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第三章:オブシディアン地下迷宮(マザーサーバー)奪還編 第31話:神技の銃弾と、分かたれた道

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

▼ くろねこパパのX(Twitter)はこちら!

https://x.com/k7nature1

▼ 前話(第30話)のあらすじ

ループを抜け、マザーサーバーの深部へ進んだカズたちの前に立ちはだかったのは、死んだはずの「本物のミオ」でした。

記憶を改竄され、巨大な死神の大鎌デスサイズを振るう小生意気な少女へと変貌してしまった妹。絶対に殺してはならない相手との、絶望的な死闘が幕を開けました。

――そして今回の第31話。

異常な戦闘力で襲い掛かるミオに対し、エリスとアリス、そしてアダムは防戦一方の苦しい戦いを強いられます。

「ミオを傷つけずに、あの首のデバイスだけを破壊するしかない」。

極限の状況下で、カズは自身の命と魔力を懸けた『神技的射撃』に挑みます!

カズの願いは、最愛の妹に届くのか!?

第三章:オブシディアン地下迷宮マザーサーバー奪還編

第31話:神技の銃弾と、分かたれた道


 ――ギャギイィィィィィン!!!!!


 凍てつくマザーサーバーの深淵で、光と闇が激突する甲高い金属音が、幾重にも反響していた。


 エリスの握る【光の聖剣】から溢れる黄金の光と、ミオが振るう巨大な【死神の大鎌デスサイズ】から迸る紫色の怨念が、互いを喰い破ろうと凄まじい火花を散らしている。


「あははははっ!! なぁ~んだ、光ってるだけで全然大したことないじゃん! もぉ~っと楽しませてよ!!」


 ミオが、その小柄な身体からは想像もつかない異常な膂力りょりょくで大鎌を押し込む。


 無邪気で、残酷な笑い声。かつてカズに向けていた春の陽だまりのような笑顔はそこにはなく、ただ破壊と殺戮を楽しむ『狂気』だけが彼女を支配していた。


「くっ……!」


 エリスの靴底が、強化フロアを削りながら後退する。

 彼女の力不足ではない。『本物のミオ』を傷つけてはならないという枷かせが、エリスの剣の冴えを鈍らせているのだ。


「ミオちゃん、もうやめて!!」


 横合いから、鋭い踏み込みと共にアリスが介入した。

 彼女は愛刀『三日月宗近』の峰を返し、紫電の魔力を纏わせてミオの死角から打ち込む。斬るのではない。雷の力で神経を麻痺させ、強制的に気絶させるための非致死の一撃だ。


 かつてオブシディアンに洗脳され、カズに刃を向けた過去を持つアリスだからこそ、ミオの痛みが誰よりも分かっていた。


「……シッ!」


 だが、ミオは背後を見向きもせず、大鎌の柄じえでアリスの峰打ちを軽々と弾き返した。


「お姉さん、邪魔しないでよぉ、今メイドさんとミオは遊んでるんだから!」


「くっ……なんてデタラメな力……! 洗脳でリミッターを完全に外されているのね!」


 弾き飛ばされたアリスが、床を滑りながら体勢を立て直す。


 タタタタタタッ!!


 乾いた銃声が響き、アダムの放ったアサルトライフルの弾丸がミオの足元の床を正確に穿つ。跳弾による牽制だ。


「チッ、いくら俺でも、本物のカズの妹相手じゃ急所は狙えねえ! カズ、どうする!? このまま防戦一方じゃ、ジリ貧で全滅するぞ!!」


 カバーに隠れながらアダムが怒号を飛ばす。

 カズは、歯が砕けるほど強く奥歯を噛み締めていた。

 アルファ・レオンを構える手は、冷たい汗で濡れている。


(どうする……どうすればいい!?)


 アルファの魔力を最大出力で放てば、ミオを吹き飛ばせるかもしれない。だが、その衝撃で彼女の生身の肉体がどうなるか分からない。


 かといって、このままではエリスたちが限界を迎える。

 焦燥感がカズの心臓を締め付ける中、彼の視線は再び、ミオの首元に食い込む『デバイス』へと吸い寄せられた。

 黒と銀色の金属。不気味に明滅する青白いインジケーター。

 ミオがカズたちへ強い殺意を向ける度に、そのデバイスのランプが激しく点滅し、紫色の毒のような魔力を彼女の脳髄へと送り込んでいるのが分かる。


(……あのデバイスが、ミオの意識を奪っている。なら、あれを壊せば……!)


 カズは銃口をデバイスに合わせようとした。しかし、すぐに絶望的な事実に気づく。


(駄目だ。コアの部分を直接撃ち抜けば、内部の魔力が暴走して爆発する危険がある。あるいは、直結しているミオの脳神経を焼き切ってしまうかもしれない……!)


