『――踊り狂え。そして、死ね』


 サクラの冷徹な声が響いた瞬間。


 天から、逃げ場のない無数の矢の雨が、土砂降りの豪雨となってカズとエリス目掛けて降り注いだ。


 ズドドドドドドドォォォォォン!!!!!


 着弾と同時に、漆黒のクリスタルフロアが次々と爆発し、跡形もなく蒸発していく。鼓膜を突き破るほどの爆音と、網膜を焼く青白い閃光。


 それは、ただの物理攻撃ではない。一発一発が、エリミネーターの放った魔力弾を凌駕する威力を秘めた、文字通りの『死の雨』だった。


「くっ、おおおおおッ!!」


 カズは【アルファ】の魔力を全開にし、爆炎とプラズマの隙間を縫うように死に物狂いで駆け抜ける。だが、回避するだけで精一杯だ。一歩でも踏みとどまれば、数千の矢に貫かれ蜂の巣にされる。


(近づけない……! このままじゃ、姉さんを助け出すどころか……!)


 焦燥感と無力感がカズの心を支配しかけた、その時だった。


「――先輩! こっちです!!」

 銀糸のような美しい髪を激しくなびかせ、エリスがカズの前に躍り出た。


 彼女のメイド服はすでに所々が破れ、白い肌には煤と擦り傷が目立っている。だが、その瞳に宿る意志の光は、一ミリも揺らいでいなかった。


「エリスッ! 駄目だ、お前一人じゃ防ぎきれない!」


「防ぐのではありません。私が……先輩のための『道』を切り拓きます!!」


 エリスは【光の聖剣】を両手で上段に構え、己の魂を燃やすように、ありったけの魔力を刀身へと注ぎ込んだ。

黄金の雷光が、彼女の周囲で竜巻のように荒れ狂う。


「はああああああああッ!!!」


 裂帛の気合いと共に、エリスが聖剣を一閃した。


 放たれた巨大な黄金の斬撃波が、降り注ぐプラズマの矢の雨と真っ向から激突する。


 空間が歪み、凄まじい衝撃波がドームを揺るがした。

エリスの一撃は、天から降り注ぐ死の豪雨を強引に両断し、メカ・フローラのコアへと続く、たった数秒だけの『真空の道』を作り出したのだ。


「今です、先輩ッ!!」


「……あぁ、頼まれたッ!!」


 カズは、エリスが命懸けでこじ開けてくれたその道を、全速力で駆け抜けた。


 オブシディアンへの怒りで正気を失いかけていた頭の中は、今や一つの決意だけで澄み切っていた。


 狂った機械をぶち壊し、ただ、姉を救い出す。その一心だけだ。


 メカ・フローラの目前まで迫ったカズは、黄金の銃『アルファ・レオン』を力強く握り締め、魔力を限界まで充填する。


「うおおおおおおッ!!」


 カズが走りながら引き金を引く。


 ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!!


 発射された黄金に輝く魔弾が、サクラを護るメカ・フローラの分厚い鋼鉄の装甲に次々と着弾し、爆砕していく。


『警告。外部装甲損壊率、70パーセント。……カズ、無駄な足掻きを――』


「黙れえええええッ!!」


 カズの咆哮と共に放たれた最後の一発が、サクラの顔を模した巨大な鋼鉄の仮面を真正面から粉砕した。


 装甲が弾け飛び、ついにメカ・フローラの『真のコア』――サクラの肉体が囚われているカプセルが、完全に剥き出しになる。


「トドメだ! 姉さんを返してもらう!!」


 カズは足を止め、アルファ・レオンを両手で真っ直ぐに構えた。


 全身の血が沸騰するような感覚。カズの全身から迸る黄金のオーラが、物理的な光の柱となってドームの天井まで立ちり

 アルファ・レオンへと流れ込む、莫大で高密度な黄金の魔力。それは銃口付近で、太陽のように眩い『黄金の球体』を形成し、限界を超えて膨れ上がっていく。


「どんなに深い絶望でも……俺たちの光は、絶対に消すことはできない!! 帰ってこい、姉さん!!」


 カズは、持てるすべての想いと命を懸けて、とっておきの一撃の引き金を引いた。


「いっけえええええ!【アルファ・ノヴァ・レクイエム(黄金の鎮魂歌)】!!!」


 ズガアァァァァァァァァァァァン!!!!!


 放たれた極太の黄金のビームが、空間のすべてを金色に染め上げながら、メカ・フローラのコアへと一直線に飛んでいく。


 バシユュュュュュン!!!