 ミオを無傷で救う方法は、ただ一つ。

 コアを破壊するのではなく、ミオの首の皮一枚の隙間を通し、デバイスを固定している『金属のバンド』部分だけをピンポイントで切断すること。

 だが、それは正気の沙汰ではなかった。


 ミオは常人の動体視力では追えない超高速で動き回り、大鎌を振り回している。その動きの中で、わずか数ミリのバンドだけを狙撃するなど、神にしか不可能な所業だ。少しでも照準がブレれば、カズの放つ黄金の弾丸は、愛する妹の首を吹き飛ばしてしまう。


「きゃあっ……!!」


 エリスの悲鳴が上がった。

 ミオの変則的な大鎌の軌道に光の聖剣が弾かれ、エリスの体勢が大きく崩れる。


「隙ありっ! 死んじゃえ、メイドさん!!」


 ミオが満面の笑みで、無防備なエリスの胴体へ向けて大鎌を横薙ぎに振り抜こうとする。


「エリス!!」


 カズの頭から、一切の思考が吹き飛んだ。

 迷っている暇などない。失敗の恐怖に怯えている余裕などない。


 俺が撃たなければ、エリスが死ぬ。撃ち損ねれば、ミオが死ぬ。


(……やるしかないッ!!)


「エリス! アリス!! 一秒でいい、ミオの動きを完全に止めてくれ!!」


 カズの魂からの叫びが、マザーサーバーの空間に響き渡った。


 その声に込められた『覚悟』を、エリスとアリスは瞬時に理解した。カズが何をしようとしているのかは分からない。だが、二人はカズを絶対的に信頼していた。


「……ッ! お姉ちゃん、今です!!」


エリスが倒れ込みながらも、光の聖剣の刃を――ミオの振り下ろした大鎌の柄の下へと滑り込ませ、強引にその凶刃の軌道を上空へと逸らした。


「ちっ……邪魔っ!」


 ミオが忌々しげに舌打ちをし、力任せに大鎌を引き戻そうとする。

 ミオの小さな身体が大きく体勢を崩し、黒いフードがバサリと後ろにめくれた。


 その瞬間、彼女の首元に食い込む『青白く光るデバイス』が、完全に無防備に晒された。


「先輩、今です!!」


 床に片膝をついたエリスが、悲痛な声で叫んだ。


「……ッ!!」


 カズは、すでに黄金の銃『アルファ・レオン』を構えていた。


 だが、引き金に添えた指が、恐怖でガタガタと震えている。


 狙うのは、ミオの細い首に巻き付いた、わずか数センチの黒いバンド部分のみ。


 もし数ミリでも狙いがブレれば。もしミオが不規則に動けば。


 カズの放つ【アルファ】の魔力弾は、最愛の妹の首を消し飛ばしてしまう。


(撃てるのか……? 俺に)


 あの日サクラのクローンを泣きながら撃ち抜いた、あの冷たい感触がフラッシュバックする。


 また、自分の手で家族を撃つのか。


「カズ!! 迷うな、撃てぇッ!!」


 背後から、アダムの怒号が飛んだ。


 アリスが、ミオの退路を塞ぐように日本刀を構えて牽制に走る。

 エリスが、アダムが、アリスが……俺を信じて、この一瞬の「隙」を作ってくれたんだ。


(……ミオを傷つけるためじゃない。ミオを、取り戻すために……!!)


 カズは、奥歯を力いっぱい噛み締め、呼吸を止めた。


 世界から、すべての音が消え去る。


 カズの内に眠る【アルファ】の魔力が、黄金のオーラとなって銃身へと収束していく。


「アルファ……! 頼む、俺に……あの子の呪いだけを撃ち抜く力を……!!」


 カズの瞳が、極限の集中によって黄金色に発光した。


 ミオが体勢を立て直し、再び大鎌を構えようとカズを睨みつけた、その刹那。


 ――ズドンッ!!!!!


 マザーサーバーの深淵に、一発の銃声が轟いた。


 放たれた黄金の弾丸は、ミオの首の皮一枚の隙間を、文字通り『針の穴を通す』ような神技的な精度で駆け抜けた。


「え……?」


 ミオが、間抜けな声を漏らした。

 直後。


 彼女の首に食い込んでいたデバイスのバンド部分だけが、黄金の光に撃ち抜かれ、パァンッ!と甲高い音を立てて砕け散った。


「きゃぁぁっ!?」


 呪縛の要であったデバイスが破壊された瞬間、ミオの全身から紫色の電撃が激しく迸り、巨大な死神の大鎌がガラガラと音を立てて床に転がった。


「ミオッ!!」


 カズは銃を放り捨て、全速力で駆け寄ると、全身の力が抜けて崩れ落ちるミオの身体を抱きとめた。


「……あ……、……」


 カズの腕の中で、ミオが薄く目を開ける。

 小生意気で冷酷だった瞳から、ドス黒い淀みが消えかけていた。


 焦点の定まらない目で、ミオは目の前のカズの顔を見上げる。


「……お……兄、ちゃん……?」


 それは、カズがずっと聞きたかった、あの優しくて甘えん坊な、本物のミオの声だった。


「ああ、そうだよ。俺だ、ミオ……!」


 カズの目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

 だが、ミオの意識はそこまでだった。

 無理やり魔力を引き出されていた副作用と、長年の洗脳が解けた反動により、彼女の限界を超えていた身体は完全にシャットダウンし、深い昏睡状態へと落ちていった。


「ミオ……! ミオ!!」


 カズが叫ぶが、彼女は穏やかな寝息を立てるだけで、目を覚まさない。


「落ち着いて。……命に別状はないわ。ただ、オブシディアンの深い洗脳と魔力の枯渇で、心と身体が一時的に『休眠』しているだけ」


 駆け寄ってきたアリスが、ミオの額にそっと手を当てて静かに告げた。


 同じく洗脳の地獄を味わったアリスだからこそ、そのダメージの深さが痛いほどに分かっていた。


「……よかった。本当によかった……」


 カズは、冷たかったミオの小さな手を両手で包み込み、安堵の涙を流した。


 だが、安堵している余裕はなかった。


 ここが敵の心臓部であることに変わりはない。

そして、最大の元凶はさらに奥にいるのだ。


「カズ」


 周囲を警戒していたアダムが、厳しい顔でカズを見下ろした。


「この子を連れて、これ以上奥へ進むのは不可能だ。かといって、ここに放置もできねえ。……俺とアリスで、この子を護りながらここで防衛ラインを構築する」


「アダム……アリス」


「エリス二人で、先に行きなさい」


 アリスが、決意に満ちた目でカズを見つめた。


「ミオちゃんがこうなっていたということは……奥にいる『お姉さん(サクラ)』も、きっと私たちと同じように……。本当は、私が行って止めてあげなきゃいけないのに。ごめんなさい……」


「謝らないでくれ、アリス。……ミオを護ってくれるだけで、十分だ」


 カズは、ミオの身体をそっと床に寝かせ、立ち上がった。


 その顔から涙は消え、代わりに、オブシディアンに対するドス黒く、冷酷な怒りの炎が灯っていた。


「エリス」


「はい、先輩」


 傷だらけのメイド服を纏ったエリスが、光の聖剣を手に、カズの隣へと並び立つ。


「アリス、アダム。……ミオを頼む」


「ああ、任せとけ。背中は死守する。一ノ瀬家の借りは、きっちり一ノ瀬家で返してこい!」


「気をつけてね、二人とも」


「あぁ、必ず家族と共に帰ってくるよ!」


 カズとエリスは、二人に深く頷くと、マザーサーバーのさらなる深淵へと通じる巨大な防爆扉へと向き直った。

 ミオをこんな目に遭わせた、狂ったシステム。

 そして、その最奥で待つであろう、もう一人の最愛の家族。


「……行こう、エリス。全部、終わらせるぞ」


「はい。どこまでも、一緒に行きます、先輩!」


 分かたれた道。

 カズとエリスの二人は、オブシディアンの真の闇を払うため、決意の歩みを進めた。


第三章 第32話へとつづく

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!作者のくろねこパパです。

皆様、第31話はいかがだったでしょうか!

エリスたちが身を呈して作った一瞬の隙。そして、カズの極限の集中から放たれた黄金の弾丸。

デバイスが砕け散り、ミオが本来のあるべき姿に戻りました。

しかし、ミオを無事に奪還した代償として、チームはここで分断されることになります。

動けないミオを護るために残るアリスとアダム。そして、すべての元凶を断ち切るために、二人だけで最深部へと向かうカズとエリス。

▼ 次回予告:第32話

重い防爆扉の向こう側。マザーサーバーの真の心臓部でカズとエリスを待ち受けているのは、ミオに「いちばんの敵」と教え込んだ張本人――最愛の姉、一ノ瀬 サクラです。

次なる戦いは、これまでの比ではない、真の絶望と悲壮な決意が交錯する死闘となります。

※カズが愛する妹の為に全力を尽くす姿に思わず胸が熱くなりましたら、ぜひページ下部の**【★】での評価や【ブックマーク】**での熱い応援をよろしくお願いいたします!

皆様からの応援が、次なるサクラとの死闘を書き切るための最強の原動力になります!!

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