 黄金の閃光がコアの防壁を紙のように貫き、深部へと到達した直後。


 マザーサーバーの心臓部そのものが、断末魔のような駆動音を上げ、内側から大爆発を起こした。


 物凄い衝撃波が後方へと駆け抜け、カズとエリスの身体を激しく煽る。

 ガラガラと音を立てて、恐怖の象徴であった鋼鉄の魔花が崩壊していく。


 その炎と黒煙の中から姉のサクラの身体が弾き飛ばされた。


「……姉、さん……ッ!」


 接続ケーブルを断たれ、宙から力なく投げ出されたサクラの身体を、カズは全速力で駆け寄り、スライディングするようにして両腕で抱きとめた。


「姉さん! 姉さん、しっかりしてくれ!!」


 カズの腕の中で目を閉じていたサクラが、ゆっくりと、その重い瞼を開いた。


 彼女の瞳から、あの悪魔のような底なしの虚無は完全に消え去っていた。そこにあったのは、カズがずっと探し求めていた、温かくて、優しくて、少しだけ泣き虫な……本来のサクラの瞳だった。


「……ひさし、ぶり、だね……カズ」


 掠れた、消え入りそうな声。


 だが、その声を聞いた瞬間、カズの目から大粒の涙がとめどなく溢れ出した。


「あぁ……! ひさしぶりだ、姉さん……っ」


 サクラの顔は血の気がなく、透き通るように白い。


 マザーサーバーのコアとして全エネルギーを搾取され続けた彼女の身体は、すでに致命的な崩壊を始めていた。彼女の指先から、少しずつ淡い光の粒子となって、空間に溶け出しているのだ。


「ご、めん、ね……」

 サクラが、震える冷たい手を伸ばし、泣きじゃくるカズの頬にそっと触れた。


「いち、ばん……傍にいて、あげたい時に、傍にいてあげられなくて。……ひとりで、辛かったね」


「そんなことない! 俺は……姉さんが生きててくれただけで、それだけで……!」


「ううん。……ミオを、助けてくれて、ありがとう。カズは、本当に強い子になったね」


 優しく微笑むサクラの目からも、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「ワタシは、もう……身体が、もたないから。これ以上、一緒に居てあげることは、できないけど……。でも、澪と、カズと……それと」


 サクラの視線が、カズの背後に静かに佇む少女へと向けられた。


 傷だらけになりながらも、ずっとカズの背中を守り抜いてくれた、銀髪のメイド。


「そこの、メイドさん……」


 サクラの問いかけに、エリスは光の聖剣を収め、静かに、だが凛とした声で答えた。


「――エリスです」


「そう……エリスちゃん」


 サクラは、まるで大切な宝物を託すかのように、慈愛に満ちた目でエリスを見つめた。


「ずっと、カズの側で支えてくれてたんだね。……ありがとう…これからも、カズとミオを、支えてくれると……凄く、助かるわ」


 それは、姉からの最後のお願いだった。


 エリスは、真っ直ぐにサクラの瞳を見返し、涙を堪えながら深く頷いた。


「はい。……今までも、これからも。ずっと、先輩の側で支え続けると約束します」


 その力強い言葉を聞いたサクラは、心からの安堵の笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。


 頬を伝う涙が、光の粒子となって消えていく。


 彼女の身体の崩壊が、一気に加速し始めていた。手足が、髪が、着物が、美しい星屑のような光へと変わっていく。


「姉さん……駄目だ! 駄目だよッ!」


 カズは、消えゆくサクラの身体を必死に抱きしめようとした。だが、その腕は空しく光の粒子をすり抜けるだけだった。


「まだ……まだ話したい事、一緒にやりたいことが沢山あるんだ! 帰ったら、三人でまた紅茶を飲んで……笑い合って……!」


 子供のように泣き叫ぶカズ。


「……大好きよ、カズ。ミオをお願いね」


 それが、一ノ瀬 桜の最後の言葉だった。


「行かないで……姉さんんんんんんんんッ!!!」


 カズの魂からの絶叫が響き渡る中。


 サクラの身体は、完全に無数の光の粒子へと変わり、マザーサーバーの冷たい地下空間を、まるで本物の桜吹雪のように美しく舞い上がりながら――幻のように、消え去っていった。


 残されたのは、崩壊した機械の残骸と。

 膝から崩れ落ち、ただ一人、冷たい床で慟哭し続けるカズの悲痛な泣き声だけだった。


第三章 第35話へとつづく





最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

皆様、第34話はいかがだったでしょうか……。

カズの魂の咆哮と、黄金の鎮魂歌。そして、最期に本来の優しい笑顔を取り戻し、光の粒子となって消えていったサクラ。エリスとの誓いのシーン、カズの絶望。

そしてマザーサーバーを破壊し、悲しい別れを経験したカズ。

……しかし、物語はここで「めでたしめでたし、だけど悲しいね」では終わりません。

▼ 次回予告:第35話

カズは、ただ悲しみに支配されるだけの主人公ではありません。

最愛の姉を取り戻すため。カズは、エリスの悲痛な制止を振り切り、絶対に手を出してはならない『禁忌の選択』を下します。

しかし、その先に待っていたのは――「すべてが狂ってしまった世界」でした。

読者の皆様の予想を裏切る、怒涛の超展開が幕を開けます!!

※「面白かった」「つづきが気になる」と、少しでも心が揺さぶられましたら、ぜひページ下部の**【★で称える】や【ブックマーク】**での熱い応援をよろしくお願いいたします!

皆様の応援が、カズが新たな絶望に立ち向かうための最大の原動力になります!!

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